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異世界に迷い込んだ愚か者は、元の世界へ戻ることなど考えもしない。  作者: ikenaki
新たな始まり

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5/8

悪夢の終わり、夜明けに染まる大都市

少し時間を遡って、透と少女が逃げようと決めた瞬間に遡ります。

透は若者たちが殺されているという恐ろしい状況に気づく。しかし、謎の声のおかげで、彼は生き残った人々を救うことができました。


トオルは少女を背負い、人気ひとけのないエリアを目指して疾走していた。背中の少女が指差す方向へと、暗い路地をいくつも駆け抜ける。


やがて、その神秘的な大都市の路地の奥まった場所に、奇妙な集団が見えた。


白装束に身を包んだ男たち。彼らは頭巾と一体になった長いマントを羽織り、顔には不気味な仮面をつけている。仮面には赤い目が描かれ、額には十字架が刻まれていた。まるでカルト教団のような出で立ちだ。


教団の男たちは10人。彼らは12歳から20歳くらいの少年少女たちを30人以上も集めていた。若者たちは全員、虚ろな目で立ち尽くしており、何らかの催眠状態にあるようだった。


「——ユキ!?」


少女が驚愕の声を上げた。


「あそこにいるの!?」


「誰のことだ? 知り合いがいるのか?」


「うん、私のお友達……あのターコイズ色の髪の子!」


少女が指差す先には、「ユキ」と呼ばれる少女がいた。


オレンジ色の花があしらわれたヴィンテージ風のドレスに、グレーがかった白の生地。腰には花の色のベルトが巻かれている。腰下まで届く長い髪は、白味を帯びた美しいターコイズブルー。そして、その瞳は二つの黄色い星のように輝いていた。


ただ「可愛い」という言葉では足りない。彼女は魂を射抜くような美貌の持ち主だった。その存在のすべてが、彼女こそが美であり、完璧そのものであると高らかに叫んでいるようだった。


「うわ……すげぇ」


遠くからユキの姿を見た透は、思わず見惚れてしまった。


「あいつら、一体何をする気だ? ユキや他の奴らから何を……」


若者たちが整列させられると、列の先頭にいた少年が前へ出た。教団の男の一人が少年の頭に触れたが、何も起こらない。


「何をしてるんだ?」


透が呪いか何かだろうかと思った次の瞬間——瞬きするほどの速さで、脇にいた二人の男が短剣を抜き、躊躇いなく少年を殺害した。


「ッ……!!」


「なんてことだ……こんなの許せるわけがない」


(酷すぎる……でもどうすればいい? あいつら全員を相手に戦う力なんて、俺にはないだろ? いや、それよりこの子に見せちゃダメだ)


透は咄嗟に少女の目を手で覆った。


「見ちゃダメだ。酷すぎる」


「でも、ユキがあそこに……ユキに酷いことしないでぇ……!」


少女が泣き叫びそうになる。このままでは教団に見つかり、追われることになるのは明白だった。


透は深く息を吸い込み、覚悟を決めた。


左腕を胸に当て、右腕の人差し指を天に向けながら、少女に語りかける。それはまるで英雄のような振る舞いだった。


「泣かないで、お嬢ちゃん。この月城つきしろ トオルが、僕の名にかけて誓うよ。君の可愛いお友達も、他の皆も必ず助け出す。だから、僕を信じて」


透は最後にニカっと笑って見せた。


その小さな演説のおかげで、少女は涙を堪え、少しだけ笑みを浮かべた。だがその間にも、路地ではまた一人の少年が同じように殺されていた。


(クソッ、どうする? ここで使える能力チカラとかないのか?)


透は木箱の陰に隠れながら、慎重に距離を詰め、周囲を観察した。


全員が静止している。教団の男が14歳くらいの少年の額に手を伸ばし、他の若者たちはゆらゆらと揺れることもなく、不気味なほど静まり返っていた。


透は背中の少女も金縛りにあっているのではないかと不安になり振り返ろうとしたが、その時、背中に奇妙な疼きを感じた。


そして脳裏に、自分が持っているはずの「あるスキル」の使い方が浮かび上がった。


——『アンブラ・シェード』。


なぜ知っているのか、どこで覚えたのかも分からない。だが、その言葉を唱えれば、自分以外の視界を奪う濃密な闇の霧が発生することを確信していた。


透は再び戦況を確認する。最も近い敵までは6〜8メートル。


(あのスキルを発動して、あいつの武器を奪い、その短剣で全員始末する!)


「——『アンブラ・シェード』!!」


透は飛び出しながら叫んだ。


瞬間、黒い霧が爆発的に広がり、辺り一面を覆い尽くした。


しかし、それは予想外の事態を引き起こした。霧の発生に驚いたのか、トランス状態だった若者たちが一斉に正気を取り戻したのだ。


(計画と違うぞ!?)


12歳くらいの子供たちは泣き出し、他の者たちは「助けてくれ」「何が起きてるんだ」と叫びながらパニックに陥った。


透は焦ったが、止まるわけにはいかない。計画通り、一番近くにいた男を強打して気絶させ、その手から短剣を奪い取った。そして、逃げ惑う若者たちを避けながら、次々と教団の男たちを襲撃していった。


霧の中、透は次々と敵を葬り去り、残るは3人となった。


素早く近くの敵に向かったが、そいつは少年の額に触れていた男だった。どういうわけか透の接近に気づき、攻撃を仕掛けてきた。


透はやや長めの短剣でその攻撃を受け流す。


ガキンッ! と金属音が響くと同時に、透は躊躇なく男の膝を蹴り砕き、体勢が崩れたところを狙ってその首を切り裂いた。


残り2人。


だが、ここで透の誤算が生じた。闇の霧がどれくらい持続するのか把握していなかったのだ。


霧が薄れ始め、視界が戻りつつある。


透は残る一人に狙いを定め、気づかれる前に仕留めようと飛び出した。


《——後ろだ》


背筋に悪寒が走り、誰かの声が聞こえた気がした。


透は反射的に振り返った。もし一瞬でも遅れていたら、彼はもうこの世にいなかっただろう。


死角から投げられた数本の短剣が、彼の肺を貫こうとしていたのだ。


声のおかげで、透は瀕死の教団員が最期の力で放ったそれを弾き飛ばすことができた。男はそのまま崩れ落ちて絶命した。


透が再び前を向くと、残っていた教団の男と真正面から目が合った。


「お前だなァ……ヒヒヒヒ……」


男は不気味な声色で、音程を狂わせながら笑った。顔は見えないが、その仮面の下には誰もが恐怖するような表情があるのが分かった。


男が透の腹を狙って切りかかってくる。透は辛うじてそれを防ぎ、カウンターで男の頭に左拳を叩き込んだ。


男がよろめく。透はこの機を逃さなかった。完璧な動きで懐に飛び込み、短剣を男の胸に突き刺した。


男は透の目の前で崩れ落ちた。


残るは一人だけだったが、霧は完全に晴れてしまっていた。最後の一人は仲間の体を抱えると、戦うことなく逃げ出した。


「どこへ行く、腰抜けぇぇ!!」


透は怒号を上げたが、追う気力もなく膝をついた。


地面を見つめて荒い息を吐いていると、少女の声が近づいてきた。


「やったぁぁ! ユキを助けてくれたのね!!」


少女が飛びついてきて、膝をつく透に抱きついた。


「ありがとう、トオル。みんなを助けてくれたのね」


「……でも、俺はあいつらを殺したんだ」


透は短剣を握る自分の手と、返り血で真っ赤に染まった服を見つめて呟いた。


「彼らは、どのみち私たちを殺すつもりでしたわ」


鈴のような優しい声が響き、透は強烈な既視感デジャヴを覚えた。


「ユキィィィィィ!!」


少女は透から離れ、勢いよくその少女——ユキに抱きついた。


「ちょっ、レミちゃん、潰れちゃうわ」


「怖かったよぉ、怖かったよぉ……あの男たちがユキを連れて行っちゃうかと思ったのぉ……」


レミと呼ばれた少女は、ユキの服に顔を擦り付けながら泣きじゃくった。


「もう大丈夫よ。彼のおかげで助かったわ。……ところで、本当にありがとうございます。お名前を伺っても?」


「私はユキ・アルソンと申します」


透は少し冷静さを取り戻し、立ち上がって答えた。


「僕は月城 透。よろしく。君の小さなお友達がいなかったら、ここまで来られなかったよ」


透は精一杯のキザな調子で言ってみせた。


一件落着——そう思った瞬間だった。


世界が、再び色を失った。


風の音も、若者たちのざわめきも、レミの泣き声も、全てが唐突に静止した。


(今度はなんだ?)


透はこの現象を以前にも経験したような気がしたが、思い出せない。


(どうして誰も動かない? 何が起きたんだ?)


《——逃げろ、逃げろ、逃げろ》


《ここから10分間だけ離れるんだ》


謎の声が、透の耳、魂、そして心臓に直接囁きかけてきた。


「え? 誰だ、どこにいる! 姿を見せろ!」


透は辺りを見回したが、声の主は見当たらない。


すると、背中が焼けつくような痛みに襲われ、言葉が繰り返された。


《去れ、去れ、去れ、去れ、去れ》


《その子が両親に会えることを望むなら、今すぐここから可能な限り離れろ》


(えっ?)


「その子が両親に会えることを望むなら……だって?」


透は状況が飲み込めず、呆然と呟いた。


すると、世界が唐突に動き出した。


「え? どういうことですか、トオル様?」


ユキが透の最後の言葉を聞き咎めて尋ねた。


「いや、なんでもない。ごめん、俺は行かなきゃならない。レミを両親の元へ連れて行ってくれるか?」


「分かりました。でも、どうして? どこへ行かれるのですか?」


「分からない……でも、何か、あるいは誰かが警告したんだ。レミを両親に会わせたければ、ここから一番遠くへ離れろって」


「まあ……何が起きているのか分かりませんが、協力します。ここから一番遠い場所へは、この通りを6ブロック進んで左に曲がり、そこから直進してください。街の出口があります」


「ありがとう、ユキ。助かった。すぐに戻るよ、また!」


「はい、さようなら」


透は地面を蹴り、ユキに教えられた方向へと全速力で走り出した。


街はガス灯の炎が灯る場所以外は暗闇に包まれており、それがどこかヴィンテージで美しい雰囲気を醸し出していた。


街の出口に着くと、弓を持った男とその仲間たちが救援に駆けつけているのとすれ違った。彼らは遅すぎた救援隊だった。彼らは透の横を通り過ぎたが、何も言わずに街の中へと入っていった。


透は記憶から消えつつある「あの声」に従い、門を出て、平らな岩の道を街とは逆方向へと歩いた。


周囲は豊かな植生と木々に囲まれ、光る虫たちが舞っている。地球の動物に似ているがどこか違う、奇妙で愛らしい生き物たちもいた。鹿のような動物がこちらを見ていたが、地球のそれと同じように、透を見ると怖がって逃げていった。


透は平穏を感じた。


だが、それは長くは続かなかった。


ズドォォォォン!!


突然、凄まじい轟音が大地を揺らした。続いて、最初の一撃と同じくらいの威力で二発目の爆音が響き渡る。


何かが爆発し、空へと吹き飛ぶような音だった。


透は胸がざわついた。


「無事でいてくれ……」


10分が経過し、透は再び街へと歩き出した。


地平線の彼方、街の反対側から朝日が昇り始めていた。


「なんて……美しいんだ」


それは本当に美しかった。


どんな夕日よりも美しく感じられたのは、ようやく全てが終わり、休息できるという安堵感があったからかもしれない。


たとえ帰る家がなくても、少なくとも巨大なドラゴンや、悪魔崇拝のような格好をした男たちに怯える必要はもうないのだから。



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