解⑥
しばらくして、朝倉が選んだのはラーメン屋だった。
種類は醤油と塩という二種類で、あっさり味が売りの所らしい。朝倉に向かって頷くと、彼は店の戸を開け中に入った。
「らっしゃーせ! 二名様ですかー!」
「はい。席は自由で?」
「お好きな所に、お座り下さいー!」
快活そうな青年が、元気な声で案内をする。
窓際の奥に対面で座ると、それぞれラーメンを選んだ。朝倉は醤油ラーメンにチャーハンのセット、識が塩ラーメンに餃子のセットを。それぞれ注文を終えると、上着を脱ぐ。店内の暖房が程よくなったのを体感しながら、識は静かに息を吐く。
「お疲れですよね」
「まぁ、でも朝倉刑事達に比べたら全然ですよ」
「それは違いますよ、進藤さん。疲労に比べるも何もないですからねぇ」
「そうですか?」
「そうですよ」
朝倉なりの気遣い。それが余計、識の胸を苦しくさせた。自分は今の所全く役に立っていない――そんな思いに圧し潰されそうになる。二人の間に沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、運ばれて来たラーメンだった。
「食べましょうか? 進藤さん」
「あ、はい」
静かに食べ出す朝倉に習い、識も頼んだ塩ラーメンを口に運ぶ。あっさりとした口触りとスープの温かさが沁みわたる。素直に美味しいと思える自分に驚きつつ、ひたすら無言でラーメンを食していく。しばらくして、食べ終わった二人は少し休憩する事にした。
その間も、大した会話はない。
静かに時間は流れ、朝倉が立ち上がるのと同時に識も動く。上着を羽織り、荷物を持つと、会計を済ませた朝倉と合流する。
「すみません、また奢って頂いて」
「大丈夫ですよ、経費で落としますから」
本当に経費で落ちるのか? 疑問は残るがあえて言及する事なく、識は警察署の前まで行く。
「さて。聴取はどうなりましたかねぇ?」
「進展していると良いのですが……」
二人が明日に備えて別れようとした時だった。血相を変えた警察官が朝倉の元へと走って来る。
「大変です! 多中が! 自殺未遂を起こしました!」
その言葉で、朝倉と識の表情が一気に変わる。周囲に緊張感が漂う中、状況を知るべく朝倉が警察官と共に動く。視線を識に向けると、朝倉が告げる。
「進藤さん、すみませんがここは我々の領分です。多中に今死なれては困りますから」
「わ、かりました……」
「すみません、明日お会いしましょう。では」
朝倉は足早に、警察署内へと入って行く。その背中を見送ると、識は悩んだ末……数少ない手がかりから調べてみる事にした。
多中と洋壱の関係をどうにかつかめないかと――




