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異世界に迷い込んだ愚か者は、元の世界へ戻ることなど考えもしない。  作者: ikenaki
聖都ミラノ。

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9/12

新たな始まり、ついに、眠るためのベッドができました!!!



**「……トオル?」**


ユキは不安げに声をかけた。トオルは頭が真っ白になったように、虚空を見つめて立ち尽くしていたからだ。


「トオル、大丈夫?」


ユキは心配そうに尋ねた。


一拍置いて、トオルはハッとしたように我に返り、彷徨っていた視線を彼女に向けた。


「あ、ごめん。考え事してた。なんて言った?」


ユキは露骨に嫌な顔をして怒りを露わにした。無視されただけでなく、話も全く聞いていなかったことに腹を立てたのだ。


彼女はダンッと足を踏み鳴らし、拳を握りしめた腕を振り上げると、トオルの耳へと狙いを定めた。


「おいおい、何する気だよ!?」


状況が飲み込めないトオルが叫ぶ。


「今頃喋るなんてね。あのさ、レディの話を聞かないなんて、すっごく、すっっっごく失礼なんだけど?」


怒りと心外さを滲ませた口調で言いながら、彼女はトオルの耳をギュッと掴んだ。


「いったー! 痛いってば。ごめん、わざと無視したわけじゃないんだ。ただ、何してたか忘れちゃって……」


「あらそーーーー。なら、今すぐレミのところに行くわよ」


怒ったままそう言い放つ。その瞬間、自分が目撃者としてここでやるべきことがあったことなど、すっかり頭から抜け落ちていた。


「ちょっと待てよ。なんでレミのところに行くんだ? それに、ここですることないのか?」


ユキは足を止め、現場とは反対方向を見ていた顔をトオルの方へゆっくりと回した。


「……ってことは、あんた本当に何一つ聞いてなかったわけね……」


彼女の瞳に紅蓮の炎が宿る。それが、堪忍袋の緒が切れた合図だった。


ユキは考えるよりも先に本能で動き出し、トオルの耳をガッチリと掴んだまま通りを突き進んだ。


「痛い痛い痛い! 分かった、分かったから! 俺が悪かった、ごめんってユキ!」


トオルは捨てられた子犬のような顔をして、ユキの慈悲を乞おうとした。


ユキが振り返り、その間抜けな顔を見て、思わず頬を赤らめる。


「……分かった、許すわよ。でも、すぐにレミのところに行かなきゃいけないの」


ユキは諦めたように天を仰いだ。


「ところで、どこなんだ?」


トオルが尋ねる。


「あそこよ。そんなに遠くないわ」


ユキは、石造りの壁と丸太の柱でできた家を指差した。それは中世風の素朴な二階建ての家で、大きな窓が特徴的だった。通りの交差点の角に建っており、見た目も美しい。トオルとユキが歩く歩道の突き当たりにあった。


「うわあ、こうして見るとここの建築ってすげえな。まるで『おとぎ話』みたいだ!」


トオルは感嘆し、家々、特にレミの家を眺めた。


**「妖精フェアリー!? どこっ!?!?」**


ユキが飛び上がらんばかりに叫ぶ。怯えているようでもあり、怒っているようでもあった。


「あいつら、ただじゃおかないんだから! どこよトオル!?」


「えっ?」


トオルはユキの反応に驚いたが、そのあまりの剣幕がおかしくて、思わず吹き出してしまった。


「ははっ、妖精なんていないよ。俺が言ったのは、ここが魔法みたいに素敵な場所だってことさ」


「魔法みたい? 何変なこと言ってんのよ」


彼女にとって、魔法が存在するこの場所は日常そのものであり、そんな言い回しをする彼が奇妙に映ったのは当然だった。


トオルはガックリと肩を落とした。そのコメントは地味に傷ついたようだ。


家の前の角に着いた。目の前には、窓のない可愛らしいデザインの大きな木の扉がある。


「着いたわ。ノックするわよ」


ユキが扉に近づき、コンコン、と叩く。


しばらく反応はなかったが、数秒後、家の中で誰かが走る足音が聞こえてきた。


その音はどんどん大きくなり、扉へと近づいてくる。


突然、閉ざされていた扉が勢いよく開いたかと思うと、小さな女の子が飛び出してきて、ユキに飛びついた。


「ユキぃぃぃ!」


レミが嬉しそうに言う。


「レミ、元気そうね。ほら、頼まれてた人、連れてきたわよ」


ユキはそう言いながら、トオルの方へ顔を向けた。


「トオルお兄ちゃーん! 見て、ここ私の家! パパたちに紹介したいから入って!」


「やあレミ、元気かい? いやあ、お邪魔しちゃ悪いし、そんな必要は……」


トオルはその場を切り抜けようとしたが、ユキからの視線を感じて言葉を飲み込んだ。その目は、「断ったら殺す」と語っていた。


「……オーケー、分かったよ。お邪魔します」


「やったぁ!」


レミが歓声を上げる。


三人は家の中へと入った。床は板張りで絨毯が敷かれ、大きな窓から差し込む光で室内は明るい。暖炉の周りにはソファがあり、そこには一組の男女――レミの両親が座っていた。


「こんにちは、初めまして。トオルです」


男性が立ち上がった。恰幅はいいが、筋肉質で引き締まっている。白いシャツに革のズボンを履き、そのズボンは腰から肩を通って反対側に渡る二本のベルトで吊られていた。


「やあ、初めましてトオル君。私はオクタビオ・テルセーロ。こっちは妻のレヘリンだ。娘を助けてくれて本当にありがとう」


「いえいえ、とんでもないです。困っていたので助けただけですから」


「謙遜することはないよ、トオル君。自分の家だと思ってくつろいでくれ。レミから、君が行く当てもなく困っていると聞いてね。娘を助けてくれた恩人を放っておくわけにはいかない。よかったら、客室を使って泊まっていくといい」


トオルは喜びに打ち震えた。ついに眠れる場所が、雨風をしのげる屋根が手に入ったのだ。彼はすでに、この街の雨や厳しい日差し、冷たい風に晒されながら路上で寝る生活を覚悟していたのだから。



こんにちは。章を公開しないことをお詫びします。旅行中にインターネットの電波が届かなかった!!!。しかし、それは書かない言い訳にはならない、ただ書くのを忘れただけです。これを読んでくださる皆さんを愛しています。コメントを残して応援して頂けると大変助かります!

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