第二夜 ゆーあーまいん。
「なんですって?」
自分の耳を疑いつつ、お妃は鏡を睨みつけた。
「あ、あの、でも僕は!お妃さまのほうがずっと好きです。とっても綺麗だと思ってます!」
鏡の必死の訴えにもお妃は耳を貸さなかった。すでにその頭の中は白雪をどう葬るかで埋め尽くされていた。
「その眩い金色の髪! 透きとおる肌! 吸い込まれそうな青い瞳!!」
「あなた、もっと語彙を増やしたほうがいいわ」
「……!」
「鏡ですからね、お妃さま。勘弁してあげてください」
鏡にしゅんと垂れている耳が見えてくるかのようで、木箱は思わず口をはさんだ。お妃に冷たくあしらわれた鏡はかわいそうなくらい落ち込んでいた。
一週間後、再び訊かれた問いに鏡は恐る恐る答えた。
「あの娘、まだ生きてるの?」
向けられる冷たい視線に鏡は息をのんだ。
「ご、ごめんなさい」
「あなた……苛々させないで」
鏡は怯えたように口を噤んだ。二度の失敗はお妃さま不機嫌にさせていた。
だけど、お妃さまは諦めなかった。
「もちろん!貴女が一番、この世で誰よりも美しいです」
このときを待っていたとばかりに意気込む鏡は自分の頭で思いつく限りの言葉で精一杯お妃を褒め立てた。拙い言葉にも、お妃は白雪姫に勝ったという事実に満足したようだった。久し振りのお妃の笑顔に鏡はぱたぱたとしっぽを振った――ように木箱には見えた。
それからは穏やかな日々が続いていた。
「この世で一番美しいのは誰かしら」
「それは、お妃さまです!」
「……とかなんとかいって、白雪姫が一番美しいって言ったのはどの口かしらね」
元気いっぱいに叫んだ鏡にお妃は意地悪くほほ笑んだ。対する鏡はおろおろとするばかりだ。微笑ましいやりとりに木箱の顔も綻んだ。
そんなある日、お城に一通の招待状が届いた。
それはお妃の目に留まる前に、真実を映し出す鏡の知るところとなった。
「どうしよう……どうするの? お妃さまが僕のいうこと聞いてくれるとは思えないし……でもこのままじゃ」
「白雪は一度死んだ、王子はそれがよかったみたいだけど。君にならできることがあるんじゃない? 死人はこの世界にいてはいけない。それがこの世の理でしょ」
悩んだ鏡は木箱の言葉についに決心をした。
「ちょっと、あの鏡はどこへやったのよ」
尖るお妃に木箱は素知らぬ顔で応えた。
「さて、どの鏡でございますか」
「あの……あの、お世辞の一つもうまく言えないうるさい鏡よ!」
「白雪のところに送りました。あれの希望ですよ」
平然と言う木箱にお妃は唖然とした。同時に彼女の心にまたどす黒い感情が渦巻いた。
「どういうこと……?」
「貴女のもとにも結婚式の招待状が届いたでしょう。あの鏡は真実を映しにいったのです。安心してください。白雪がいなくなれば貴方が一番美しいのは確実ですよ」
「そういう問題じゃ……!」
「あれの最初で最後の我が儘です。受け入れてやってください」
お妃はへなへなと座り込んだ。そして力なく首を振った。
「そうしたら、私は、どうしたらいいのよ……どう……」
「貴女には新しい鏡をご用意しますよ。でも、もしも」
木箱は妃に手を差し伸べて優しく笑いかけた。
「もしも貴女がどうしてもと言うならあれを取り返してくるのも――それもまたいいかもしれませんね」




