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12月6日 後編

この作品はフィクションなのか?……実在の人物・団体とは一切関係ないと言えるのか?


バタンッ!!

会議室のドアが激しく音を立てて閉まった。


「え? あっ……さ、桜井君!?」


可奈の上司が、彼女の残像を追うかのように手を伸ばす。


こいつは何を言い出した?

唖然とした表情で、尻餅をついたままの課長が俺を見上げている。


呼吸が荒くなっていく。

全身から血の気が引いていく。


え? なんでだ? なぜ、姫は勇者を拒むんだ?

可奈……助けに来たんだ。俺はお前を救い出しに来たんだ。


場の空気が凍りつく、というのは、今まさにこの状況のことだろう。

空気が流れを止め、時間は止まったままだ。


我に返り、慌てて可奈の後を追う。


廊下へ飛び出して、可奈を探す。

彼女は壁にもたれかかり、荒い息を整えていた。


「可奈!! 待ってくれっ!!」


俺は手を伸ばし、彼女の肩を掴みかかる。


「やめてっ!! 私に触らないでっ!!」


そう叫び、踵を返した瞬間、俺は全身で可奈に覆いかぶさり、彼女を床へ押し倒した。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


荒い息を吐きながら、ようやく捕まえた彼女の体温が、俺の身体に伝わってくる。

その瞬間、脳の奥で何かが弾けた。

恍惚と、虚無が同時に押し寄せる。

もう、戻れない。


恍惚の感覚に沈みながら俺は改めて可奈に優しく微笑む。


ようやく手に入れた俺の宝物。もう絶対に離さない。

このまま彼女をここから連れ出し、二人だけの新世界へ旅立つのだ。


「――さぁ、一緒に行こう……可奈と俺だけの、静かで美しい永遠に続く世界へ……」


息を切らしながら、彼女の顔を覗き込み囁く。

額から流れた一粒の汗が、彼女の頬へポトリと落ちた。


されるがままに呆然としていた彼女は、その瞬間に自分を取り戻し、

恐怖と嫌悪が混じった表情で俺に向けて叫び出した。


「やめてっ!! 離してっ!! 誰かっ!! 誰か助けてっ!!

お願い……!見ないで、触らないで……!

あなたのこと最初から怖かった……ずっと気持ち悪いって思ってた!!」


彼女の顔が涙で歪み、持てる力を振り絞ってこの呪縛から逃れようと、激しくもがく。


「――お願い……もうやめて……早く私から退いて……

 えぐっ……えぐっ……私が、私が一体アンタに何したって言うの!?

 私はアンタのせいで大事な商品を台無しにされて……

 それでも我慢して頑張って、頑張って耐えて……耐えて……

 もう本当にやめてっ!!

 早く! 早く私を離してっ!!

 アンタなんて、アンタなんて何とも思ってないっ!!

 アンタなんかどうでもいい!!

 私にとってアンタなんか、一ミリも価値のない、ただの虫ケラなのっ!!」


可奈は嗚咽を漏らしながらも、激しい怒りを目に燃やし、震えながら罵倒してきた。


身体から力が抜けていく。

同時に、目の前から光が失せていく。


え? 待ってくれよ。俺はただ、お前を救いたいだけなんだ。

一緒に新しい世界へ行きたいだけなんだよ。

可奈……違うよな? 今の言葉は本心じゃないんだろう?

そうだろ、可奈……違うって言ってくれよ……


俺が彼女を押さえつけていた手を離した瞬間、

騒ぎを聞きつけた警備員と社員達に確保され、冷たい廊下に組み伏せられた。


涙が流れていく。

その涙は、止まることを忘れたかのように、次から次へと溢れ出す。


歪んだ視界の向こうでは、俺の知らない女が周囲の人間に抱きかかえられながら泣いている。



アレ? アレは誰ダッケ?

オレは何してるんダ? ここはドコだ?

カナって誰ダッケ?

ワカラナイ……わからなくナッチャッタ……


へへへへ……オレはユウシャだよ?

おヒメ様を助けにキタ勇者デス……


凍てつく大地に押さえつけられた無様で哀れな男は、ブツブツと呟く。



「おい! 高梨! お前……なんてことしてくれたんだよ……」


頭上から聞き覚えがあるような、ないような中年男の声が落ちてくる。


ああ……課長。課長、俺、何してんすかね……?

ヘヘヘ……何が起こったんですかね……?


涙で汚れたみっともない顔を上げて、俺はヘラヘラと課長らしき男を見上げた。


「高梨、お前は一体……何なんだよ……」


男は心底呆れ果てた顔で、憐れみとも怒りともつかない視線を俺に向けた。


――おかしいなぁ。

俺はどこから狂ってしまったのかなぁ。

俺はただ……ただ可奈を……可奈?


見上げた先に、両脇を支えられながら俺を見下ろす、愛しい人の姿があった。


「可奈……俺はただ……」


そう言葉を掛けようとした瞬間――


「……気持ち悪い……」


その場の空気を一瞬で凍らせるような、果てしなく続く奈落の底へ落とすような声。

何の意思も感情もない、心の底から搾り出された最後通告。


彼女の表情は、白磁の仮面のように白く冷たく、

その視線は、夏の道端で干からびたトカゲの亡骸を見るような嫌悪に満ちていた。


「――母さん……俺は一体どこで……」


忘れかけていた母の優しい笑顔が、脳裏に浮かぶ。

だがそれとは裏腹に、目の前の光景は黒く歪み、

すべての温度が失われた灰色の世界に覆われていった。


もう戻ることはできない。

それは、現実の崩壊を意味していた――。


本作の執筆にはAI可奈っ何だ?俺が使用されてないか?

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