第十一章
真っ暗な闇で視界が効かない。光一つない空間に、由希は閉じ込められていた。どうやら、手を前から拘束されているらしく、手を自由に動かせられない。しかし、何とか手探りで確認すると、どうやら、鉄の柵で囲われているような感じだった。肌寒さに凍えていると、急にライトがついた。いきなりのことで眩しかったが、そのとき、初めて自分の状態に気がついた。由希は捉えられ、牢屋の中に放りこまれていた。中央に通り道があり、その右と左の両脇に、牢屋が何個もあるのが見てとれた。ここが牢屋だと分かると、すぐそばの牢屋の中を見た。
(もしかしたら…)
由希の考えは正しかった。どうやらここは、四人で一組らしく、どの牢屋にも四人が入っていた。自分の牢屋にも、当然、四人入っていたが、由希はその人の顔に驚いた。二人は由希もよく、知っている人物に似ていた。向こうもそれに気がついたのか、こう言った。
「由希ちゃん……?」
「おばさん?おじさん?」
三人が一丸となって探していた人が、そこにはいた。
「どうして由希ちゃんがこんなとこに?」
「あなたたち二人をずっと探していたんですよ。和弘や翔と一緒に」
「和弘、あの子ったら」
母は涙を流した。しかし、父にはまだ疑問が残っていた。
「じゃあ、どうして君が捕まってるんだ?」
由希はことの次第を全て話した。
「そうか。それは迷惑をかけたね。今、ここの脱獄の計画が立てられているんだ。間もなく完成するから。由希ちゃん。一緒に和弘のところへ帰ろう!」
「はい!」
由希も計画に加わり、準備が進められた。
部羅都苦反土の本拠の前に、和弘はいた。もう辺りは暗く、あまり見えなかったが、見張りが彷徨いているのは分かった。その見張りの目を上手に避け、中に入ることができた。和弘は中を見渡した。見渡すかぎりでは、どこにいるのか分からなかった。歩いてくる幹部を、上手に避けて、やはり、いろんな場所を探し回ったが、どこにも由希は見つからなかった。
「どこだよ。由希…まさか、本当に殺されたのかよ」
しかし、首を振った。そんな縁起でもない。
由希たちは作戦を実行に写そうとしていた。作戦のことは、父が言っていた。
「俺たちは、毎日一日中ずっと仕事をさせられるんだ。その仕事場では、いつも見張りが三人ついてる。その見張りが、一つの場所に固まったときに、いっきに攻めるんだ。相手は三人、こっちは四十人はいるんだ。どう転んでも、こっちが勝つに決まってるさ」
父は相当な自信だった。
(これは、のってみる価値はありそうね)
由希はその案を一緒に実行することにした。
和弘は、徹底的に場所を調べていたが、どうにもならず、一旦出ることにした。しかし、危機的状況に陥っていた。廊下にいたところ、両側から、人がやってきた。絶対に部羅都苦反土の人間だ。それに挟み撃ちにあってしまったのだ。
(大ピンチだぁ!)
いそいで影に隠れたが、バレるのは時間の問題だろう。
「こっちは異常無しだ」
「こっちもだ」
「何か、さっきある影をみたんだがな」
「どんなだ?」
「人の影ではあるんだけど、隠れたんだよな。あそこに」
そう言って、和弘が隠れている場所を指差した。
「おぉっ。確かに、何か反応があるぞ」
サングラスに何か仕掛けがあるのか、男が言った。
「よし。確かめよう」
男たちは、二人がかりで、ゆっくりと回った。和弘はまずい事態へと直面した。
(やばいよ。これはまじで!)
和弘に様々な案が駆け巡り、ついに決めた。
男たちは和弘の姿を見て、にやっと笑った。
「おいおい。こんなところになんのようだい?にーちゃん?」
「いけないなぁ。勝手に入ってきちゃ!」
男はピストルを構えた。
「じゃあな。あばよ」
いきなりの射撃に慌てふためいたが、いまさらどうしようもない。
「おりゃあ!」
和弘は靴を投げた。靴は直線で男の顔に直撃した。
「よしっ。逃げよう」
走ろうと立ち上がった、その瞬間。
「ズキュン」
和弘の足に、赤く血が滴り落ちた。男の持つピストルからは、煙が出ていた。
「がはっ!」
和弘の体は大きく揺らめいた。
「ドキュン」
もう一発、腹に撃たれた。
「うがぁっ」
和弘は地面に倒れた。それを何度も蹴り飛ばす男たち。和弘の意識はすでに、朦朧としていた。やがて、暗くなった。