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謎④

「では、進藤さん。動きましょうか」

「それは構いませんが……どこまで調べがついているのですか? それを聞かないとどうしようもない」

「おっと、またしても失礼しました。ではこちらで調べた事をお伝えしますね? まず久川さんの交流関係ですが、貴方が一番親しく付き合いも古い。そうですよね?」

「えぇ、そうです。他の……例えば大学のサークル、高校や中学、小学時代の関係者については?」

「会社員になってからの付き合いはほぼないようですね。あぁでも、同期の男性一人とは付き合いがあったようです」

永沢栄斗(ながさわえいと)……違いますか?」


 識の指摘に、朝倉が頷く。永沢というのが、洋壱が入職した会社の同期であり、研修時代から気が合ったと識は洋壱本人から聞いた事があった。もっとも、時間の都合等でタイミングが合わず、識が彼と会った事はないのだが。朝倉は、懐からコンパクトな黒革の手帳を出して中を開く。むしろ今まで開かずに会話が成立していた……資料が目の前にあるとはいえ、ここまでの情報を記憶していたのかと思うと、やはりこの刑事は侮れないと識は感じていた。

 朝倉は目的の所を見つけたらしく、手帳に視線を落としながら話を再開した。


「進藤さんの仰る通りですね。永沢栄斗、貴方達と同じ二十七歳ですね」

「彼のアリバイは?」

「一人暮らしかつ夜も遅かったため、自室で眠っていたとの事です」

「つまり、アリバイはない?」

「そういう事ですね」

「なら、彼から調べてみる……というのはどうでしょうか?」

「賛成です。ただ、もうそろそろ夕刻も過ぎますし……明日からにしましょう。いくら協力をお願いしたとはいえ、民間人に徹夜をさせる訳には行きませんからね」


 つまり、徹夜をするほど警察内でも大事件として扱われいているという事なのだろうと識は思った。それに、識自身、ここで会話を終えてからようやく気付いた。自分が冷静ではないと。だからこそ、識は一度頭を冷やす目的もあり、今日は大人しく指紋を提出して帰る事にした。指紋採取を終え識が椅子から立ち上がると、朝倉も立ち上がり、会議室の扉を開けてくれた。

 識は礼を一言だけ述べると、洋壱の両親に挨拶をしたいと申し出た。朝倉はすぐに了承し、二人と合わせてくれた。

 洋壱の両親は手続きを終えていたが、ショックからか洋壱の母が倒れ込んでしまったらしく、休憩室で寝込んでいた。その様子を、近くの椅子に座りながら心労もあるのだろう……沈んだ表情を浮かべた洋壱の父が自身の妻の片手を握りしめ、見つめていた。


「識君か。……話の方は終わったのかい?」

「はい……おじさん、おばさんの様子は?」

「心配ないよ……と言いたいところだが、この様子だとどうだろうね……」

「そう、ですか……」

「識君」

「はい?」

「洋壱の……息子の仇を取っておくれ……」


 この言葉から察するに、識への手紙を見たのだろう。だからこその()()に識は両手を握りしめながら、震える声で答えた。


「はい。必ず……」

「ありがとう」


 短いやり取りを終えると、識は一礼して休憩室から出た。扉を閉めると朝倉が立って待っていたと言わんばかりに、連絡先を交換させられた。識は仕事用のスマートフォンも持ち歩いていて良かったと心から思いつつ、朝倉にも一礼してから警察署を後にした。

 駐車場に行き、愛車へ乗り込むと識はハンドルにもたれかかる。洋壱を失ったショックとあの現場写真から浮き出る不可解さへの苛立ちと、そして何より見知った人達の悲しげな表情がいたたまれなくて辛く、それが疲労となって一気に押し寄せたのだ。

 

(洋壱……お前は、何故死んだ? 俺に何を訴えたかったんだ?)

 

 あの時。洋壱と池袋で遊んだあの日、意味深な事を零していた洋壱の話を何故もっとちゃんと聞かなかったのかと識は今さらながらに後悔と自責の念に苛まれる。思えば、あの日の洋壱はどこか不自然だったかもしれない。

 どこまでも沈んで行く、自分の中のどす黒い未はまだわからぬ犯人への憎悪の感情。それを全身で受け止めつつ、息を深く吸って吐くと、憎らしいほど曇りなく星が綺麗に見える夜空を睨みつけながら、車を走らせ自宅へと帰るのだった。

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