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アラウンド・ザ・シークレット3  作者: 空谷あかり


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11/11

11 再戦

 しばらく待った後に、サーキュラーとジーク達の戦闘が始められることになった。ただし双方ともに「かったるい」との理由で、父王の城を出て少し離れた原っぱがその場所に選ばれることになった。少し離れたのは城内から騒ぎを聞きつけて衛兵が出てくると困るからである。

「明華さん、おひさしぶりですわ」

 宿屋からやってきた明華に、フーシャ姫の姿のままサーキュラーは声をかけた。あら、と明華が驚く。すぐ後ろにはヤコブがついてきていた。ヤコブは周りを見渡し、ささっと明華の後ろにはりついた。

「なんだっけあんた、姫じゃなくてサーキュラーだっけ? あの時はやってくれたわね」

 フーシャの姿をしたサーキュラーが微笑む。

「申し訳ありませんでしたわ。あの時はああせざるを得ませんでしたのよ」

 彼女はそこに立ち止まるとぐるっとまわりを見た。ジークとカーンがすぐ近くにいて、タリオンはそのそばで座り込んで何かぶつぶつ言っている。魔王は一同がよく見える位置にある大岩に陣取っており、その周囲を四大将軍らと共に買い物から戻ってきたセラフィムが立っていた。セラフィムの前ではハンスがじっとことの成り行きを見守っている。

「変なガキに呼び出されたんだけど、何これ? やるの?」

 そこにその変なガキこと、ハエトリが宙を跳ねて戻ってきた。手に大き目の封筒を持っている。中には硬い表紙の冊子がいくつか入っているようであった。彼はそれを持ったまま魔王のところまで行って報告した。

「叔母上様からサーキュラー様にって渡されました。これ、どうしたらいいですか」

 魔王がそこにいたグランデを呼ぶ。グランデはそれを預かり、ハエトリはまたその場を去った。ジークとカーンが明華に近寄る。タリオンも立ち上がって頭を振り、そばに寄ってきた。ヤコブも空気を察して立ち位置を変える。

「好きなだけやるがいい」

 魔王が言った。

「我々は手を出さぬ。お前達と戦うのはサーキュラー一人だ。ただし、どちらかが死にそうな時は介入する。その時点で勝負はついているはずだからな。それでよいか」

 フーシャの姿をしたサーキュラーが答えた。

「問題ありませんわ」

 カーンが言う。

「ぶっ殺してやりたいが、まあそれでいい」

「殺し合いをする必要はなかろう」

 困ったように魔王が言った。

「無駄な殺生は好まぬ。それに遺恨を晴らしたいだけと見たが」

 くっ、とカーンが笑った。

「その通りだ。あとタリオンの目を覚まさせてやりたいからな。場を設けてくれたことに感謝する」

 それからカーンは武器を構え直し、宮廷式の敬礼をした。感謝を表す敬礼である。

「お前は騎士だったのか」

 カーンの動作を見た魔王が言った。意外な表情だった。セラフィムも、フーシャの姿をしたサーキュラーもおや、という顔をする。その反応を見たカーンが言った。

「しち面倒くさいので廃業した。ああいうのは性に合わない」

 くす、とフーシャの姿でサーキュラーが笑った。

「納得ですわ」

 ジーク達の動きが変わって臨戦態勢になった。サーキュラーは身をかがめてふわりとスカートを膨らませ、両手に白い糸を何本も絡ませる。

「いくぜ!」

 その声で一斉にジーク達はサーキュラーに襲いかかってきた。サーキュラーは網を張って彼らを迎え撃った。


 戦闘が始まったのは午前中である。もうとっくに正午を過ぎていた。魔王は相変わらず大岩に座っていたが、買い物から戻ってきたセラフィムと四大将軍もその近くの地面に座り込んでいた。ハンスは同じように地面に座ってハエトリと何か話している。それからセラフィムの近くに寄ってきて言った。

「あのー」

「なんですか」

「そろそろお昼なんですけど」

 ああ、という感じでセラフィムはハンスの顔を見た。まともに昼食が必要なのはハンスだけだったのですっかり忘れていたのであった。

「そうでしたね」

 ハエトリも実はお腹が空いていた。じっとしていればさほど空腹は感じないのだが、彼は昨日から動き詰めである。サーキュラーと違って雑食なので何が出ても問題はない。それで一緒になって言った。

「何かありませんか。何でも食べられますから」

 セラフィムは四大将軍のほうを見た。思ったより戦闘が長引いていて、彼女らは飽きてしまってハエトリが持ってきた冊子をみんなで見ていた。この子どうかな、と勝手なことを言っている。セラフィムが覗き込んでみるとその冊子は見合いの釣書であった。

「そういうのは勝手に見たら駄目ですよ」

 じっとしていたが魔王も本当のところは飽ききっていた。なのでセラフィム達が何か言い出したのでそっちに参加することにした。

「どうした」

 はい、とセラフィムが魔王に向き直る。

「ハンスさんとハエトリさんのお昼ごはんを忘れていました。正直、こんなに長引くと思わなかったので……」

「私もだ」

 ジーク達とサーキュラーはまだやり合っていた。ヤコブとタリオンはそろそろ息が上がってきている。明華はまだ体力が持ちそうだったが、長い呪文が唱えられなくなっていた。ジークとカーンは汗びっしょりである。

「くおらあああ!」

 気合とともにジークの剣が振り下ろされたが、サーキュラーはそれをさっと避けた。サーキュラーはまだフーシャ姫の姿のままである。しかしもう網が張れない。糸の在庫が尽きたようであった。

「あれは後が大変だな。何か用意しておかないと泣きを見るぞ、ハンス」

 魔王が言った。あの、とハンスがたずねる。

「どういう意味ですか」

 魔王はハンスを見て、それからセラフィムを見た。

「ハンスとハエトリに食事を用意してやれ。それからサーキュラーの分も何か買っておけ。鶏肉でいいだろう」

「どのくらいですか」

「鶏丸ごとを一個でいい。さほど食べないからな」

「かしこまりました」

 そしてハンスを見た。

「少し虫取りをしておけ。腹が減ったと言って絶対にまっすぐお前のところに来るぞ」

 ハンスの顔が引きつった。ハエトリが隣で手伝います、と言った。二人はセラフィムに適当な空き瓶を用意してもらうと、それを持って近くの藪に分け入った。


 セラフィムが買い出しから戻ってきてもまだ、ジーク達とサーキュラーは戦っていた。四大将軍はだれきっていて地べたに寝転がっており、ハンスとハエトリは虫取りから戻ってきていて、空き瓶いっぱいのバッタを眺めていた。魔王だけが辛抱強く大岩に座っている。もう二時を回っていた。

「昼食です」

 ハンスとハエトリに袋に入ったサンドイッチを渡す。だれまくりの四大将軍らにも丸い缶入りのクッキーを渡した。それから魔王のところに行って買ってきた丸鶏を見せ、魔王にはササミの素干しを大袋から出して数本差し出した。

「まだ終わらないんですか」

「うむ。さすがに飽きた」

 かなり硬いササミを噛み砕きながら魔王が答える。ジーク達もサーキュラーも、双方ともに疲労困憊であった。しかしまだ決着がつかない。とうとうサーキュラーはフーシャ姫から巨大な蜘蛛の姿となった。

「やっと変わったか」

「けりをつける気ですね」

 その姿のままジーク達に近寄っていく。ジークとカーンは怯むことなく立ち向かっていったが、後衛では混乱が起きていた。

「わあああ」

 まずヤコブが悲鳴を上げて逃げ出した。続いて明華が呪文を唱えるのをやめた。諦めたのであった。

「やめるんじゃねえよ!」

 カーンが叱咤する。しかし彼女は「無理!」と言って戦場から離脱した。タリオンの動きが止まっていることに気づき、ジークが後ろを見る。タリオンはその場で棒立ちになっていた。

「どうした」

 カーンが声をかける。タリオンは呆然と巨大な金蜘蛛を見ていた。

「嘘だ……」

 やっとあのフーシャ姫は幻想だと気づいたらしい、魔王とセラフィムはそう思った。ジークとカーンも同じように感じたようだった。しかし本当のところは違った。

「こんなでかいなんて……やめてくれ……」

 サーキュラーはじりじりとジーク達に近寄ってくる。細い脚がいくつもいくつも動いて全身がゆらゆらと揺れ、大きな腹部を持つ巨体が彼らのすぐ前に迫ってきた。

「あ……あ……」

「しっかりしろ! でかいだけだ!」

 ジークが叫んだ。タリオンの目は迫り来る巨大な金蜘蛛に釘付けになっている。目を離せなくなったようだった。

「うわああああ!」

 絶叫ののちにタリオンはその場に失神した。ジーク達の負けであった。


 タリオンが目を覚ました時、そこにいた全員が彼の顔を覗き込んでいた。元の姿に戻ったサーキュラーも一緒だった。

「こいつ、どうしたんだよ」

 そう言ったのはサーキュラーである。予想外の反応に戸惑っていたのだった。まわりにいた魔王以下の魔族達も当惑していた。

「なんなのさ、いったい」

 明華が起き上がったタリオンを小突く。タリオンははあっと大きく息を吐いて、サーキュラーの顔を見た。それからぐるっとまわりを見渡した。

「あれが貴様の正体なのか」

「そうだが」

 ついでしげしげとサーキュラーを上から下まで見た。そのまま半笑いの表情でそうっと尻で後ずさりし、その場から逃げ出そうとする。たまりかねてカーンがその肩を押さえて捕まえた。

「理由を言え。お前のせいで負けたんだぞ」

 タリオンはため息をついた。おそるおそるサーキュラーを見る。そして言った。

「僕、クモ駄目なんだよ。あの姿を見るだけでぞわぞわする。生理的に受け付けない」

 へーっと四大将軍達から声が上がった。あきれたようにジークが言う。

「そんなことで気絶かよ。ふざけんなよ」

「そりゃみっともないから何とかしようとは思ったよ……でも怖いんだよ! どうしても駄目なんだ!」

 半泣きでタリオンは訴えた。まあまあ、とセラフィムが割って入る。明華は情けないねえ、と言ったがヤコブは同情的であった。

「キライなのにあの大きさはきついと思うよ。実際キモチワルイし」

 じろっとサーキュラーがヤコブを睨む。ヤコブはあわてて口を塞いだ。

「まあいい。じゃ俺の勝ちでいいな」

 サーキュラーは宣言した。くそっ、とジークが言う。カーンは仕方がない、と言った。

「クモ女は無理だ。残念だが僕の負けだ」

 タリオンが言った。勇者一同に諦めの空気が漂う。で、とサーキュラーは続けた。

「ヤコブ君、どさくさにまぎれてスッた俺の財布と手帳を返せ」

 諦めの空気が微妙な空気に変わった。カーンが言った。

「またやったのかよ」

 ジークがヤコブを睨む。

「早く返せ。殴られたいのか、このタコ」

 しぶしぶヤコブは財布と手帳を懐から取り出した。あー、と四大将軍達が言う。

「その手帳、実は返さなくても大丈夫だよ」

 クッキーの缶を抱えたサンダーが言った。グランデがそのクッキー缶に手を伸ばしながら後を引き継ぐ。

「そうね。その手帳は女の子の連絡先しか書いてないから。でもかわいそうだから財布は司令に返してあげて」

 何ともいえない複雑な表情でジーク達はサーキュラーを見た。おまえらな、とサーキュラーが言うとワンダが言った。

「だってサーキュラーちゃん、お見合いするんでしょ。いらないんじゃないの、それ」

 サーキュラーは歩いていって、ファイが広げて見せた釣書を引ったくった。ファイが感想を述べる。

「……みんな金髪だった」

 続いて彼はヤコブの元に行き、財布と手帳を取り戻した。異変に気づき財布を広げる。財布を受け取った時に感触がさっきまでと違ったのだった。

「中身はどうした」

 殺されかねない雰囲気だったので、ヤコブはポケットから小銭を取り出した。ほんの数枚である。

「札は」

 詰問され、今度は反対側のポケットからそこそこな枚数の紙幣が出てきた。サーキュラーはそれを取り上げると数を数え、財布に収めて自分のポケットにしまった。やれやれ、というジーク達一行の視線を感じて、ヤコブはそっと後ろのほうへ逃げていった。

「もういいか。我々もそろそろ帰りたいのだ」

 大岩に座ったまま、しびれを切らした魔王が言った。ああ、とカーンが答える。風が涼しくなりつつあった。干しササミの袋を持ったセラフィムが魔王のそばに立っていたが、魔王は彼に声をかけると干しササミを受け取ってかじりだした。

「何食ってんだよ」

 思わずジークが言うと、魔王は彼を横目で見て答えた。

「お前達の騒ぎはもういい。時間も押しておる。とっとと終わりにせんか」

 つまりは飽きて不機嫌なのだった。それを感じ取ったセラフィムとサーキュラーは、互いに目で合図をしてその場を収拾にかかった。いわくセラフィムは魔王のご機嫌取りを、サーキュラーはジーク達を追い返すことにしたのである。

「じゃあもういいだろ。魔王もああ言ってるし、俺達帰るから。タリオン君も何とかなったし」

「ちょっと待て」

 ジークが追いすがる。サーキュラーはそれを無視して四大将軍らに号令をかけた。

「お前ら帰るぞ。準備しろ」

 一方のセラフィムはすっかり不機嫌になってしまった魔王をなだめ、ハエトリを走らせて魔王の戻りを魔王城側に知らせた。準備ができた頃合いを見て、セラフィムは魔王に「そろそろお時間です」と言い、ハンスを小脇に抱えて一同に挨拶をした。

「ではお先に失礼します」

 言い終わる前に魔王はもうその場にいなかった。待て、とジークがセラフィムを呼び止める。彼はサーキュラーに後をお願いします、と言うとハンスを抱えて消えてしまった。ついで四大将軍達が「では私たちも」とその場から消え去った。

「じゃあな」

 サーキュラーも飛行糸を広げて飛び上がろうとした。

「待て! 聞きたいことがある!」

 その足にかじりついて、ジークは彼を無理やり地面に引き降ろし、怒るサーキュラーにすさまじい勢いで畳みかけた。殺されそうな気もしたが、ここで聞かないとまず話に入れないと思って必死であった。

「フーシャは? フーシャはどうした。いまどこにいるんだよ」

「ああ? フーシャ? 姫か」

 怒り顔のまま、面倒くさそうにサーキュラーは答えた。

「実家に帰した。こっちにはいねえよ」

 カーンが後ろで見ている。サーキュラーは改めて彼らの顔を見た。

「魔王が正式に父王に結婚を申し込んだ。条件をクリアすれば正妃に迎えることになっている」

 ジークの顔が真っ赤になった。怒りで何も言えないようだったので、サーキュラーはこう付け加えた。

「細かい話は父王に聞けよ。俺、もう行くわ」

 それからもう一度飛行糸を繰り出し、風を呼んで空中に舞い上がった。ジーク達勇者一行はその姿を呆然と見送っていた。

アラウンド・ザ・シークレットの3はこれで終了です。

まだまだ続くのですが、少し疲れたので休憩を挟みたいと思います。

疲労が抜けたらまた再開します。

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