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アラウンド・ザ・シークレット3  作者: 空谷あかり


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10/11

10 帰途

 魔王達が城内から退出した翌日早朝のことである。城門を出てそのすぐ前に広がる原っぱまで進んだ時に、後方から全力疾走をして近づいてきた者がいた。そのさらに後ろからは数人の人影が見え、やがて彼らはジーク達勇者の一行だと分かった。

「なんだ、お前達か」

 のんびりと魔王は言った。面倒な事はもう全部済ませてきたから、ジークやカーンなどすっかりどうでもよくなっていた。申し入れがあったこともさっき彼らの顔を見て思い出したくらいである。

「なんだじゃねえよ」

 カーンが言った。この時に魔王達の連れている人間はハンス一人であったので、セラフィムが彼を抱えて跳ぶか、サーキュラーが空中に釣って帰るかで皆で立ち止まって相談していた。そこへ乱入してきたのだった。

「いたな」

 ジークがサーキュラーの顔を見て言った。おう、とサーキュラーが返事をする。こちらものんびりとしたものであった。

「勇者じゃねえか。何の用だよ」

 そこへジークとカーンの後ろから息を切らしたタリオンが現れた。やっと追いついてきたのである。

「待て、僕が先だ」

 ぜいぜい言いながらタリオンはジークとサーキュラーの間に割って入った。貴様、とサーキュラーに向かって言う。かなり怒っているようであった。

「あの時はよくも……」

 ああ、とサーキュラーは言った。その顔を見て、フーシャに化けた際に彼をからかって遊んだのを思い出したのである。

「久しぶりだな。タリオン君じゃねえか。元気だったか」

「なんだと?」

 タリオンのほうは殺気立っていた。物見高く四大将軍らがその周りに集まる。セラフィムと魔王は一歩離れた場所で様子を見ていた。

「貴様……ひとの心をもてあそびやがって……」

 わりいわりい、とサーキュラーは言った。微塵も反省の色はなかった。

「なんだよ、マジだったのか。あんまり簡単に引っかかるからかえって心配したわ。ちょろすぎて」

「ふざけんな! 初恋だったんだぞ!」

 タリオンは真っ赤になってサーキュラーに掴みかかろうとした。カーンが止めに入る。ジークもカーンと一緒になってタリオンを止めた。遠くから見ていたセラフィムも仕方なさそうに寄ってくる。大事になりそうだからであった。

「悪ふざけにもほどがある! 貴様、許さんぞ!」

 掴みかかってくるタリオンを器用に避けながらサーキュラーは言った。

「そりゃー悪かった。けどよ、あんな程度で引っかかるのもどうかと思うぞ」

「僕は真剣だったんだ。それを……」

 四大将軍達はさっきから間近でそのやりとりを聞いていたが、グランデが定規を振り回しつつため息をついて言った。

「女だけじゃ飽き足らずに、とうとう男の子にまで……。司令、クセ悪すぎですよ」

 サンダーも言った。

「サーキュラー様、バイだったんだ。知らなかった」

 ワンダがもめているサーキュラーとタリオンを見て言った。

「ほんとにもう……サーキュラーちゃん、みっともなさすぎよ。他人の性癖をあれこれ言うのは気が引けるけど」

 見ているうちにだんだんと腹が立ってきたらしい。水流を呼び出しかけたところをセラフィムが止めた。

「ああ、それならわたくしが」

 そしてかなり弱くではあるが電撃を放った。

「二人とも少し落ち着いて下さい」

 騒ぎは収まったが、ジークとカーンも巻き添えを食った。サーキュラーが呆然とする。タリオンはそこにぶっ倒れていた。

「ひとを殺す気かよ、セラ」

「そんな程度じゃ死にませんよ」

 それから彼は部下達の様子がおかしいことに気がついた。じっと今までの事態を見守っていたファイが冷たく言い放つ。

「……サーキュラー様、ヘンタイ。最低」

「えっ?」

 この頃にもそもそとタリオンが起き上がってきた。グランデが顔をしかめながら言う。

「司令のプライベートをとやかくは言いませんが……まさか男の子が相手なんて。とりあえず病気とかもらってこないで下さいね。お願いしますよ」

 ワンダもあきれたように言った。

「せめて痴話げんかはよそでやってちょうだい、サーキュラーちゃん」

 それを聞いたサーキュラーとタリオンは顔を見合わせた。いや違う、と同時に言い始める。

「違うんだ、僕が言っているのはこいつじゃない」

「待てお前ら、俺はヘンタイじゃねえぞ。誤解するな」

 わあわあやっているところへセラフィムが入ってきた。魔王もそのすぐ後ろまで来て話を聞いていた。

「ところで、サーキュラーさんは何をやったんですか」

 カーンがそれを聞きとがめた。

「何だよ、聞いてねえのか」

「知りません」

 セラフィムは魔王を振り返った。知らんな、と魔王が答える。

「お前たちの命令じゃなかったのか」

 ジークが言うと魔王が答えた。

「私は姫に化けてお前達のところへ戻れと命じただけだが」

 ついでにパーティを壊滅させるようにも言ったが、あえてそれは黙っていた。諦めたようにサーキュラーが言う。

「だから、こういうことだよ」

 それからフーシャ姫の姿になった。四大将軍達がびっくりする。

「司令?」

「サーキュラー様、そういうのできるの?」

 きっ、とサーキュラーの化けたフーシャ姫は一同をにらんだ。なかなか可愛らしかった。

「みなさん、人のことを見くびりすぎですわ」

 タリオンが飛びつこうとしてジークとカーンに止められる。セラフィムが心配そうに彼を見ていた。

「そのままでいい、元に戻るな! 僕が連れて帰る!」

「落ち着け、中身は男だ!」

「正気にかえれ、タリオン!」

 ふん、と小生意気そうにフーシャ姫の姿をしたサーキュラーが言う。

「お断りですわ」

 これでは仕方ない、と魔王は思った。再戦の申し込みがくるのも当然である。

「こういうことか」

 魔王はため息をつきながら言った。

「分かった、父王とのゲームの前にお前達の相手をしてやる。こちらはサーキュラー一人で向かわせる。それでいいだろう」

 なんですの、とサーキュラーの化けたフーシャ姫が言った。

「お前との再戦を申し込まれている。風曳の谷での礼をしたいそうだ」

 くすっとフーシャ姫の姿のままでサーキュラーが笑った。オリジナルのフーシャ姫にはない、ほのかな色気が漂う。

「いいですわ。わたし一人で充分です」

 タリオンが見とれていた。四大将軍達が感心する。サーキュラーの化けたフーシャはオリジナルよりもやや胸が大きく、動作が色っぽかった。しかし下品な感じはしない。ある意味、理想のフーシャ姫であった。

「お前達はどうする。見たところ全員揃っていないようだが」

 魔王が言うとカーンは答えた。

「あと二人はこの先の宿屋に待機させている。呼べば来る」

「分かった」

 それを聞いて魔王はハエトリを呼んだ。黒い影が転がってきて、彼らの目の前で着ぐるみを着た少年の姿に変わる。

「なんでしょうか」

 大きな黒い目をぱちぱちさせるハエトリに魔王は言った。

「城にいる叔母上に帰りが遅くなると伝えよ。もうしばらくいてもらいたいと」

「分かりました」

 それから、と魔王はジーク達を見た。

「どこの宿屋だ。分かればハエトリを連絡に向かわせる」

 あ、ああ、とジークが言った。

「ミッツ村の、武器屋の隣にある宿屋だ。行けば分かる」

「伝言はあるか」

 むむ、とカーンが考え込む。そして言った。

「酒代は自分で払えと伝えてくれ。もう無理だ」

 ハエトリは分かりました、と言うと黒い塊となってその場から去った。思わずセラフィムは言ってしまった。

「大変ですね」

「うわばみがいるんだよ」

 困ったようにカーンが答える。そのセラフィムを魔王は呼んだ。

「なんでしょうか」

 魔王は小さな金塊を取り出して言った。

「サンダーとワンダをつれて買い物に行って来い。これだけあれば足りるだろう。買ったものはお前達で先に届けておけ」

 そうだった、とセラフィムはその金塊を見て思った。

「はい。かしこまりました」

 セラフィムはそれを受け取り、サンダーとワンダを呼びに行った。ほどなくして三人でその場から消え去る。魔王の浮かない顔を、ジークとカーンは不思議に思った。

「買い物ってなんだ」

 勇気を出してジークは魔王にたずねてみた。ため息とともに魔王が答える。

「留守番を頼んでいる叔母上への礼だ。お前達のせいで高くついてかなわん」

「そうかよ」

 ジークはそうは言ったが、なんとなく魔王に悪いようにも思った。それほど気落ちした様子であった。

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