第二章
放課後。和弘は翔と由希を連れ出し、家に帰ってきた。
「おじゃましまーす」
何も音がしない、その家に入った。
「あれ?お母さんたち、いないじゃん?」
「うん…」
和弘は小さく答えた。
和弘たちは、無言のまま座り尽くしていた。翔や由希も、どう言えばいいのか分からない。すぐに帰ってくるよ。そんな言葉で終わらせれば、和弘はとても傷つくだろう。それを由希たちは分かっていた。
「なんか、わりぃな。こんな空気になっちまって」
和弘が頭を掻いた。
「いや。そんなことはないよ。だって、和弘、そんな思いでいたなんて」
「悪かったな。つまんねぇ冗談言って」
由希も翔も、どう言っていいか分からず、ただそう言った。再び、沈黙が漂った。
始めに重い口を開けたのは、由希だった。
「決めた!私、これから、和弘を支えてあげる。何かの手助けをしてあげる」
由希の目は本気だった。そこには、断る余地さえ与えないという、気迫さえ感じられた。
「俺も。何かしたい!お前の親を探すのを手伝ってやるよ!」
翔も本気だ。断るなんて、二人の信頼を断ち切るのと一緒だ。和弘は協力してもらうことにした。
次の日から、新たな生活が始まった。
「おはよ。まだ寝てるの?香織ちゃんより寝坊してる」
朝は由希が家にやって来る。家事などを手伝ってくれるのだ。それを由希にお願いしたのは、理由があった。香織は女の子だ。女の子にしか分からないことも、多いはずだ。そのために、由希にしたのだ。そして由希を幼稚園に送り出し、中学校に行く。そこで翔に進展を聞く。そして家に帰って、由希と一緒に家事。夜にやっと宿題ができる。一日休む間もない。
「はぁ。これがお母さんが味わってた、大変さなのかぁ」
和弘はつくづく感じた。そのなかで、唯一元気なのが、香織だった。
「ママ、いつ帰って来るかなぁ?」
和弘は、適当に受け答えしながら、家事のあとの食事を頬張っていた。
「ん。意外とおいしいじゃん」
由希と一緒に。
「ってか、なんでお前まで一緒に食ってんだよ!」
「えぇーーっ!それぐらい良いじゃん!うぐっ。えぐっ」
由希は涙を流した。
「うぐっ。か、和弘の、ケチ〜。うわぁぁぁぁん」
「なっ、何も泣くことないだろ!」
「あぁ!お兄ちゃん、泣かした〜」
香織にまでここまで言われた。
「もう!分かったよ!良いから食え!まったく!」
「え?いいの?」
「……」
うそ泣きだった。
一日経っても、二日経っても、親は見つからなかった。
「借金抱えたりはしてねぇんだろ?」
「ああ。そんな様子、一切見せなかったぞ」
「だったら、もっと他の線で考えてみるか」
翔はメモ取りをして、考えた。翔の交遊関係は、幅広いからだ。
(はっきり言って、時々怖いときがあるからな)
かなりの情報通なのだ。
いつも和弘は、由希と一緒に帰っている。由希も和弘も、部活は入っていない。そのため、結構早い時間に帰ってこられた。
「和弘〜。家の掃除もちゃんとしないと〜」
そして、たまに由希がやって来て、ちょっかいを出しにくる。これが一週間続いた。