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絶対にラブコメがしたいヤンデレデカ強ガールVSそれだけは嫌なひねくれチビ弱ボーイ

作者: ほつれ
掲載日:2026/03/27

よろしくお願いします!

 これもきっと、温暖化が進んだせいだろう。

 4月を讃えるはずだった並木道の桜苗木たちは枯れつつある。


 もしくは、俺の入学を否定しているのか。


 特に理由もなく、そこまで頑張らなくても受かりそうだからと選んだこの高校。

 受験勉強なんか特にしなかった故にか、デビューと文字が浮かびそうな感情は今のところない。


 大晦日のショッピングモールさながらの人の波の、隙間を縫うように進んでいく。

 しかもミシン縫いだ。


 全員が全員、俺よりも背が高い。

 それは女子も含めて。

 不服。全くもって不服。


(まあ、世の中身長じゃないし)


 こんな数の人間が集っているが、新生活が始まるというのにこんなことを考えているのは俺くらいだろう。

 本当にどうでもいいと思っているなら、考えもしないはずだから。


 目の前にそびえる階段を上がる。

 踊り場からもう一回。


 登り切った。


「はあ……」

(結構疲れるな)

 2階だというのに、俺の息は軽くあがってしまっている。

 これから週に五回はこれをしないといけないと思うと憂鬱極まりない。


 辺りを見回す。

 右は……自習室か。正面はどう見ても教室じゃない。

 教室の扉があんな銀行の金庫みたいなやつなわけがないし。


 左には、ずっと廊下が続いている。すぐそばの部屋には


“31組”


(31……あっ3年か)

 続くように21,11。


 つまり2年と1年のクラスか。


「変な順番だなあ」


 こういうのは普通学年で揃える者だと思うのだが、高校だとどうやら勝手が違うらしい。

 それか、この高校が変わっているのか。


 いや多分この高校が変わっているのだ。

 そうに違いない。


 とりあえず、11組に進んでいく。

 1歩、また1歩。

 その度に湧いてくる、何とも言えない緊張感。


 そんなつもりはなかった。

 根拠のない期待なんてしているつもりはなかったのに、俺はどこまで言っても人間なんだ。


 その緊張とともに浮かぶのは、漫画・アニメの風景。


───学校……青春とイチゴのように甘酸っぱい人間ドラマ。


 その恋の末、1人の少女が選ばれて───


(なんて、絶対しない!送らない!)


 転校生とのキスなんか、絶対しない。

 その日にラーメン食ってやる。


 俺は、そんなものになんか踊らされない。

 俺は……俺は───


 横に扉を開く。


(好き勝手生きるんだ!)

 一歩、教室の中へ足を踏み入れた。


「いやマジ昨日さ───」

「ダハハハハ!!」「えぐいって!」


 座って、または立って騒いでいる幾許かの男たち。


「いくよ~?あいっチーズ───」

「いえ~い」「うぇ~い」


 早速スマホを触って、インカメで写真を撮る女子集団。


 どうやらあの噂は本当らしい。

 入学前にSNSでコミュニティを形成しているというあの噂は。

 確か専用のハッシュタグもあるんだとか。


 まあそんなことしなくても、俺は友達作れるもんね。

 嗚呼、やってのけるとも。


 そう、敢えてしなかったんだ。

 元々SNSをあんまり触らなくて、昨日初めてそのことを知ったとかそういうんじゃなくて。

 ()()()、しろうとしなかったんだ。

 けっして面倒臭かったわけじゃない。


 それよりも。


(えっとあいつは……)


 いないみたいだ。

 まだ来ていないだけなのか、それとも別クラスか。


 とにかく、あいつが来る前に友達1人だけでも作っておこう。


(ともなれば……)


 俺は吟味するように人を見回す。

 これで目が合えば、速攻行ってやる。


「っ!」


 合った。

 眼鏡をかけて、誰かと話すわけでもなく何か本を読みながらキョロキョロしてる男の子。


 俺はすかさず小さく手を挙げて挨拶。

 向こうも小さく首を縦に振った。


 まだ恥ずかしいんだろう。


 なんて運がいい。

 急いで駆け寄って、その子の机に手を置く。


「おはよ」

「うん……」


 元気がない。

 こういう時、何を話せばいいんだ。


 まあとりあえず、適当に話を続けないと───


「いやほんとに…人多かったよね~~」

「まあ、入学式だしね」

「え、人多いの結構いけるの?」

「んーちょっと苦手かな、ははは……」


 まずい。少し押してしまっている。

 これでは質問攻めじゃないか。


 なら……


「わかるー!何か気つかっちゃうよね」


 一旦共感だ!

 これでひとまず相手に寄り添う。


 上手くいくか……


「そうだね」

 完璧、とはいかないまでも少しだけ和らいだみたいだ。

 昨日動画見ててよかった。


 そしてこのまま───


「「……」」


(あー!)


 なにも浮かばない。

 このままじゃまずい。

 これから先とりあえず挨拶はする間柄になってしまう。


(何か……どこ住んでるの、は弱いな。……じゃあこの本は───)


“異世界プロレタリア革命記”。


(全く知らん!これもダメか……じゃあ───)


「ほんとに今までの話にさ、何の因果関係もないんだけど」

「?」

「いつも家でなにしてるの?」


 どうだ。ちょっとボケを挟みつつの話題切り替え。

 結構高等テクなんじゃなかろうか。


「ハハハ…んーそうだね何してるか……」

 ちょいウケだ。

 まあぼちぼちだろう。


 というよりも、特に何も浮かんでないみたいだ。

 ここはイメージ。


 何となく……ゲーム、そうゲームが好きそうだ。

 まあ完全に見た目、というよりかは眼鏡からのイメージだけど。


「ゲームとかしないの?」

「あーするよ」

「どんなの?」

「えっとね……」


 俺から目線を外して考えている。

 いや考えているよりも気をつかってるのか。


 証拠に、外してはいるけどチラチラとは見てる。

 ということはそこまでメジャーじゃない。


「FLOWゲーっていうの、よくやってるかな」


(FLOW……どこかで……あっ!)


 そうだ。高難易度かつ独自のダークな世界観のゲームを作るで有名な会社、


“FLOW SOFTWARE”。

 その難しさ故に一般受けはしないけど、熱狂的なファンが多いんだとか。


 彼もその一人だったのか。


俺の記憶では、新しい方の引き出しにしまわれていたその社名とゲーム。

そう、昨日のことだ───


───かなりのゲーマー、それもオフラインのゲーマーな俺はの新機種、いや次世代機種“SWOTCH2”に出てくるソフトの発表動画を見ていた。


 あの有名なゲームの続編、しばらく世に姿を現さなかったあの会社の久しぶり新作。

 驚かされてばかりだった45分の35分目あたり。


『つづいて、ソフトメーカー様の最後のタイトルになります』

「おお……」


───そういって出されたのがFLOW SOFTWAREの完全新作タイトルだった。


 なら、いけるかもしれない。


「へーFLOW好きなんだ。じゃあさ、昨日のやつ見た?」

「昨日の?」

「ほら、SWOTCH2のさ発表会!」

「発表……?あっあー!あったあった!」


 ギリギリいけた。

 このいま感情が高いうちがチャンスだ。


「そうそれでさ、その新作出てたからさ」

「そうなんだ!へー」

「そこでちょっとデビューしてみようかなって思ってるんだよね。どう?面白いの?」


 本で読んだ技術、また使えてしまった。

 興味ある素振りからの質問。

 もはやあの本、全人類が買うべきだろ。


「そうだね、僕は楽しいかな」


 多分この子は、自分から話すんじゃなくて聞くタイプなんだろう。

 


「やっぱ雰囲気とか?」


なんとなく、気が合いそうだ。


「うん」

「へー」


 もうこれは、友達ができたと言ってもいいだろう。


 やればできるんだ俺は。

 そうともなれば───


「そうなんだ……」


 適当に場を繋ぎながらそろそろ撤退しないと。


「じゃあ俺荷物おいてトイレ行ってくるね。じゃっ」

「うん」


 そう言って振り返り、自分の席を探す。

 この子が端の方だから、クラスがよく見えるな。


(えっと、月見里(やまなし)月見里(やまなし)……)


 多分30番くらいだろうけど……あった。


「一番前か……」

 左端から1つ右の席。

 荷物を置いて座ってみるけど、黒板は照り返しは左窓からの照り返しはあるけどよく見えそう。


 とはいえ1番前。

 普通の人なら外れといって、下手をしたら泣きわめくだろう。

 下手をしたら。


 しかし、俺は違う。

 むしろ大歓迎だ。黒板は良く見えるし先生の声だってよく届く。

 しかも、実は一番後ろよりも先生からは見えにくい。


 一番前最高!ありがとう月見里!


 ……その前にトイレに行きたい。

 結構早めに来たはいいものの、来る前にすませるものをすませていなかった。

 故にお腹が痛い。


 俺は決意を固め、トイレへ向かう。

 幸いご近所さん、匂いも届いてしまいそうなほど近い。


 中を覗く。

 何人かの生徒はいるけど、思ったより空いている。


 立ってされてらしている方々の後ろにお邪魔しつつ個室へ。


「ふう……」


 今日家を出てどのくらいだろう。

 無意識に気を張っていたから、独りの空間になった途端この狭さではありえない解放感に包まれる。


(しばらくいよう)



 茶色い汚物を好きなだけ出した俺は、洗面所へ向かった。

 スッキリ。何という爽快さ。

 意外と学校のトイレは侮れない。


 まさかウォシュレットまでついてるなんて。


 それよりも───


「あれ?」


 これどうやって……

 とりあえず手を突き出す。


「うわっ!」

 まさかセンサー式なんて。

 ハイテクにも程があるだろ。

 もはやオーバースペック。


 手を濡らして、ハンドソープ。

 これは普通に押すやつだ。


 普通に助かる。

 適当につけて、手の全体、指・爪の間まで丁寧に洗って───流す。


「あれ?」


 手を出してるのに出ない。

 グッパー!グッパー!


 よし、出た。


 ほらね、技術に振り回されている、

 たまにあるセンサー切れるみたいなのどうにかならないんだろうか。

 AIの開発よりも優先すべき事項が、今目の前にあるというのに……


なんて考えているうちにすっかり洗い終え、自前のハンカチで水を拭きとる。


「よしっ行くか」


 次は何の話をしようか。


 とりあえず廊下に出る。


 さっきは相手に聞いてばっかだったし、次は俺の話でお互いに理解を深め合うとする……か……


「うそ……だろ……」


 奥に見える、ひと際大きい人影。

 上にだけじゃない。“デカい”という言葉がふさわしいように全体的に。


 来た。きっと来た。


「っ!」


 まずい。

 気づかれた。


 どこに……どこに隠れ───ない!

 俺の左奥には階段を挟んで教室が続いている。

 こんなの絶対に空いてない。鍵がかかってるに決まってる。


 やばい!こっちに走ってきてる。すごい速度。


 とりあえず───


(階段で、時間を稼ぐ!)


 走る。走る。

 さながらチーターのように、この数メートルも命を懸ける。


 階段。

 全身全霊で駆け降りる。

 怖い!こんなことしたことないからものすごく怖い!


 踊り場を越えまた階段。

 

 速い。かなり速いぞ!

 我ながらプロ並みに速いんじゃないか。


 もう下り終えて後ろを見る。


「は?」


 奴は……奴は……

 さながら滑り落ちるかのように駆け下りている。


 そのまま、嬉々とした表情で俺に走って───


「みなとぉ~~!!」

 ゴリラの攻撃の如く正面衝突。


「ごぶふっ!」

 大きく柔らかい胸、飛び出ているが固い腹。


 そして───


「いっ!」


 石のように固い地面。

 気遣ってか頭に手を回していて、なんとか直は免れたものの……


「なにしてくれとんじゃ!」

「えへへ」


 体勢で言ったらラグビーのトライさながら。

 もちろん、その時ボールとなるのは俺の方。


「すぅぅぅ……」

 俺の首筋に鼻を当てて、深く息をする。

 はっきり言って、気持ち悪い。


「ん~~汗のにおい!さいっこぉ……」

「ひぇっ」

 キマってやがる……

 頑張ったら訴えられるレベルだろ。


 というかこいつは思いきり指ぶつけたはずなのに痛くないんだろうか。

 そっか、鍛えてるから固いんだった。

 そうだったそうだった。


「ねえ湊ぉ」

 猫なで声。


「何?」

「なんで先に行ったの?なんで私置いてくの?まさか会いたい女でもいたの?ねえなんで?」

 目に光がない。

 羅列される質問の数々。


「なんでなんでなんで───」

「いや別に、友達作っとかないとなって思っただけだよ。あとそれやめろ」「なんでなんでなんで?」

「わかったやめる!」


 そんなんならしてくれるなよ……なんて追い打ちはしない方が良いだろう。

 ふつうに嫌な奴だし。


「というか、そろそろマジでのいて」

「うん!」


 そういってすぐに這い下がるデカい女。


───“小鳥遊(たかなし) 陽葵(ひまり)”。

 代々続く小鳥遊家の娘。

 中学では全校生徒の中で一番背も(たい)も大きく、スポーツ・学業全てにおいて1位。

 一部生徒には恐れられ、それまた一部からは熱狂的人気。

 父にあたる小鳥遊 (つとむ)によって解放された一子相伝の技術(一部を除く)・小鳥遊流兵法の当主代行を務めることもあるほど家族からの信頼も厚い。


 これはホントにどうでもいいのだけど、俺の幼馴染だ。


───まるで5倍の重力から解放されていくように、体の自由に恵まれる。


 腰が痛い。絶対さっきのせい。


「あっああ……」

 唸るような声を出しながら、該当箇所に手を当ててさする。


「だいじょうぶ?」

「いやっ……まあ大丈夫」


 危うく「おまえのせいだろ」って言いそうになったけれど、ここは矛を収めよう。

 たとえそうだとしても、言う意味がないからね。


 立ち上がって早々に辺りを見回す。

……よかった、誰も見てない。

 危うく、俺の学生生活に早速暗雲が立ち込めるところだった。


 また階段を上って2階へいく。

 その(かん)、陽葵が勝手に手を繋ごうとしてくるのを払ったこと、幾数回。

 それによって、不機嫌そうに頬を膨らませることもまた、幾数回。


「というか、陽葵お前何組?」

「1組だよ!いっしょだね!」


……なんで俺が1組ってわかるのか、については知らなくていいだろう。

 わざわざ、深淵を覗く必要はない。


 無事、というか上り切り到着。

 2階、そして1組にはすっかり人が集まっていた。


 手を叩きながら笑う男子たち。

 スマホ片手に談笑する女子たち。

 混じらず、1人の時間を敢えて楽しむ民の姿も。


 これから俺は、どこに属すことになるんだろうか。


 まあ、おそらく───


「へへへ、楽しみだね」


 この勝手に手を繋いでる女が付き纏うんだろう。


 必死に振り払おうと腕を動かす。


……ダメだ。船底に張りついた藤壺のように取れる気がしない。

 何人かがこっちを見ている。

 火照り。顔に熱を感じる。


 ダメだ、考えるな。


 あきらめて一緒に歩きだす。


「えっと……私の席はぁ~~」

 小さくぼやきながら俺の一つ右の席へ。


「あった!」

「まじかあ……」


(隣かよ……)


「え、隣だ!やったー!」

 抑えられないと言わんばかりに体を揺らす。


 俺はへたり込むように座る。

 なんというか、こうじゃなかったはずなのに。


「あっ嫌そうな顔!」

「他にもいろんな世界線もあったって思うと、なんというかなあ……」


 陽葵は、机を見つめる俺の正面に立って、力の抜けた肩を強く掴む。


「私だってかわいい女の子だよ!?ほらっ!」


 至近距離、顔。

 大きく輝く目は黒い真珠という言葉がふさわしく、まつ毛もダチョウのように長い。

 凛とした鼻筋も高くそびえ、その下の唇は桃色の光沢を放つ。

 それらすべてが小さい肌の上で成り立っていて、その肌も神によってやすりで擦られたように滑らか。


「はあ……」

 そんな顔を見て、俺はため息をつく。


「なんでぇぇ!!」

 レバーで遊ぶ子供ように掴んだ肩を揺らす。


「私だっていろいろ頑張ってるのにぃぃ!!」「うぁ~うぁ~うぁ~うっ」

「そりゃみたらわかるってぇ~うぇ~う───」


 もちろん、スキンケアだかリップだか色々してるんだろう。

 定期的になんとなぁく印象が変わるから、知ってはいる。


 揺すりがピタリと止まる。


「知ってるなら、もっと見てよ!ほら!」

「いや見てるって」

「ならまだ足りない!ほら!惚れるまで見て!」


 そうじゃない。

 ただただ、簡単なこと。


「もう見慣れたって!」

「ええぇぇぇ!」


 さっきよりも強く揺れる。

 これはどこのジェットコースター?

 安全基準満たしてないぞ。


「勘弁してくれぇ!」


 首が……首が鞭を打っているんだから。





 無事入学式も終わり、1時間目までの自由時間。

 といっても、次は多分自己紹介したり委員会とか係決めるだけだろう。

 はじめなんてそんなもの。

 ただ、この授業とも言えない授業の時間、結構好き。

 合法的にサボっている気分になれるから。


 とりあえず、今はあの子と交流を───


「どこ行くの?湊」

「そりゃ、友達つくりにだろ」


 あの子の方を見つめる。

 そういえば名前聞いてなかったな。


「じゃあ私も行く!」

「いやお前来たら意味わかんないだろ」

「えー!」


 今、俺と彼の友情の間に陽葵という人間は異物中の異物。

 ほうれんそうのお浸しにマヨネーズをかけるくらいの異物だ。


 そんなものが入りでもすれば、本来あるはずだった友情。

 恋人は添えるだけ、のダムダム友情物語は終わりを告げる。

 そう、始まってしまう前に編集者からのNGによる終焉のように最速で。


 あとからにでも入れてやろう。 

 だから、あなたは唐揚げかが来るまで待ってなさい!!


「やっ」

「さっきぶりだね」

 優しく微笑みかける彼。


「あ、あのさ……」

 なんだか気まずそうな様子。

 全く、君と俺の中だろうにそんな顔しなくてよかろう。


……いや、俺を見ていない。

 なんなら俺の後ろ。


 振り返る。


 水っけを含んだ目でこちらを見つめる陽葵。

 さながら、玄関で帰りを待つ忠犬のように。

 サイズで言ったらセントバーナードかアイリッシュウルフハウンドだけど。


「大丈夫……だった?」

「あっああ……大丈夫」


「さっき餌あげたでしょ!!」と叱りつける飼い主のように睨みつける。

 膨れっ面をした後に、振り直り勢いよく座り込んだ。


 まあ、あとでどうにかしよう。


「ホントに?」


 それに───


「うん大丈夫だよ」


あいつにはあいつのグループがないとな。

あいつの凄さはよく知ってる。だからこそ、自分の輪っかを作れるはずなんだ。

陽葵は俺の付属品じゃないし、俺もアイツの付属品じゃない。


「それよりさ、さっき名前聞きそびれたんだけどなんて言うの?」

「“四月一日(わたぬき) 宵智(よいち)だよ、よろしくね。君は?」


 わたぬき……聞いたことはあるけど見たことはない名前だ。

 まあ俺も割とその類か。

 こっちも返さないと。


「俺は月見里 湊、よろしくね」

「やまなし……変わった名前だね。…あっ僕もか」

「ハハハ!」「あはは」


 空気がかなりほぐれてきた。

 これからいろいろ話したいけど……


 時計を見る。

 現在9:57。

 たしか10時からスタートだったから、そろそろ戻った方がよさそうだな。


「じゃっそろそろ行くわ」

「うん」


 よし、ちょっとずつ。ちょっとずつでいい。

 これから仲を深めていって、口調も普段のものに戻していこう。

 順調、極めて順調なり。


それよりも……


「よいしょっと」

「ふんっ」


 今はこっちのお手入れの方が大事そうだな。


「まあ……ごめんな」

「知らないもん!私がいたらダメなんでしょ。じゃあ話しかけないでいいじゃん!」


 もんとか言ってる。

 普段は謝ったらなんとかなってたのに、今回はどうやら勝手が違うらしい。


 気分はまるで砂漠ステージに慣れてきた頃に訪れる水中ステージ。

 あれは操作感から全く違う感じから新鮮さは感じられるけど、こいつにはそんなものはない。

 鮮度を感じられるぐらいの時期はとうに過ぎたのだ。

 というか、昔馴染みすぎてそんな時期はなかったが近い。


 しかしながら、その厄介さは健在。


「ホントにごめんって」

「知らない!」


 俺の中に靄がかかったままチャイムが鳴る。


「はいっじゃあ始めましょう。今日は自己紹介をしますよ~~。まずは先生から!改めて小林 裕子です、よろしくお願いしま~~───」





「はい、今日はこれでおしまいです。明日からも頑張りましょう!」

 今日の授業は、ホントに自己紹介だけだったらしい。

 他にも大事なものの書き込みだとかに時間は使っていたけど、午後になる前にすべてを終えた。


 皆、帰路についていく。

 宵智くんは、もう帰っている。


「なあひま───」

 無視を決め込むように立ち上がる。


 教室の扉まで差し掛かったところ。

 そんな彼女を他の女子生徒たちが呼び止める。


「あのさ小鳥遊さん!柔道とか興味ない!?」

「筋トレも!デッドリフトの大会とか興味ある!?」

「ぶ、文芸部も……よかったらぁ……」


 中学の頃の噂を知る人たちが、仮入部期間もまだな今、我がものにしようと呼びかけている。もちろん、そいつらも1年生。


「え、えと……」

 肝心の陽葵は、手を小さく上げどこでもなくその執拗な勧誘生たちを眺めている。

 きっと彼女は、何をどうしていいのかわからないのだろう。


 もしかしたら、このままでいいのかもしれない。

 お互い別の世界で生きていく。

 本来なら、俺たちはいるべきじゃなかったんだ。



 この心にあるのは後悔か。

 渦巻さながら、他の感情や思考を奪っていく。


 ずっと一緒にいたからすっかり根付いていた、異性の感情とは別のもの。

 なんて言ったらいいのか、きっとこの感情を表す言葉は存在しないだろう。


 ただただ、失いたくない。

 友達を。幼馴染を。


「あ、あのさ陽葵!」


 声高々に名前を呼ぶ。


「っ!」


 こっちを振り向く。

 それと同時に、群がる生徒たちも向いてきた。

 恥ずかしい。


 でも、今は関係ない。


 誰かを失ってしまうくらいなら───


「よかったら一緒に、帰らないか!」


 誇りも、外聞もいらない。

 だからどうか、奪わないでくれ。


「……うん!帰る!」


 集合体を、ハエの群れを突っ切る様にこっちへ向かう。


「「「ちょちょっと!」」」


 さすがに、ここまでは来ないらしい。


 満面の笑み。

 なんというか……ちょっとやりすぎたか。

 少しだけ気まずい。


 俺たちはおぼつく足のまま、帰路についた。



◇◇



 夕食を終え、すっかりもう夜。

 時計の針は10:27を指している。


 そろそろ寝ないと。

 そう心の臓では思いつつ、脳と眼球はスマホ越しの動画を眺めている。


 そんな中、ふと通知が届いた、

 宛て名は“himari”。


「陽葵か」


 おしゃれなローマ字使いやがって……

 俺の名前を見ろよ。

“流浪の旅人・鼻くそボンバー”だぞ。


 無意識といっていい具合にその通知をタップ。


【あの、ちょっと話したいことがあって】


 急になんだ。

 特に用事とかはないはずだけど。


【何】

【絵とね】

【ちょとまって】


 普段じゃありえない量の誤字。

 何か焦ってる?


 5分。


 何も来ない。

 動画の続きでも見とこう。


 10分。

 通知。

 確認もせずにそれを開く。


【ごめんやっぱ電───】


 読み終わる前に、電話がかかる。

 反射的に押してしまった。

 もしこれがものすごくタイミングのいい詐欺電話なら俺はどうする気だったんだろうか。


 とりあえず耳に当てる。


『あの、もしもし』

「はいっ」

『へへ、何かよそよそしいね』

「……まあ、定番だしな」


 この…電話してるときはどの体勢が正解なんだろう。

 座っても寝っ転がっても違和感がある。


「何の用?」

『えっと……今何してたの?』

「今?えと……おおささ悪代官のリーガルチャンネル見てたけど」

『えへへぇ?なにそれぇ』

 これはあれか、ちょっと馬鹿にされてるか?

 喧嘩なら買うぞ、絶対負けるけど。


「……ほんとに何の用?」

『えっ!?えっと……』

 驚いたかのように声を上げる。


 しばらくの静寂の後。


『つ、月が…きれいですね』

「?」

 カーテンと窓を開けて外を覗く。

 網戸越しに映る真ん丸な月。


「満月明日じゃないっけ」

『……』

「あっ」


 そういうことか。

 今この人は、夏目ったわけだ。


「はいはい」

『へへへ……すっかり慣れられちゃったね』

「やりすぎなんだよ」

『フフフフ……』


 夜風。鈴虫が鳴いている。

 夜は、昼に比べて心地がいい。


『えとさ、これから私たち高校生でしょ?』

「まあな」


 ついに本題に入ったのか、電話越しにもわかるくらい雰囲気が変わった。


『だからその……これからよろしくと思って』

「えっそれだけ?」

『……うん』

「そっか……」


 なんとなく、伝わってくる。

 きっとそういう意味じゃない。


 俺も、言うことがあるはずだ。

 動画を見ても、風呂に入っても晴らせなかった。


 今しか、今伝えないと。


「あのさ」

『うん』

「俺からもちょっと、言いたいことあるんだけど」

『うん』


「あの……朝のこと、ごめん」

『え?』


 拍子の抜けた声が返る。


『朝ってあれだよね?あの……』

「それ」

『いやあれは私が悪くて!』「違うくて!」

「あれはちょっと……俺、自分のことに必死で、陽葵のこと考えてなかった。ごめん」

『…うん』

「言い訳にしか聞こえないかもだけど、お前にも居場所を作って欲しかったんだ」


 言い訳だ。これはただの言い訳だ。

 本当に思っていたとしても、陽葵のためだったとしても。


 自分の、何かしないとっていう義務感を晴らすためだけにやったんだから。


「だからその……ほんと、ごめん」

『……全然、大丈夫だよ』


 優しい声が鼓膜を通り抜ける。

 俺は、溜めたことを吐き出したような心地よさに、心の臓を支配される。


「ありがとう」

『へへへ……』


 と思ったら、安心したのか少し眠くなってきた。


「じゃあ、俺もう寝るわ」

『ええ早くない!?』


 何を言っているんだ?

 もう少しで11時を回るというのに。


「言うほど早いか?まあ結局寝れるのは12時とかだと思うけど」

『うんそれでも早いと思うよ』

「じゃあお前何時寝る?」

『えっとね……1時とか?』

「あー1時か」


 なんというか、そんなに変わらない気がするな。

 でも、こいつたしか道場で稽古してたはず。


 そんなので充足な休みは取れるんだろうか?


「お前、それ大丈夫?」

『うん多分』


 話しながら、睡眠剤に手を伸ばし一錠放り込んで水。


「そっか……まあ気をつけろよ」

『うん、ありがと』

「じゃあおやすみ~~」

『……うん、おやすみ』


 何か最後含みがあった気がする。

 まあいいか。


 切るボタンをポチっと。


 なんだか、言うこと言えてスッキリした気分。

 ごく自然にスマートホン、陽葵との連絡画面をスワイプし、動画の続きを見る。


 そして30分後、俺はベッドで眠りについた。



◇◇◇



『じゃあおやすみ~~」


 いつもの声。

電話越しだと、何故か緊張しちゃう。


「……うん、おやすみ」


 嗚呼、もうすぐ切れてしまう。

 できればずっとこのまま───


「……」


 液晶は、いつものトーク画面へ。

 電気もつけない暗夜の中。

 過去のやり取りと月光で照らされ薄く映る自分が、通話が切れたという現実をありありと伝えてくる。


 少し無造作だけどどこまでも私のことを考えてくれてて、捻くれてるようだけどきっとどんな子供よりも素直で純粋な……

 背も低くて特別何かをしてきたわけじゃない。

 でも、ずっとしたいことのために全力で生きてる。


 無意味だってわかってる。

 だけど、このトーク画面から目が離せない。

 まだドキドキしてる。

 頭の中は今日の、昨日の、去年の、ずっと前の湊。

 それだけで頭がいっぱい。


 硬く飛び出た腹にスマホを押し当て、抱きしめる。


 身体は無機質な冷たさを伝えて、頭は湊の温もりを感じている。


「みなとぉ……」


 正面の壁。

 仲良くなってからのものを、7つに限って選び額縁とともに飾った写真たち。


 あれは、一緒に釣りに行った時。

 あれは、一緒にお祭りに行った時。

 あれは、一緒に……


「あははは……」


 だめだ。湊のことしか考えられない。

 眠気なんかよりも優先してしまっている。


「今日、徹夜かなあ……」


 私は、力なくベッドに倒れ込みながらそう呟いた。


上手くいけば続くかもねって

じっちゃんの名に懸けました


まあおじいちゃんいないけど


続くけど、恋愛系まじであんまり見たことないからよく分かんなくて、なんかしらのなんかに一生影響され続けるかも


まあ、意外とどこもそうだよね

人間誰かに影響されて人生生きてるよね


ただ、パクってやろうとかそういう意思はまじでないって言うのは言わせてください

被ってたらごめんねっていう話

(めっちゃ言い訳だけど)



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