魔法
次の日、ちょうど日曜日だったので、私は自習室に行き、ファルに勉強を教えていた。
ちなみにファルは二桁かける二桁の筆算ができるようになった。
少しずつだけれど、勉強ができるようになってきた。私は適当に書いた計算問題をファルに渡した。
ファルは楽しそうにその問題に取り組む。
この調子でいけば次に日には分数や少数を教えてもいいだろう。そう考えていると、邪魔が入った。
「ねえ、羽月、話があるんだけれど。」
そこには美和子とそのグループのメンバーが三人、並んでいた。
「ファル…じゃない、楓はこの問題を解いてて。すぐに戻るから。」
「わ…分かりました。」ファルは心配そうな顔で私の顔を見た。
美和子について歩いていくと、食堂にたどり着いた。
全校生徒が入ることができるようにかなり広くできた食堂だが、今は時間的に誰もいない。
中に入ると、美和子たちは私の方を向いて、こっちを睨んできた。
「ねえ、楓の様子がおかしいんだけど。おまえのせい?」
いつもだったらすぐに謝って、少しでも怒らせないようにしただろう。
だが、今日はそうは思えなかった。
楓の中身が別の人になっているだなんてばれてしまえばファルに危険が及ぶかもしれない。
そう考えると逃げ出す気になれなかった。
「知らない。おまえらのやることがあまりに幼稚すぎて、楓も愛想をつかしたんじゃない?」
「はぁ⁉ とぼけるな。適当なことをいうなよ。」
「美和子、あまり熱くならないで。楓のことはもういいでしょ。」
後ろに立っている人が美和子を止める。
美和子は少し私の方を睨むと、いいことを思いついたかのように口元の笑みを深めた。
「ああ、そうだね。楓はうちのグループから外す。…今日からはお前と一緒に楓もいじめてやるよ。
・・・良かったな、仲間ができて。」
美和子の後ろに立っている三人が嘲笑するかのように笑った。
その言葉を聞いて、私の胸の奥が燃え上がるような感じがした。
「楓に手を出したら、許さないから。」
「はぁ⁉ お前になにができるっていうの?」
彼女は隣にあった掃除用具入れの中から、箒を取り出してこっちへ向けた。
この箒は留め具が金属でできていて、当たり所が悪いとかなり痛い。
だが、私はファルを守ることしか考えられなくなっていた。体が燃え上がっていようなのに、胸の奥は妙に涼しい。体中が怒りに取り込まれて、飲み込まれてしまうように感じた。
彼女は箒を振り上げた。でもそれが私に当たることはなかった。
私が箒を掴んだ瞬間、箒が塵になって消えたからだ。
「は⁉」彼女たちは塵となった箒を見て、驚いた声を上げた。
そして、彼女たちは今までに見せたことがない表情を浮かべた。
それは、恐怖だった。今までに見せてきた嘲笑でも、冷笑の表情でもない、初めて見る顔だった。
彼女たちは食堂から出て、どこかへ逃げていった。
なんだ、あっけない。
今までは絶対に勝てないと思っていた相手だったのに、いとも簡単に追い払えた。
だが、今の炎は何だったのだろう? もちろん、今までに炎を出したことなどない。
完全に初めての現象だった。
原因を考えてみる。一つだけ思い当たることがあった。
ファルは魔法について話をしていた。ファルが関係しているのではないか。そう思った。