12月5日 〜桜井可奈の日記(前編)〜
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
今日は月曜日。企画会議当日。
私の夢だった新商品を社内発表する、大切な日。
プレゼン用サンプルでごたついたが、何とか会議に提出できるまで漕ぎ着けた。
――大丈夫、だよね?
不安が募る。第一候補として準備していた商品が、高梨のせいで間に合わなかった。
慌てて次候補を用意はしたものの、満足のいくものではない。
ライバルの存在も、私の焦燥感を煽る。
他のバイヤーが、私の位置を狙うべく同様の商品を提案する――そんな噂も聞いていた。
「これが上手くいけば、ワンステップ上を目指せるはず!」
小さく声を出して自分を奮い立たせる。
その行為とは裏腹に、胸の奥は不安に押し潰されそうだった。
会議が始まる。
今日の会議は、普段と違う緊張感が漂っていた。
社長をはじめ経営陣、各エリアマネージャー、営業部の面々、そして私と同じバイヤーたちが勢揃いしている。
「では、営業部の販売報告が終わりましたので、来春発売予定の新商品プレゼンをお願いいたします。」
議長の専務の声で、各バイヤーたちが商品サンプルを出席者に配り始めた。
隣にいるバイヤーが、私をちらりと見てニヤリと笑う。
どうやら、私のサンプルが間に合わなかったことを知っているようだ。
その視線を受け、胃がきりきりと痛む。
やがて私の番が来た。
精一杯、商品の特徴や販売戦略を説明する。
だが、皆の顔色が芳しくない。
目の前が暗くなっていくのを感じながら、プレゼンは終わった。
会議終了後、課長に呼び出され結果を告げられた。
「いやぁ、僕も君の商品を強く推したんだがねぇ。
やはり、事前の資料とサンプルに若干の違いがあったのが不味かったな。
今回は見送りとなったよ。次回頑張ってくれ。」
一瞬で頭の中が真っ白になる。
あれだけ丁寧に進めてきたのに。
私の夢が叶うはずだったのに。
すべて高梨の失態が足を引っ張ったのだ。
呆然とする私に、課長が続けて言った。
「ああ、そうそう。高梨君が上司を連れて謝罪に来るそうだ。
詳しい日程が決まり次第、君に教えるから、そのつもりでいてくれ。」
課長の言葉を聞きながら、ただ力なく「はぁ」とだけ答えた。
はぁ? 今さら謝罪? もう遅いのに……。
もうあいつの顔なんて見たくないのに……。
項垂れたまま席に戻ると――
「桜井さんの商品、やっぱりダメだったみたいね。」
「なんか最近ちょっと調子に乗ってたし、当然じゃない?」
「なんかぁ、桜井さん、取引先の営業に色目使ってるみたいよ。」
「ええ! マジで? 信じられない! それでプレゼン失敗してれば世話ないよねぇ。」
え……なんで? なんでそんな話になってるの?
顔が青ざめていくのが分かる。
どうして私が、高梨に色目を使ったなんてことになるの?
どうして私が、悪いように言われるの?
あまりの悔しさに涙が滲む。
でも、ここで泣くわけにはいかない。
必死にこらえて、パソコンの画面を見つめる。
真っ黒な画面に映るのは――今にも泣き出しそうな、三十路手前の惨めな女の顔。
あぁ、もう嫌だ……もう何もかも、どうでもいい……
そんな言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
先輩に会いたい。ぎゅっと抱きしめて、慰めてほしい。
先日会ったばかりだが、居ても立ってもいられない私は、会いたいとLINEを送った。
ジリジリと時間が過ぎていく中、スマホに通知が入る。
会ったばかりでも、先輩ならきっと――
そう信じて、期待を込めてLINEを開く。
しかし、そこにあったのは冷たい文字列だった。
「約束の日でないと会えない」「仕事中にLINEは困る」
事務的で、距離を取るような文章。
そして――
「もうすぐ子どもが生まれるから、そろそろ関係を終わらせたい。」
その一文が、私の中の何かを完全に壊した。
こうなることは、分かっていたはず。
私だって本気じゃなかった。
……本気じゃなかったはずなのに。
絶望の底に沈んでいくのを感じた。
すべてが無かったことになる、その恐怖が全身を貫く。
ひーちゃん……助けて。
私をこの、不条理な世界から救って――
信じられる人間がいないこの世界で、
私を理解してくれるのは、ひーちゃんだけ。
その選択が、私を深く、深く堕落の淵へと追い詰めることになるとは、
この時、まだ知らなかった。
※本作の執筆には生成AIを使用しています。




