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理⑥

「的場さん、どうして世那さんは偽名を使い、マンションを借りていたのですか?」

「ご両親から、頼まれまして。なんでも、ストーカー被害にあっているから……と」

「的場さんは、世那さんのご両親をご存じなのですね?」

「はい……古くからの知人です。あの、朝倉さん? まりかちゃんが亡くなった事と、どこまで関係あるのでしょうか?」

「それを我々も知りたいのですよ、的場さん」


 朝倉の言葉に、的場は沈黙する。

 その瞳は小さく揺らぎ、何かに疲れたようなため息を吐くと、彼は静かに顔を伏せた。しばらく沈黙した後、独り言のように語り出したのは、まりかの気質のことだった。


「あの子はね……寂しがり屋なんですよ。ただ、それが行きすぎる。その影響でどんどん孤独になっていった可哀想な娘さんなんです」

「ほう? 行きすぎるというのは、世那さん自身のストーカー気質のことですかねぇ?」

「さすが刑事さんだ。その通りですよ……」


 二人のやりとりを静かに聞いていた識は、ゆっくりと口を開いた。

 ……怒りに燃えた瞳をしながら。


「的場さん。貴方はどこまでご存知なんですか? 世那まりかのストーカー遍歴を。彼女がターゲットにしそうな異性についてのことを……なぁ?」

「それは……その……ある程度は把握しておりました。進藤さん、貴方が久川さんとお二人でここを訪れた時……あの子もいたんです……それで、その……」

「俺と一緒にいた洋壱を気に入った?」

「えぇ……はい……すみません、黙っていて。あの子があんな亡くなり方をしたものだから、口にしずらくて……」

「話し難いって問題で済むと思ってんのか‼︎」


 我慢しきれず、声を荒げる識を朝倉が肩を軽く叩いて落ち着かせる。息を荒くする識の呼吸が整うのを待ちながら、朝倉が話の続きを的場に促した。


「的場さん。つまり、世那さんは久川さんに対してストーカー行為をしていたという事実はあるんですね?」

「そうです……ご両親からその件で相談がありましたから……」

「そのストーカー行為は、いつまで及んだ? 危害を加えるほど過激だったの……ですか?」


 乱暴になりそうな口調を必死に抑えながら、識が訪ねれば、的場は複雑そうな表情で答えた。震えた声で小さく、だが、はっきりと聞こえた言葉は、識達を困惑させるのに十分だった。


「付きまといがひどかったとは聞いていますが、物理的な加害は行わない子だったそうです。だからこそ、ご両親も悩まれていたようです」


 それ以上の情報を的場から得ようと試みた二人だったが、結局多中との繋がりについては不明なままだった。

 というのも、多中の名を試しに出してみたものの、的場の反応は知らないと言葉でも身振りでも、示していたからだ。

 だが、世那まりかが今回の事件の被害者である洋壱をストーカー行為に及んでいた事実は掴めた。


(そこから、多中と世那まりかの関係が分かればあるいは……ちくしょう、あともう少しで見えそうだってのに!)


 歯がゆく、そして未だ全容の見えない状況が苦しい識は、知らずに自身の胸に手を当てていた。

 まるで、自制を促すように――

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