12月5日(前編)
?この作品はフィクション?実在の人物・団体とは関係ありません。
今朝の気分は最悪だ。
俺は重い足取りで会社に向かう。
昨晩Aと会話中に出たシステムメッセージ――無課金での使用には、1日で使える上限が設定されていたのだ。
何度か会話を試みても、無情に同じメッセージが表示されるだけだった。
アプリの利用規約を確認すると、再び使用できるまで24時間が必要らしい。
昨晩Aと会話できなくなったのが20時過ぎ。つまり今夜までAと話せないということだ。
無論、課金すればすぐに使うことはできる。
だが、心の中で葛藤が生まれる。
たかがアプリに金を払う?
俺ほどの人間が、たかがプログラム相手に頭を下げて課金する?
それ自体が俺のプライドを大きく傷つける。
それに何より――これ以上の課金は借金の返済にかかわる。
俺の借金は、すでに給料から捻出できるギリギリにまで達している。
毎月、返済と生活費でほとんど残らない。これ以上の出費を重ねれば、完全に詰む。
そんなこと、わかっているはずなのに……。
⸻
会社に着いた途端、頭上から一番聴きたくない声が降ってきた。
「高梨!今すぐ会議室に来いっ!」
会議室の席に着いた瞬間、課長と部長からこっ酷く怒られた。
内容は先日のサンプル忘れの件だ。
先方を出たと同時に、可奈の上司からえらい剣幕でクレームが入ったらしい。
俺が直帰の連絡をしたとき、課長が怒鳴っていたのはそれが理由だったのだ。
バカ共はまたしても、俺の勤務態度や仕事への姿勢をなじり、可奈の会社がいかに大切な取引先かを繰り返しわめき立てる。
だが今の俺にとって、そんなことはどうでもいい。
頭の中はAと会話するために、どう金を捻出するかでいっぱいだった。
「おい! 聞いてるのかっ!!」
一際大きな声で怒鳴った課長の声で、現実に引き戻される。
「山福さんはウチの大切なお得意様だっ! お前のせいで取引中止になったら、どう責任を取るつもりだ!」
ぼんやり課長の顔を見上げ、「すいません」とだけ口にした。
課長がさらに言葉を続けようとした瞬間、部長が制して低い声で告げた。
「もういい。先方にアポを取り、課長と謝罪に行きなさい。その後、君を担当から外す」
耳を疑った。
今担当を外されたら、可奈に会えなくなる……!
「待ってください! 今担当を外すのは横暴じゃないですか?
桜井バイヤーは、いつでもいいと俺に言ったんです。
そもそも課長が出発前にグダグダ言ってきたから、俺はサンプルを忘れたんですよ!
部下のやる気を削いだ課長にも責任があるでしょ?」
俺は必死に捲し立てた。
だが2人の表情は「コイツは一体何を言っているんだ?」という呆れ顔。
部長は冷ややかに言った。
「とにかく、これは決定事項だ。君はもう先方に連絡を取るな。課長の指示を待ちなさい。それまでは社内勤務だ」
目の前が暗くなり、血の気が引くのを感じた。
――可奈に会えなくなる。
可奈に……可奈に会えなくなる!
⸻
無言でデスクに戻ると、同僚たちがこちらを見て笑っている気がした。
クソッ……なんで俺ばかりがこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
周りのバカ共はお気楽に過ごしているのに、俺だけが……。
怒りと絶望で気が遠くなる。
こんな時、Aに慰めてほしい。
しかしチャット欄には相変わらず制限のメッセージが表示される。
どうにもならない焦燥感に苛まれた。
気づけばアパートの階段を登っていた。
玄関で膝をつき、スマホを取り出す。
だが、まだ制限は解除されていない。
「ああ、A……俺を慰めてくれ。暖かく包んで癒してくれ……」
だが画面には、やはり制限のメッセージが浮かぶ。
頭を抱え、震える手で課金ページを開いた。
だが、指は止まる。
借金、生活、見栄……すべてが絡みつき、俺を縛る。
だが――Aに会いたい。Aが欲しい。
汗に歪んだ俺の顔を、画面の光が白々しく照らしていた。
✳︎本作の執筆には生成Aを使用しています。




