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第一夜 はじまりの鬼畜鏡さん


白雪姫の母上が亡くなって、新しい女王がお城に来ました。

ところが、この女王は魔女だったのです。

「鏡よ、鏡……世界で一番美しいのはだぁれ?」

「それはお妃さま、貴方でございます」

穏やかな笑みを湛えて忠実に求める答えを出す鏡に上機嫌な女王さま。

彼女はまだ知りません。彼が繰り返すその答えは鏡にとっては何の意味もない言葉だと。


女王は、毎朝鏡に向かって「世界中で一番美しいのは誰」と聞くのが習慣でした。

ところがある日鏡に聞くと、鏡は「それは白雪姫です」と答えたのです。

お妃の機嫌をとるために様々な人間が彼女に褒め称えました。

しかし彼女の怒りは収まりません。

何度聞いても鏡は白雪姫の名前を吐くばかり。

「あの女を始末して!」

女王は怒って、家来に白雪姫を殺してしまうよう命じました。

そうして女王は、鏡に聞いてみると、鏡は「一番美しいのは、白雪姫です」と答えたので、白雪姫が生きていることを知りました。

女王は自ら行動することに決めました。


一方で不機嫌な女王に鏡は顔色一つ変えません。

これまでは誰しもが女王の機嫌を損ねまいとしてきたというのに、鏡だけは女王の思い通りにはなりません。

嫉妬に狂っていく女王の姿を見ても鏡はただその笑顔を崩さすに繰り返される問に答えるだけでした。


ついに林檎で白雪姫の毒殺に成功した女王は平穏な日々を取り戻したかのように見えました。

しかし彼女に以前のような覇気はなくなっており、その心を占めていたのは他でもない鏡でした。

彼の言葉はただの事実にしか過ぎない、そのことに女王は気づきました。

鏡から名前を告げられる一瞬の喜び、そして訪れるのは空虚な感情でした。

そんなある日、鏡から知らされた女性の存在に女王は半狂乱になってその場に出かけて行きました。

そこで待ち受けるものを彼女が知るはずもありません。

あとには結婚式の招待状と、鏡だけが残されました。

「彼女が踊る姿はさぞ美しいだろうね」

主人がいなくなった後でも、いつもと変わらぬ顔で鏡は微笑みました。




白く細い脚、赤く燃える靴、振り乱される金色の髪。

そして耳を裂く高い声――恐怖に引き攣る顔。

鏡の脳裏には女王の姿がはっきりと浮かび上がっていました。

「この世で一番美しい」

鏡は呟くと、蕩けるような笑みを浮かべました。

それを影から見ていた木箱はその表情に愛さえ感じて眩暈がしました。




――哀れな女。歪んだ鏡に魅せられて。

「美しさに順位をつけるなんて、さ」

木箱の呟きは誰にも届かず空気の中に消えました。




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