第七章
和弘は翔と由希に言った。
「うぅん。繋がらないなぁ」
「あぁ。そうだなぁ」
和弘の親戚の今野茂明は、確かに借金をしていた。そして、いつか消息を経っていた。だが、和弘の両親は、なぜか同じ暴力団に被害にあっていた。その理由が分からず、悩んでいた。
「なぁ。もう調べることは出来ないのか?」
「あぁ。もうほとんどの情報源を使い果たしたからな」
情報がかぎりなくあるわけでもない。どうしようかと悩んでいると、さっきまで、香織の世話をしていた、由希が言った。
「ねぇ、その暴力団の、本拠地はないの?」
「あぁ。すこし電車で移動すれば、すぐに見つかると思うけど」
由希はしばらく考えて、ある提案をした。
「じゃあさ。おとり作戦は?」
二人は一斉に由希を見た。驚きのあまり、言葉も出なかった。
「だめだよ…そんな作戦…」
和弘は力なく否定した。これは、最も和弘が嫌だった方法だった。しかし、背に腹は変えられないと思っている自分もいた。
どうやら、この作戦はひとり、おとりを使って、いろんなことを聞き出し、逃走して警察に連絡するという、あまりにも危険すぎる作戦だ。
「相手は暴力団だからなぁ。いったい何してくるのか、分かったものじゃない!」
翔は否定したが、由希の強い意思に変化はなかった。
「じゃあ、あなたたちはやらなければいいわ。私一人でやればいいのよ」
由希は一人でもやるつもりだ。
(もう、止められない)
そう思った和弘は、由希に言い聞かせた。
「だったら。重要なことだけを、聞き出してこい。無駄な闘争心をかきたたせないようにして、ダメだって思ったら、すぐに逃げてくるんだ。いいな?」
今は由希に任せるしかない。そう思ったのだ。しかし、翔は猛反対した。
「ダメだろ!危ない!和弘!どうかしちまったのか?こんなことを由希に任せる気かよ!正気か!しっかりしろよ!」
由希の力強い発言を、ただひたすら、危ないと翔は言い続けた。
「だったら、翔。何か作戦はあるか?これなら、絶対に大丈夫だっていう作戦があるのか?」
翔には答えられなかった。
「ありがとう。和弘」
由希は支度を始めた。
服装はいつもしているのと変わらない。女の子らしい服装だ。そして、小さな手提げ鞄。中には財布と地図が入れた。
「和弘。こんなもの、いれてどうするの?」
入れたのは、由希ではなく、和弘だった。
「あぁ。今から由希には、『部羅都苦反怒』の本拠地に行ってもらうよ。本拠地で怪しい行動はしてほしくないから、この地図を持って歩くんだ。そしたら、多少の言い訳にあるはずだよ。まぁ。何でもいいから。気を付けて帰ってきてくれよ」
和弘は心からそれを願った。もしも彼らに捕まって、怪しまれて消されるようなことでもあったら、和弘はきっと、この世の中には、居られなくなってしまうであろう。