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第四夜 幸せの基準


 世界一と謳われている、否、云われていた女性の美しく整った顔が引き攣った。無理やり作った笑顔が怖い。

「どーいう意味よ、それは」

「そのまんまだ」

「笑わせないでちょうだい。私のどこにあの子が勝っているっていうの」

「まぁ一番の敗因は若……」

「あんたね、それ以上言ったら叩き割るわよっ」

今にも殴りかかってきそうな剣幕でそう言うと、どすどすと足を踏みならして部屋から消えた。折角の美貌が台無しだ。鏡の隣で木箱が笑った。

「一番の問題はその性格だよねぇ。まぁ可愛いっちゃ可愛いけど」



 さほど待たずして、彼女は鏡の前に現れた。勇ましい仁王立ちをして。自信に溢れたどこか満足気な顔。鏡はそっと溜息をつく。

「さあて、答えてもらいましょうか。この世で一番美しいのは誰なのかをね」

「もう誰でもよくないか」

「いいわけないでしょ。あなたに口応えする権利はないのよ。とっとと答えなさい」

鏡が渋々とその名を告げると彼女の顔から血の気が引いた。握りしめられた両手が震えている。

「あの野郎……。まったく、役に立たないんだから」

部屋を飛び出して姿を消した彼女を木箱の呆れた声が見送った。

「ねぇ、あれ本当に一国のお妃さまなわけ?」

鏡は何も言わなかった。

 


「何してきたんだ」

「なんでもいいでしょう。それより、あなた。この世で一番美しいのは誰かしら」

自分の勝利を信じて疑わないその瞳。鏡には映し出された事実を喋ることしかできない。

「そんなに期待された目で見られてもな……」

「何よ、はっきり言いなさいよ」

数分後、妃は部屋に置いてあるものに手当たり次第怒りをぶつけてから去っていた。

「あーあ、今日も荒れてるねぇ」

「……いい迷惑だ」

「私にはあなたが一番美しい、ぐらい言ってあげればいいじゃない」

「俺に美醜はよくわからん」

そっけない鏡に木箱は肩を竦めた。



 妃は再び動いたようだった。彼女は一度の失敗では諦めることはないらしい。その行動力は称賛するべきか。

「この私にかかればあんな小娘一人どうってことないのよ。この世で一番美しいのは、私でしょ?!」

得意げなその態度。取り繕ってはいるが必死さが伝わってくる。鏡が答える前に横やりが入る。

「はいはい、もーさぁ、そう思ってるならいそれでいいじゃないですか。わざわざ鏡に答えてもらわなくても」

お妃はぎっと音が聞こえてきそうな勢いで木箱を睨みつけた。それに構わず鏡は淡々と答えた。

「白雪が生きてる限り、あの子がこの世で一番美しい」

「何言ってるの。だから私が。……まさか」

続きは言葉にならなかった。



――そして。

「白雪が消えた今、あなたがこの世で一番美しい」

凄まじい執念でついに目的を達成し、妃は満足した日々を暮らしていた。しばらくして木箱は鏡に話しかけた。

「何か――不満そうだね」

「別に……ただ、不思議なだけだ。美しいといわれることにそんなに価値があるか?」

「まぁ、人それぞれだよね」

木箱は鏡を横目で見遣った。乙女心に疎いこの鏡。

「君にとっては意味のない言葉だもんね。……じゃあさ、君にとって価値のある言葉って何?」

わざとらしく首を傾げた木箱に鏡は珍しく言葉を濁した。



 あるとき、お城に招待状が届いた。白雪からのメッセージに気色食む妃を木箱と鏡は宥めようと努めていた。しかし興奮した彼女は聞く耳を持たない。

「行かないほうがいい。彼女を消すつもりだろう?」

「当たり前でしょう!」

「白雪がいなくなっても何も変わらないだろう。自分に自信がないから、気持ちに余裕が持てないんだ。そうしていつまでも怯えて暮らすのか?」

「だったらどうしろっていうのよ……!」

「なぁ、白雪を殺すより、もっと簡単な手があるだろう」

妃は何か言いたそうな目をして口を引き結んだ。鏡は辛抱強く彼女の言葉を待った。

「鏡よ、鏡、鏡さん。あなたがこの世界でもっとも愛してるのはだぁれ? ってね」

「お前は黙ってろ!!」

鏡は余計なことを言う木箱に突っ込んだ。

「俺は甘い嘘も囁けないし、あなたを喜ばせる飾った言葉も持たない。だけど真実を伝えることはできる。それは一番よく知ってるだろう?」

「ねぇ……」

彼女の口がゆっくりと動いた。頼りなさげに、しかしその瞳は期待を含んで。

 

 

鏡は微笑んだ。

普段の表情からは考えられないほど優しく。

「もちろん。それはお妃さまでございます」


こうしてお妃さまは毎晩鏡の出す答えに満足して眠るのでした。めでたし、めでたし――?



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