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巻一

空から女の子!突拍子もないことから始まる冒険!仲間との深まる絆!次々と襲いかかる困難!そして、目もそらしたくなる現実……。

最後まで目が離せない冒険が今始まる!!

※因みに某文学作品のパロディーです。(笑)

 フロン・シン。昔、そんな英雄が我が星、アースにはいたらしい。勇敢で、かっこよく、さらに強いもんだから世の女達からは求愛され、幾多の戦を乗り越えてきた戦士の鏡でもあった。 

 しかし、そんな英雄伝説も今は昔。ここにいるフロン・シンは違った。

意気地無しで容姿はヒト、犬、猫、さらに魚、どの種で比べても平均的。しかもバカで運動音痴、そしてここに方向音痴とまで来た。恐らく、「勇者」の採用試験があれば、書類選考まですらいけないだろう。そんなシンが世界を揺るがす大冒険に足を踏み入れるとは誰が想像しただろうか?


「明日の朝は早いんだから早く寝なさいっ」

シンの母親の怒鳴り声が家中に響く。

「ふわぁーい」

とシンは欠伸混じりの生返事を返した。

 シンはもう十八歳。母親の言うことを素直に聞くようなお子ちゃま時代は勉強と同時に卒業したのだ。シンの考えでは、あと四年間勉強したいとさらに上の大学校へ行くやつもいるが、自分から勉強したがるやつなんて頭がおかしい。すでに頭の中はすっからかんの空っぽ。することもないからスケジュールも空っぽ。唯一入ったスケジュールは明日の家族旅行くらいだ。シンはしっかりと荷造りはした。楽しいことの準備は早い。着替えに財布、大好きなスナック菓子。あとは荷物を詰めた鞄を持ち、旅行に出掛けるだけだ。

 その夜はなかなか眠る事が出来なかったが、それは悪い生活習慣によるものでいつものことだった。眠れないので窓の外から見える夜空を眺めた。雨が降りそうに雲が何重にも重なっているせいで星は見えない。ただ、雲の奥に顔を出したばかりのサテライトの影がうっすらと東の空の低い位置に見えるだけだ。目の前にはイロテカの木が鬱蒼と繁った森が広がっている。ちなみにイロテカの木とは木炭の原料で質もいいのでブランド品の木炭として街では人気がある。シンはたまにその木を切り街に売りに出る。そこそこな金になるのでシンはイロテカの森を、「金のなる森」と呼んでいる。しかし、その夜は違った。なんと「金になる森」になっていたのだ。

 木々が黄金に煌めいている、と言うより黄金の光が森を染めていると言った方が正しい表現だった。

 母親も父親も気づいていない様子だ。山奥の別荘だから他の誰も気付くはずもないから、今、この現場を目撃しているのはシン、たった一人。

――もしかしたら光を発する中心に黄金の山があるのかもしれない。それとも黄金のバンブルの木が生えているのかもれない。それを独り占めしたら、父親の会社のあとを継ぐ収入の比じゃない。世界一の大富豪だって夢じゃない。一生遊んで暮らせる。

 そう企んだシンは早速、忍び足で家を抜け出し、宝の山を積み込むための荷車と黄金のイロテカの木を切り倒すための斧をその荷物に乗せ、軽い足取りでイロテカの木々の間を進んだ。

――もう少しでオレは億万長者だ。

シンの億万長者が近づくにつれてあまりの眩しさに目をまともに開けていられなくなってくる。手で顔を覆って光を遮る。

宝の山は心臓が脈打つように周期的に光を発している。

 シンは恐る恐る発光する光の山に手をのばす。

すると、手に何が触れた。細い糸が何本もある。光がだんだんと丸みを帯びて小さくなっていく。光の中身がだんだんと姿を現した。中には、宝の山もなければ、光るイロテカの木も無かった。

 ただ一人の女の子だけだ。シンが触れたのは女の子の髪の毛だったのだ!


 雲間のサテライトの光が二人を幻想的に照らし出す。夜風が二人の間をすーっと吹き抜ける。女の子は顔をしかめる。そして、女の子は髪に触っているシンの手を払う。

「気安く触んなっ」

言葉が早いか、拳が早いか。シンの耳に女の子の言葉が届いたときには時には、シンの腹部に女の子の拳がめり込んでいた。シンはその場にうずくまった。

「ううぅ…。な、何すんだよ、てめぇ」

とシンは怒りを込めて怒鳴ったつもりだったが、腹を殴られた衝撃で声はか細く、弱々しすぎて迫力がなかった。

女の子は立ち上がって、シンを見下ろす。

「あんたがいきなり触るからやろっ!!そう言うデリカシーのない男の子、無理やわぁ」

いきなり腹部にヘビー級のパンチを決める女の子にデリカシーとか言われたくない、と言い返そうとしたが、それを言うと次は命がないと思ったシンは口を紡いだ。

シンは穏和な雰囲気を取り持とうと違う話をふってみた。

「それより君は……誰ですか?」

女の子はハキハキと言った。

「うちの名前はルミーユ。今、サテライトから来たの。」

あまりにもすんなり言われたものだからシンはおかしな点に気付くのに数秒かかった。

「ど、どこから来たって?ま、まさか今、サテライトって言わなかった?」

「言ったけど、なにか?」

とルミーユは当たり前であるように首をかしげた。

これも身の危険を感じたシンは口に出さなかった。

 何度か説明もなくスルーしてきたが、この機会に説明を挟む。「サテライト」と言うのはまさに「衛星」の事である。衛星は、ある星の周りを公転する星のことであり、サテライトの場合は「アース」の周りを公転している。そして、勘のいい方はお分かりの通り主人公のシンはアースの住民であり、ルミーユはサテライトの住民だと主張しているのである。

 この二つの星は近くにありながらも、交流は皆無であった。その理由としては、科学技術の限界、人々のサテライトへの認識、またはアースの人々の宗教観にも深く関わりがあった。まとめるとお互いにとって宇宙人同士、未知との遭遇なのである。


 ゆっくり話を聞こうと思い、シンはルミーユと言うサテライト人を自分の部屋まで案内した。家に入ると両親を起こさぬように足音鳴らさぬように歩いた。まだまだ、夜は長い。

シンは部屋に入ると改めてルミーユをしっかり見た。言葉では表せないほど美しく完璧な衣服を着た、ごく普通のどこにでもいそうな女の子。年齢はシンとあまり離れていないように思える。首には金色の丸いペンダントをつけている。それはシンに会釈をするように、きらりと瞬いた。先ほどの光を発していたのは、きっとこのペンダントだったのだろう。

「そういや、まだ、うちはあんたの名前聞いてへんかったよなぁ?一応、聞いとくわ」

とルミーユはいたずらな笑みを浮かべる。

やっぱりどこにでもいそうだ。

「オレの名前はフロン・シン。昔、同じ名前の英雄が…」

そこでルミーユはシンの言葉を遮る。

「あんたの名前しか聞いてへん。昔の英雄なんて知らんがな」

いちいち言い方がきつい。


シンはさっきから疑問があった。

―――サテライトは西の方の訛りなのか……。

とその時、シンは根本的なことに気付いた。

「あのさぁ、今気付いたのだけど、サテライトとアースで全然違う星なのにどうして言葉が通じるんだろう?」

「知らへんわ、そんなこと。通じへんよりはいいやん」

とルミーユは興味なさそうに持ってきた大きなリュックサックの中身を探りながら答える。それを言われちゃあ、それまでのこと。

 

 興奮も冷めないまま、ルミーユを質問責めにしていてどれくらい時間が経っただろうか。

シンは少しうたた寝をしてしまったらしい。こんな状況下にあっても眠ってしまった自分に正直呆れた。夜は明けておらずまだ暗い。夜風が肌寒く身震いがする。ルミーユとか言うサテライト人と出会ったのは夢の中であったのかもしれない。いや、そうに違いない!!

―――窓を開けっぱなしにしてたのか。そうか。昨日はこの窓から森が光っているのを見たんだっけ。

 シンは部屋の窓を閉め、ルミーユが眠っているはずのベッドを見た。

そこにルミーユはいない。シンはルミーユとの出会いはやっぱり夢だったのだと思った。あんなに奇想天外な現実は非現実的過ぎる。


 しかし、その考えは一瞬で消え去った。部屋の隅にルミーユの持ってきた大きなリュックサックが置いてある。シンの脇を冷たい風が吹き抜ける。シンはルミーユを探してドタドタと家中を死にものぐるいで走った。

しかし、ルミーユは家の中のどこにもいなかった。


 シンはもしかしてと思い、外へ出た。

ルミーユはイロテカの森の入り口の手前で一人佇んで雲がまだ残る夜空を見ていた。シンは胸をなで下ろす。

サテライトの明々とした光が二人に降り注ぐ。

「眠れないの?」

ルミーユは頷く。

「なんだか、こんなに遠くまで来てんのがのが信じられんくて。昨日はこうやってサテライトからアースを見てたのに今日は全くその逆になってるって」


 二人はしばらく黙って星空を見上げた。東の空は山際から明るく染まり始めているが赤々と光るサテライトはまだ西の山の間に留まり続けている。

「夜明けは冷え込む。風邪をひいてしまうよ。さぁ、家に入ろう」

ルミーユは軽く頷き家へ向かった。

シンは戸をガラガラガラと開けて家に入った。

そこにはシンの両親が立っていた。


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