過去
「すみません。眞さん。僕、眞さんに魔術を教えられません。」
ファルにそういわれて、俺は口をあんぐり開けるほど驚いた。
「魔術を教えられないってどういうことだ?」
俺は慌てて聞き返す。
今日はやっと魔術を教えてもらえるとワクワクしていたのに、教えてもらえないとはあんまりだ。
(やはり教える人に制限などが付いているのだろうか。)
俺に教えられないルールなどがあるのかもしれない。
だが、ファルに聞いてみると違う答えが返ってきた。
魔術の使える人は魔術師に狙われやすく、連れ去られてしまう危険性があるそうだ。
大したことのない理由に拍子抜けしてしまう。
「なんだ。そんなことか。俺が魔術を使えるようになったらそいつらを倒すから心配するな。」
魔導士が攻めてくるのなら全員やっつければいいだろう。
別に俺に教えられない理由があるわけではないのか。
それを聞いて、俺は少しほっとする。
だがファルは違ったようだ。
ファルは驚いたような顔をしていたのだ。
「えっ? 怒らないんですか? 僕のせいでこの国が危険にさらされるかもしれないんですよ。」
「ばか。怒るわけないだろ。異能力バトルとか面白そうだ。」
「えっ?」
俺は思ったことをそのまま言っただけのつもりだったが、ファルは口をポカーンと開けた。
「ほら、早く魔術の練習を始めようぜ。」
俺は魔導士のことなんてどうでもいいから早く魔術を覚えたい。
ちなみに俺は、覚えたらクラスの人たちに自慢する気満々だ。
(絶対にクラスの奴らをビビらせてやる‼)
だが、俺の企みは羽月に早々に気づかれたようだ。
「眞、ファルが教えたくないって言ってるのにダメに決まってるでしょ。」
羽月は呆れた顔をして俺を見た。
「え~。別にいいだろ。教えられないとはいわれたけれど教えたくないとは言われてない。」
俺はふてくされながら言う。
「そういう問題じゃないって。ダメに決まって——」
いつも通りの口論が始まると思ったが、それは早々に終わった。
羽月の後ろにいるファルの目から……静かに涙がこぼれているのが見えたからだ。
「えっ⁉ どうしたのファル。」羽月が慌ててファルに駆け寄った。
「僕、迷惑じゃないんですか?」
ファルは急に言った。
「どうしたんだ急に。」
俺は慌てて聞く。泣かせてしまうようなことを言っただろうか。まったく記憶にない。
「……僕のせいで危険な目に合うかもしれないんですよ。僕、本当にここにいてもいいんですか?」
「ばか。いいに決まってるだろ。それにお前は俺に魔術があるって教えてくれた。
……夢を見させてくれた。それなのに迷惑に思うわけないだろ。」
俺は慌てて言う。
本当にその通りだ。迷惑なわけない。
俺は小学校の頃からアニメや漫画が好きだった。
そして、異能力や超能力と言ったものに憧れていた。
小学校の頃は話題が合う人も何人かいたから、アニメの話をして楽しむことができた。
ちなみに羽月も小学校のことにできた友達のうちの一人だ。
だが、中学に入ると俺は「変」と言われるようになった。
「痛い」とか「中二病」とか言われ、だんだん友達も減っていった。
それから俺は、誰にも目立たないように生きるようになった。
自分の好きなことや、興味あることを隠し、「普通」に生きるようになった。
そして段々、小さい頃に感じていた夢や憧れをなくすようになった。
ある時俺は、羽月がクラスメイトの園崎楓と歩いているのが見えた。
俺は二人が一緒に歩いていることに少し驚いた。
前に見たときは仲が良さそうには見えなかったからだ。
俺は羽月が心配になってこっそり後を追った。
だが、そこで俺が見たものは巨大な雷だった。
それは青くて強く、きれいで、小さい頃に俺が想像していた「異能力」よりも何十倍もすごいものだった。
その時、久しぶりに小さい頃の憧れを思い出せた。
ファルは俺が小さい頃の「夢」を実現させてくれた。
「夢」を見させてくれた。
それなのに、ファルのことを迷惑に思うわけがない。
「じゃあ僕、本当にここにいてもいいんですか?」ファルが泣きそうな声で言った。
「いい。いいに決まってるだろ。」
ファルの目から涙がこぼれ落ちていた。
ファルは涙を拭いて、微笑んだ。
「ありがとうございます。」
その言葉を聞いて、俺は羽月の言っていたことを思い出した。
「ファルはいつも優しくて、いい友達なんだよ~。」
あいつはそう言っていた。
「友達」か。
俺にもまた、できる日が来るのだろうか。俺はいつの間にか、そう思っていた。




