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5.帰り道

 朝好が駅前でまごついていたら、修司に手を引かれて改札に入った。朝好と修司の乗る東京方面は反対ホームだ。いま自分達のいるホームは朝好の実家方面だった。


「俺も行く」

「えっ」


 ホームに滑り込んできた電車に乗り、並んで座席のシートに腰を下ろした。


「いまから朝好のご両親に俺を紹介しろ」

「えっ、えええ」


 他の客が朝好の声に反応し、隣から修司に注意された。朝好は四方に頭を下げた。


「朝好、俺はずっとお前だけを好きだった、いまもヤバいくらいにお前だけを愛している」


 修司が自分を見ている。長いまつげの奥で揺れているのは、この世の悲しみやら喜びを凝縮した光だ。朝好は彼の瞳に飲み込まれそうな錯覚に陥り、横に腰をずらそうとした。その朝好の手に、熱くしっとりとしたものが触れた。鞄の下で修司も彼と指を絡ませた。人前なのに、修司に手を絡めていると、どちらがどちらの指なのかすら不明瞭になる。


「なんだよそれ……」


 修司にだけ聞こえるように言った。


「俺は朝好を前にすると我を忘れる、他の奴ら相手ならいくらでも優等生を演じられるのに、お前だけは駄目だった。お前の真っ直ぐさにやられたんだ、もうさ、お前がまぶしくて、かわいくて、たまらなく好きだった」

「野崎くん……」


 修司の目尻は赤く、白目が潤み始めた。

 朝好は無性に喉が渇いた。


「俺がもっと素直だったらお前を苦しめなかったのにな、ごめんな」

「大丈夫だよ、大丈夫だから」

「卒業式の日に朝好から声をかけてくれてマジでうれしかったんだ、それなのに酷い言葉でお前を傷つけた、だから、なんで俺をまだ好きでいてくれたのか、それこそ奇跡だ」


 修司はなおも続けた。


「俺が朝好に話しかけたら、他の奴がお前に目を付けるだろうし、人気のないところならいいのに、よりにもよって他の奴らがいるところで話しかけてきて焦ったわ、お前のかわいさに気が付いていいのは俺だけなんだからな」


 朝好はぽかんと口を開けた。修司と最後に会った日、彼がなんと言ったかを思い出すそうとした。ふと胸に抱く鞄の中でカチャリと音が鳴ったのを耳にした。てっこちゃんがエールをしてくれた気がする。


 朝好は鞄から鍵を取り出して、彼にキーホルダーを見せた。


「もしかして、てっこちゃんを女子からもらったって、それも嘘なの?」


 修司は顔をこわばらせた。図星を指されて何も言えないと見た。

 朝好は呆れながら、修司の手を強く握った。それは目的の駅に着いても解かれなかった。

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