第九章
「おい!起きろよ!」
由希の目が覚めたのは、男の声と、体に走る苦痛からだった。どうやら、由希は手足を大の字にされ、拘束されているようだった。由希はその状態に軽いパニックを起こしてしまった。いくら拘束器具をガチャガチャと動かしたところで、どうにかなるわけでもない。だんだん状況が飲み込めてきたのか、その抵抗もなくなってきた。
「よし。じゃあ、今から、君の取り調べを行う」
どうやら、この男たちは、由希の正体を調べたいらしかった。
「始めに聞こうか。お前の名は?」
「松野由希」
「あと、年齢と住所を教えな」
「え?どうしても言わなくてはダメですか?」
少し男の顔を見た。男の目付きは鋭く、由希は背筋がぞっとなり、冷や汗が流れた。
「えっと、十三歳で、住所が、あの、その、☆●区の★丁目です…」
ここで嘘を述べれば、いったいどんな目に遭うか、分かったものではない。そこはしっかりと事実を述べたが、一つ、絶対に答えてはならない、質問もあった。何回か質問があり、その後についに、その質問が出た。
「えっとな。なぜお前は俺たち、部羅都苦反怒のとこに侵入してきたんだ?」
この質問には答えることはできなかった。本当は祖父の家に行こうとしたという理由もある。だが、いつかはその嘘がばれてしまうかもしれない。そのため、由希はあまり言いたくなかったのだった。
「どうしても、言わねぇつもりみたいだなぁ。よし。やっちまえ!」
何をするつもりなのか、数人の男たちが立ち去った。しかし、数分の間に彼らは戻ってきた。男たちの手には、スイッチを持っていた。いったいどうするのか、男はためらいなく、そのボタンを押した。
ビビビビビビビビ
身体中に衝撃が走った。髪の毛や全身の体毛が、逆立っていくのが分かった。指の先が痺れ、感覚が麻痺をしていく。あまりの衝撃にほとんど声も出なくなっていた。
「……っあ……っあぁ……」
わずかなこの声も、本来なら、かなりの大声を出しているつもりだったのだ。数分ばかり衝撃は続いた。
「言わねぇと、次は倍の電圧を流し込んでやる」
さっきのであの衝撃だ。いったい、倍なんて量を流されたら、いったいどうなってしまうのだろうか。これは身体が持ちそうにもない。言うことを聞くしかなさそうだった。
「おばあちゃんの家に、遊びに行こうとしてました」
「よし。言ったな」
男の一人は、由希の言った言葉をメモしていた。恐らく、由希の正体を調べておこうとしているのだろう。
「じゃあ、お前のおばあさんの名前はなんだ?」
「松野じゅん子。ここの隣の家だわ」
「くっくっく。そうか。間違えてこんなとこに入っちまったのか」
「そうよ…」
由希は男に苦し紛れでそういった。しかし、男の反応は
「ふざけんな!隣の家はすでに売家だっつうの!」
驚きだった。まさか、隣は適当に考えた、だが、まさか売家だとは。大変だ。何か修正しないと。
「間違えたわ。もう一つとなりだったかも」
「くそやろう!隣はビルだっつうの!てめぇ!嘘つきやがったなぁ!」
もう終わりだ。この計画は失敗してしまった。
ズギャャャャャン
由希の体に電気が流れ、まもなく気絶した。