理③
「世那まりか……この名前に覚えはありますか? 進藤さん」
「いえ……俺の知る限りは、ありません」
念の為、端末を取り出し確認するが、その中のデータにも該当無しだった。朝倉と竹田も顔を見合わせ、真剣な表情をしている。
「この女性が、久川さんの事件と関係しているとして。多中とどう繋がるのかが、鍵かもしれませんねぇ」
「そっちについちゃあ、こっちに任せなぁ。多中の容態次第だが、必ず何かしら引き出してみせらぁね」
「竹田刑事、ありがとうございます。朝倉刑事、これからの動きはどうされますか?」
識が尋ねると、朝倉は少し考えた素振りをした後、ゆっくりと口を開いた。
「では、我々は世那まりかについて調べましょう。……彼女がどんな人物だったのかも含めて、ね?」
「そうですね。洋壱との繋がりも、気になりますから」
「貴方達に調査はお任せするけれど、鑑識として、こっちはこっちでしっかりやらせてもらうわよ?」
「よろしくお願いしますよ、森野さん。さて、我々は調査と行きましょうか、進藤さん」
「了解です。朝倉刑事」
話がまとまったと判断した四人は、それぞれの仕事を全うすべく動き出す。
先に竹田と森野が出て行き、その後、朝倉と識が二人で会議室を出る。今回は、朝倉の車で移動する事になった。
駐車場まで着き、朝倉が車の施錠を解除する。朝倉に促され、識は助手席に、朝倉が運転席へ座ると、車を発進させた。
向かうは……世那まりかの実家だ──
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「困りましたねぇ……」
朝倉が呟く。識も困惑を隠せずにいた。というのも、世那まりかの実家は売地になっていたのだ。
「この情報は頂いていませんでしたね……ですが、何故更新されていなかったのでしょう?」
「伝達不足ですかねぇ? はぁ、縦割り社会だとこう言う事が起こるから困ります。すみません、進藤さん。出直しです」
「俺の事はお気遣いなく。次の手を考えましょう」
「ありがとうございます。では、とりあえず聞き込みをしてみましょう」
「世那まりかの両親がどこに行ったか? ですか?」
「それもありますが、世那まりか本人の人物像についても、知りたい所ですねぇ」
「では、それも含めて聞き込みですね……」
「えぇ。進藤さん、同行をお願い致します」
「分かりました。警察と一緒の方が、こちらとしても都合が良いので」
こうして、二人は近隣住民へ聞き込みを開始した。今は夕刻。会議が思ったより長引いたのと、世那まりかの実家がある場所の問題で、時間がかかってしまったのだ。夕飯時という事もあり、中々答えてくれる住民は少なかった。
だが、それでも……ある程度の情報を得る事は出来た。
――世那まりかは、ストーカーの気質が強く、よく問題を起こしていたという情報が。




