憎悪
憎い。
ファルメールを見ているといつもそんな気分にさせられる。
ファルメールは俺の一つ下の弟だ。
うちの家は、有名な魔術の研究者を多く出している家だ。
全員が特殊な魔術を持っている。
ファルメールを含めて。
例えば、俺の異能は瞬間移動だ。俺の兄も精神操作の異能を持っている。そのさらに上の兄は居場所探知の能力を持っている。父も記憶操作の異能を持っている。これらは世界でも最も特殊とされる魔術の一つだ。
その中でも、古都の魔術は特殊だ。
促成魔法。人の魔術の威力を倍増させる。
実際に俺の魔術もファルメールによって強くなった。
そのせいか、ファルメールは母に気に入られていた。
ファルメールがいなかった頃は、俺が母に大事に育てられていた。
俺はいつも母に褒めてもらっていた。
しかし今はファルメールばかりが母に褒められている。
悔しくて仕方がなかった。だが、それは俺の努力が足りないせいだ。
そう思って、俺は努力を続け、強くなっていった。
そして俺は、瞬間移動とは別に、様々な系統の魔術も使えるように練習した。
これでやっと母にも認められる。そう思っていた。
だが、母は俺がいくら強くなっても、俺のことを褒めてはくれなかった。
むしろ、ファルメールの促成魔法によって俺が強くなったと思ったのか、母はファルメールのことばかり褒め続ける。
(ファルメールがいなくても俺は強かったのに。)俺はそう思った。
ファルメールは努力をしなくても母に認められると知っているのだろう。
努力を全くしない。何もしてないのに認められている。
そんなファルメールを兄として大切にしたりはできなかった。
努力によって得られたものを、努力以外のものが原因で得られたと言われるのが辛かった。
(ファルメールなんていない方が良かったのに。)
最初にそう思ったのがその時だった。
案の定、父は俺の努力を認めてくれた。そのおかげで、俺は頑張れた。
そんな中、俺に嬉しい知らせが届いた。
なんと、ファルメールは促成魔法以外の魔術を使えなかったのだ。
当たり前だ。強い魔術を持ったせいで、努力を怠っていたのだから。
これでやっと母もファルメールを見捨ててくれるだろう。
だが、違った。母はファルメール庇い、擁護したのだ。
努力をせず、一つしか魔術が使えない。
それなのに母にかわいがられている。
そんな弟が許せなかった。
こんなのが自分の弟だということに吐き気がした。
だが、上の兄たちも同じように思っていたのだろう。
次の日から、ファルメールへのいやがらせが始まった。
最初は、ファルメールの大事にしていたぬいぐるみを盗むところから始まった。
それがだんだんエスカレートしていき、いつの日か部屋に閉じ込めたり、家から追い出すようになった。
するとある日、母が俺の部屋にやってきた。
きっと、今までのことを謝って俺のことを褒めてくれるのだろうと思った。
そうすれば、ファルメールのことを許してやっても良かったと思った。
だが、違った。
母はファルメールへのいやがらせをやめてほしいと言ったのだ。
自分は何を言われているのかを疑った。
母は、まだあの出来損ないを擁護するのだろうか。
(許せない。)
そう思った。
ある日、俺はファルメールの食事に毒を盛った。
飲めば魔力がほとんど使えなくなる薬だ。
人は体中を覆う魔力で様々な攻撃から身を守っている。
だが、その魔力が使えなくなれば体の防御力はほとんどなくなるのだ。
そして、夜になるとファルメールの部屋に向かった。
そこには、母に慰めてもらっているファルメールがいた。
頭を撫でられて、嬉しそうにしている。
許せなかった。
ファルメールがいなければ、あそこにいたのは俺だったかもしれないのに。
俺は瞬間移動の能力でファルメールの後ろに移動した。
そして、拳銃を取り出してファルメールを頭を打った。
だが、その弾がファルメールに当たることはなかった。
俺に気づいた母がファルメールを魔力で庇ったからだ。
弾は母の頭に吸い込まれるように着弾した。
母は音を立てて倒れた。
俺は呆然として立ち尽くした。
いつの間にか俺は瞬間移動で自分の部屋に戻っていて、ベッドの中で泣いていた。
誰が悪かったんだ。
誰が母を殺したんだ。
俺じゃない。俺は母を殺すつもりなんてなかった。
俺じゃない。俺じゃない。俺は悪くない。
…ファルメールだ。
そうだ、ファルメールが悪かったんだ。
ファルメールがいつも母に頼ってばかりだったから。
ファルメールが弱かったから。
だから母は死んだ。
全部ファルメールのせいだ。
その後、父が俺を庇ってくれた。
父はファルメールの記憶を全部消して、母は突然の心臓発作で亡くなったことにしてくれた。母の葬儀は家の中で行った。母の頭に入った弾を誰かに見られるわけにはいかなかったから。
…母の亡骸は海に沈められた。
ファルメールは葬式の時に、泣いていた。自分のせいで母が死んだのに。あいつは最後までずっと泣いてばかりだった。泣いているばかりで何もしなかった。
俺が盛った毒の効果は、葬儀の後しばらくしてもずっと残っていた。ファルは魔力がほとんど使えなくなり、家で一番の役立たずとなった。
そして最後は転生させる薬を使って処分した。
ファルメールは俺からすべてを奪った。
母の愛情も
母の命も。
それなのに、まだファルメールは大事にされている。
転生した先でも、〈友達〉という存在に大事にされていた。
ファルメールは俺の大事なものをすべて奪った。
だから、俺もファルメールの大事なものをすべて奪う。
俺は知り合いの魔術師や魔導士すべてに声をかけた。
ファルメールの大事なものを、壊すために。
ファルメールが転生した先で住んでいるあの国を、滅ぼすために。




