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理②

 誰も言葉を発せずにいた。

 そんな沈黙を破ったのは、会議室の扉のノック音だった。


「今取り込み中なんですが、どなたですか?」

「朝倉刑事? 私、森野よ。例の件で報告に来たわ」

「今扉を開けます。竹田さんも進藤さんも、よろしいですね?」


 尋ねられた二人は無言で頷く。朝倉が扉を開けると、森野が入室して来て、会議室のテーブルの上に資料を置いた。


「早速でごめんなさいね? 進藤さんに、竹田刑事」

「俺は大丈夫です。気にしないで下さい」

「大丈夫だぜ、森野。続けてくれや」


 二人からの同意を得た森野は、真剣な面持ちで頷き、話を始めた。


「では。この資料を見てもらえるかしら? これは被害者、久川洋壱氏のベッドに置かれていた髪の毛よ。これが、人毛であると鑑定出来たの」

「なるほど。ですが、口ぶりから察するに、それだけではないと?」

「そうよ。DNA鑑定をした所……二ヶ月前に事故死した女性の物と合致したの」

「二ヶ月前!? それはおかしいにも程がありますよ!?」

「えぇ、そうなのよ、進藤さん。だからこそ、ここに来たのよ」

「ふむ。被害者宅に既に亡くなった女性の髪の毛……かい。考えられるとしたら、なんらかの方法で、その女性の髪の毛を手に入れた犯人が置いた……ってとこかねぇ?」

「そうですねぇ、竹田さん。自分もそう思います。森野さん、他に分かった事は?」

「勿論あるわ、朝倉刑事。みんな、これも見てもらえます?」


 森野が更に資料の写真をテーブルに置く。そこに映っていたのは、女性の遺体だった。顔の部分だけの写真は綺麗で、眠っているようにも見えた。その写真を見つめながら、彼女が再度口を開く。


「これが、二ヶ月前に交通事故で死亡した女性のご遺体の写真よ。検死のために撮影された物が、保管されていたの。この彼女と先程の髪の毛のDNAが一致したわ」

「交通事故死……ですか。事件性はないと?」

「えぇ、そうよ朝倉刑事。もっとも、私から言わせてもらえるなら、自殺に限りなく近い事故死なのだけれど」

「おい、森野。どういうこったぁ?」

「他の鑑識のメンツも気づいていた事なのだけれど、彼女は故意に車道に出たのよ。ドライブレコーダーの記録から見るにね?」

「つまり……ある意味では、自殺という事ですか?」

「進藤さんの言葉も、正解ではあると思うわ」

「それで、彼女の氏名は? わかっているはずですよね?」


 朝倉の言葉に、森野は無言でホワイトボードへ向かうと、先程の遺体の写真を貼り付け、ペンを持つ。


世那(せな)まりか、享年二十六歳。死因は全身打撲と出血性ショックよ」

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