約束
「おい‼ 今お前、雷出してただろ。」
「えっ? なんのこと? 多分目の錯覚だよ。」
「それは無理がありますよ。羽月さん。」
ファルが笑いながら言う。
笑い事ではないだろう。この和野眞は異能力とか魔法とかが好きな男子だ。
まあ、いわゆる中二病というやつだ。
そんな彼に魔法が使えることを言えば、絶対に食いつかれるに決まっている。
私はうまく言い逃れる方法を頭を全力で回転させて考える。
だが、それは全く意味がなかった。
「羽月さんは魔法が使えるんですよ。」
「魔法⁉ なんだそれ‼ 異能力みたいなもんか?」
「そうですよ。羽月さんは魔力が多くて、本当にすごいんです。」
「おい! 俺にその使い方を教えろ‼」眞がキラキラした目でこっちを見つめる。
(この人に魔術を教えたら友達に自慢したりして大変なことになる。)
私は慌てて断ろうとした。
だが、ファルは違った。
「いいですよ~。」とニコニコ顔で言ったのだ。
「ちょっと待て‼」私はファルと眞を引き離してファルに耳打ちをする。
「魔術ってそんな簡単に教えていいものなの?」
「はい。大丈夫です。それに、眞さんはすでに魔力がありますから。」
「えっ⁉ どういうこと?」
「羽月さんにはまだ言っていませんでしたが、僕の魔術の範囲は半径一キロメートルです。つまり、ここの近くに住んでいる人は全員魔力を持っています。」
「えーっ⁉ そんな大事なことは早くいってよ。」
「いや、普通は魔力があっても魔法を使ったりはできませんから。羽月さんが変なんですって。」
「なあなあ。何話してんだ?」
眞が後ろから話しかけてくる。
「俺にも雷の使い方を教えろよ。そうしないと体育館を黒焦げにしたこと、先生にばらすぞ。」
「そ、それは困るけど。」
眞は私の弱点を見つけたような誇らしげな表情を浮かべた。
確かに私が雷を落としたことがばれるのは困る。
体育館はまだ何とか形を保っているものの、私が立っていた場所のすぐ近くは真っ黒に焦げてしまっている。
天井と地面を立て直さなければならない。
修理費がどれほどかかるのか想像するだけでぞっとする。
「教えてくれたら先生にも、勝手に雷が落ちてきただけでお前はまったくの無関係だって証言してやるぞ。」眞がにやーっと笑みを深める。
「くぅ。」
「じゃあせっかくですし、二人まとめて魔術の使い方を教えますよ。今はとにかくこの場を一刻も早く立ち去るのが最優先です。」
確かに、ファルの言う通りだ。体育館の周りがざわざわしている。野次馬が集まって来たのだろう。私はファルの手を引いて、外に走る。
「さっきのあれ、約束だからね。先生にはうまく説明しておいてよ。」
「おう!俺にも魔術を教えろよ。約束だからな。」
眞が本当に先生にうまいこと説明ができるのだろうか。私はなんだか不安になってきた。
私はファルの手を引いて外に出る。
空の色が元の青空に戻っている。
(良かった)
私の魔術の影響はもう消えたようだ。
私は胸をなでおろす。
だが、それも一瞬の間だった。
ファルと一緒にゆっくり歩いているうちに、急に風が強くなってきたからだ。
天気も悪くなった気がする。辺りが影につつまれた。
「急に天気が悪くなったっちゃったね。どうしたんだろう。」
私は空を見上げた。先ほどまできれいに見えていた空が、今は全く見えなくなっている。
「羽月さんはもう魔術を使っていないですよね。」
「うん。まださっきの雷の効果が続いているのかな?」
なんだか嫌な予感がした。
急に後ろから声が聞こえてきた。
『久しぶりだねファルメール。元気にしているかい?』
急に後ろから声が聞こえてきた。私は慌ててそっちに振り向く。
すると、高校生ぐらいの人が三人、並んで立っていた。
ファルメールと言っていたが、ファルの知り合いなのだろうか。
私はファルの様子を窺ってみる。
ファルは小さく震えていた。
あ、ちなみにこっちの話はカクヨムでも投稿しています。