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最終章

和弘が目を覚ました場所は、由希が閉じ込められている、あの牢屋だった。

「よかった。和弘。目が覚めたね」

由希は和弘のことをずっと心配してくれていたようだ。

「ゆ、由希?」

「そうよ。よかったわ。目が覚めて」

「ここは?」

「被害者が集まる牢屋よ」

「ってことは、母さんらも?」

「うん。一緒の牢屋に」

確かに辺りを見渡せば、すでに眠りについた、父母がいた。

「いててっ」

和弘は、痛みを帯びた場所に、手をやった。すると、その場所に包帯が巻かれていた。

「あれ?この包帯は?」

「私の服。ちょこっとずつ、破いて作ったのよ」

確かに由希の服は破れていた。

「ありがとう。由希。お父さん。お母さん」

和弘は三人に礼を言って、眠りについた。

次の日から、和弘、由希の初めての強制労働が始まった。強制労働はかなりきつい。いや、きついなどと言うものではなかった。少しでもサボろうものなら、体がボロボロになるまで、痛めつけられた。

「いったいいつになったら固まるんだろ?」

「さぁ?でもあんまり喋らない方が良いわよ」

由希と和弘は何とか連絡を取っていた。そして、ついにチャンスが訪れた。次の指令を出すために、三人の監視が固まっていた。

「いまだ!みんないくぞー」

和弘の父の言葉と共に、三十人ほどが、監視に殴りかかった。多勢に無勢で、監視はこっぴどくやられ、ついに監獄からの脱出が開始された。どうやら、道を知ってるものもいるため、スムーズに外へ出れた。だが、想定外の出来事が起きた。監視カメラのことを忘れていたため、写ってしまっていたのだ。すぐに応援が駆けつけ、取り囲まれた。そこには、一人幹部らしき人物も混じっていた。

「逃げようとするとは、君たちは不器用な人間だな。今ここで働いていた方が、外で辛い人生を送るよりずっとましなのに。ちなみに、何も悪いことをしてない人も、工作員の力で、悪事を働いたことになってるから。やめといた方がいいぜ」

男は諭すように言った。だが、誰も引くものはいなかった。

「ふぅ。じゃあしかたない。消えてもらおう!」

その言葉と同時に、周囲にいた一人の男性が、銃のトリガーを引いた。ところが、由希はその人の顔に、見覚えがあった。

「あっ!あんたは!」

そうだ。公園に連れていかれ、由希の真実を話させて、牢屋に送り込んだ、張本人だった。向こうも由希に気がついたようで、少し目を反らした。

「どうした。早く消せ!」

彼は引き金を引いた。

「パァァァァァァァァァン」

ピストルの乾いた音が響いて、一人が倒れた。

「な…!?」

男性は驚きの表情を見せて倒れた。それもそのはずだ。逃げた和弘らを撃つかと思うと、くるっと回り、いきなり見方に撃ったのだから。

「ん……!?」

その状態に、由希も和弘も、驚きを隠せなかった。

「あ、あなた。どうして?」

「どうせ君は、僕を裏切り者だと思ってるだろう。別にそれでもいいさ。僕、嫌われてるのは慣れているからね。だから別に、ただの仲間割れだよ。これは」

源駿人と名乗った、その男は、由希に向かってそう言った。

「ふはははは!きさまぁ。ついにやってくれたなぁ。でも、この俺は、きさまが何かやらかすことは、すでに予測していたよ。残念だったなぁ。消えてもらおう。スパイさん」

駿人はついに囲まれた。絶対絶命のピンチだった。全員がピストルを構えて、撃たれそうなはめになった。

「くそっ。あの人もピンチになったじゃんか」

「で、でもっ」

由希には、いまいち信用が出来ずにいた。

「でも、せっかく助けてくれたのに、見殺しにするわけには行かないよ」

「でもっ。また、また裏切られるかも。そんなの、私嫌だよ!」

「だけど、こんな状況で逃げ出せても、全く嬉しくないよ!」

由希は和弘の情熱に押されかけていた。

「わ、私、もう、信じられない。あの人は一度、私を裏切ったんだもん。わ、私は…」

涙が溢れた。どうしてか分からないが。やがて、嗚咽にも変わっていった。

「だってぇ……ううっ…うぇっ…何も間違って……ないよぉ…うぅぅ。うわぁぁぁぁ」

ついに大泣きに変わった。辛かったのを、今洗い流すかのように、大声で泣き続けていた。

和弘はそんな由希に涙を見せた。

「辛かったな。さみしかったな」

「そんなの…。慰めになってないよぉ…」

涙ながらに、由希は答えた。

すると、和弘は由希を抱き締めた。強く、強く。初めは由希も混乱したが、次第にことが分かりはじめた。

「和弘…。ありがとう」

しばらく、和弘の温かさに浸っていた。

駿人はその姿を見たあと、こう言った。

「さぁ。消すなら消せ!早く!」

「ようやく決心がついたようだな。じゃあな。スパイさん」

全員が引き金を引こうとしたとき、

「やめろぉぉぉぉ」

和弘は力をこめ、殴りにかかった。軽くあしらわれたが、何度も立ち上がり、殴りにかかる。また、あしらわれ、再びあしらわれる。もう一度、もう一度。また。また。何回も。何回も。

「しつけぇな!」

顔に直撃し、吹っ飛んだ。よろよろと和弘は立ち上がった。すると、

「めんどくせぇ。こいつから先に始末してやる」

男が銃口を和弘に向けた。


やばい


「あばよ!」


バン!


銃から放たれた弾丸が、腹を貫いた。

「しゅ、駿人さん!」

駿人は腹を押さえて倒れた。

「駿人さん。しっかりして!駿人さん!駿人さん!」

由希が駿人に声をかけた。というより、叫んだ。

「しゅ、駿人さん。しっかりして!お願い!死なないで!」

「ゆ、由希さん。ぼ、僕は、嘘をついてはいないんだ…」

駿人は、震える手で警察手帳を見せた。

「これがどうかしたんですか?」

「それはな、本物なんだ…。ついさっき、君の友達が通報をしてくれたらしい。ここに来るのも、時間の問題だろう…。よかったな…」

由希はよく分からなかった。ただ、源駿人は裏切り者だったが、内乱を起こして、身を呈して守っただけだと思っていたのに。なぜか違う感情が生まれた。そんなことではない。そんな感情だ。

だんだん外が騒がしくなり、

「動くな!警察だ!」

警察が突入し、助けてくれた。


次の日、由希と和弘は、駿人の病院に出掛けた。どうやら、腹を撃たれただけだったので、たいした重症にならずにすんだらしい。

「失礼します」

病室には一人部屋で、テレビを見ていた、駿人がいた。

「あぁっ。由希ちゃんと、お友だち、入ってよ」

駿人は手招きして、病室に招き入れた。

「さっそくですけど、昨日の続きをお願いします」

「あぁ。あのときのか。たしかね」


どうやら、彼が持っていた、警察手帳は、本物のもので、潜入調査をしていたのも、本当だったようだ。駿人が潜入調査をしているのは、今野茂明を最後に守れなかったからだ。茂明のようなものを守るのが仕事なのに、守れなかった。そんな自分の無力感のために、部羅都苦反土の崩壊をさせようとしたのだ。

「実はな。僕の父も、同じようにして、危険な目にあったんだ」

彼もまた、大変な目にあったのだ。

「私、あなたみたいな警察官になりたいです」

「俺も」

和弘と由希がそう言った。


再び、家族での平和な時間がやって来た。そして、この愛は欠けることはないだろう。何年たっても、何年たっても。


ご愛読ありがとうございました。

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