理①
気付いたら眠っていたらしい識は、朝の陽ざしに照らされて目を覚ました。
冬晴れの空を睨みながら、識は重く痛い身体を起こし、扉を開けてストレッチを軽くする。
人目が気にならないわけではないが、身体を多少でも労わる方が優先だ。
(ま、車で寝るような奴が身体を労わるなんて、今更遅い気もするが……)
そうしていると、不意に携帯端末が鳴った。着信表示を見れば、朝倉からだった。
『もしもし? 朝倉です、おはようございます、進藤さん』
「おはようございます。朝倉刑事、お声の感じからして、寝られていないようですが……?」
『見抜かれてしまいましたか。まぁその話は置いておくという事で……それより進藤さん、お話があるので署まで来ていただけますか?』
「分かりましたが……それは洋壱絡みの事で?」
『はい。その通りです』
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事務所から車を走らせ、練馬警察署内の朝倉に指定された駐車位置に車を停める。そこに、待ち構えていたかのように朝倉がやって来て、開口一番告げた。
「多中が一命を取り留めました」
「そうですか……どう言えばいいのか、言葉が見つかりません」
「でしょうね。それは仕方のない事です」
「ありがとうございます……それで……他には?」
「勿論ありますよ。進藤さん、多中の家の家宅捜索に立ち会って頂けますか?」
「いいのですか? 素人かつ一般人ですよ?」
「上から許可を取っていますので、ご安心を。まぁ、いずれにせよ……久川さんの元職場へ行くのが先ですが」
「……よろしくお願いします」
朝倉がどうやって、上層部から識の立ち入り許可を得たのかは不明だが、家宅捜索に同行出来るのは確かにありがたい。だが、同時に疑問も残る。
(多中は何故、自殺未遂を? 目的が見えないにも程がある……奴は何かを隠したいのか?)
識が考え込んでいると、朝倉が耳打ちするように声をかけて来た。
「実は……多中が隠し持っていた紙が発見されまして」
「え?」
「そこに久川さんのお名前が……その件もあり、進藤さんをお呼びしたのです」
これが通話で朝倉が言っていた洋壱絡みだったのかと、識は納得する。そして、車から降りて、ロックがかかったのを確認すると、朝倉の後に続いて、最早すっかり慣れた練馬警察署内へと入る。
署員も慣れた様子であり、これが適応力の高さかと、密かに識は感心するのだった。
定番となりつつある会議室へと通されると、そこには竹田の姿もあった。驚く識に、彼は渋い顔で告げた。
「悪かった……なんて言葉じゃあ足らねぇな。部下の失態とは言え、上長たる者の責任だ……」
「竹田さん、似合わないですね? その台詞」
「お前さんには言ってねぇ、引っ込んでな朝倉。進藤さんに言ってんだ……警察の領分に巻き込んで、その上、被疑者を危うく死なせかけた。完全な失態だ」
そう言って識に頭を下げる竹田の姿が、予想外すぎて識は言葉が出てこなかった――




