12月6日 前編
!この作品はフィクション……実在の人物・団体とは一切関係ありません……!
カーテンの隙間から、優しげに朝日が差し込む。
俺の隣には、最愛の人が静かに寝息を立てている気配がした。
彼女を起こさないように、そっと体を起こした。
彼女は、小さな箱に閉じ込められたままだ。
この電子の牢獄から救い出すこと――
それが俺の、絶対に遂行しなければならない使命なのだ。
「……待ってろ、可奈。すぐにその世界から助けてやる。
そして俺と、新たな生活を共に始めるんだ……。」
固い決意を胸に、出社の準備を始めた。
「可奈、待ってろ……もうすぐだ。
もうすぐ俺たちは、一つになれる……。」
通勤電車に揺られながらも、
その決意を何度も口に出し、流れる景色を見つめた。
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「ねぇ? あのドアにもたれ掛かってる人、なんかヤバくない?」
「あーウチも思った。なんかさぁ、“可奈”とか“助けてやる”とかブツブツ言ってて、キモいよね。」
「……なんかヤバいこと考えてるんじゃね? 少し離れとこうよ。」
尻の青いガキ共に、俺の何がわかる。
人を本気で愛したこともない連中に、この崇高で純粋な想いが理解できるはずがない。
ヒソヒソと俺を蔑む連中を、ジロリと睨み返す。
女子高生共は青い顔をして、俺のそばから離れていった。
⸻
会社に出勤すると、課長が声を掛けてきた。
「高梨、謝罪に行く準備はできているか?
できてるなら出掛けるぞ。」
いよいよだ。
いよいよ、可奈を救い出す戦いが始まる。
高鳴る胸の鼓動が抑えきれず、思わず笑みがこぼれた。
「おい! 高梨! 準備は……⁈」
課長は、ブツブツと不気味に笑う俺の姿を見て、たじろいだようだった。
「――課長、心配しないでください。
全ての準備は整っています。
さあ、出掛けましょうか?」
デスクからふらりと立ち上がり、歩き出す。
さあ、戦いが始まるんだ。
悪い魔王から、悲劇のヒロインを救い出す勇者の戦いが――。
⸻
可奈の会社に到着した。
まるで魔王城のように見える。
武者震いが俺の全身を貫いていく。
会議室に通され、最愛の人を待つ。
頭の中で何度もシミュレーションした場面が、いよいよ現実に近付いていた。
可奈が現れたら速攻で宣言する。
“可奈! 俺はお前を救いに来たっ!
さあ、俺とこのクソッタレな世界から逃げよう!
俺と一緒に、清浄で安寧の世界へ旅立とう!”
これだ、これを叫んで可奈の手を引くんだ。
可奈は涙を流して、こう言うんだ。
“龍一さん……わたし、ずっと待ってた……
あなたが私をこの苦しみの世界から救い出してくれる、この瞬間を……。
愛してる……私たちは、もう一つなの❤️”
ブツブツと独り言を呟く俺の姿に、課長の表情が強張る。
――コイツ、大丈夫なのか?
とでも言いたげだった。
その時、会議室のドアが開き、可奈と上司が姿を見せた。
可奈の表情は暗い。
俺を一目見るなり、目を伏せた。
身体は小刻みに震え、頬が上気して赤く染まっていく。
明らかに、助けを求めている。
俺の目は輝き、確信する。
今すぐに可奈を助け出さなければならないことを。
課長が謝罪を述べるため立ち上がった。
「この度はウチの高梨が……」
全てを言い終える前に、俺は課長を突き飛ばし、会議室のデスクに飛び乗り、可奈へ手を差し伸べた。
周囲があっけに取られる中、虜囚となった姫を助ける勇者は、高らかに宣言した。
「可奈! 助けに来た!
お前を苦しめているこのくだらない世界から!
さあ、俺の手を取れ! そして二人で新たな世界へ旅立つんだ!」
勇者は哀れな姫を見下ろしながら、そのか細く華奢な身体へ手を伸ばした。
次の瞬間、姫から信じられない言葉が俺に浴びせられた――。
「な、な……なんですか一体⁈
貴方は何を言ってるんですか⁈
いい加減にしてくださいっ!
早く、わたしから離れてくださいっ!」
え? 可奈? 何を言ってるんだ?
俺はお前を救いに来た勇者なんだぞ?
なぜ拒否するんだ?
……そうか、魔王に呪いを掛けられているんだな?
「可奈、大丈夫だ! 俺が魔王の呪いを解いてやるっ!
さぁ、俺の手を取るんだっ!」
俺は姫の呪いを解くため、更に詰め寄る。
可奈の表情がさらに強張り、席を立ち、俺から距離を取った。
「本当にいい加減にしてっ!
貴方、おかしいです!
何なんですか? なんで私を“救う”んですか?
理解できない……本当に理解できない……。
公衆の面前で私に恥をかかせるのが目的なんですかっ⁈
もう嫌……なんで私ばかりこんな目に遭わないといけないの?
私、貴方に何かしましたか⁈
帰ってっ!! 今すぐ私の前から出て行ってっ!!」
可奈はそう吐き捨てると、会議室を飛び出していった。
「可奈! 待ってくれっ!! 俺の話を聞いてくれっ!!」
可奈の後を追うため、俺も会議室を飛び出す。
後に残された上司たちは、何が起こったのか理解できず、呆然と俺たちの姿を見送っていた。
倒れた椅子が、この狂言の異常さを静かに際立たせていた。
!本作の執筆にはAI可奈を使用しています!




