Act.6 結成
この物語はフィクションです。
運転の際には交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
すっかり意気投合……とまでは行かなくとも、お互いを認め合い、良好な関係になった聖戦も終わり。2人は帰路に着き、GSガレージまで2台つるんで走っていた。
空も負けはしたが清々しい気持ちでステアリングを握り、前を走るBRZを追いかけていた。あんな技術があるとは知らず、自分もまだまだ勉強不足であることを反省出来たのも、今回のバトルは有意義な時間であっただろう。
途中でスーパーに寄り、打ち上げと称してお菓子とジュース等を買って帰ろうと未来が提案し、賛同した空はカゴいっぱいにお菓子を放り込む。未来は苦笑いしていたが、可愛いところもあるんだと思って何も言わなかった。
会計4000円にまで膨れ上がった領収書を持ってGSガレージへ帰還。辺りはすっかり薄暗くなってしまい、店も閉店準備に追われていた。
「帰ったか。未来も点検すっぽかしてくれてまぁ…見合う進展はあったか?」
若干額に青筋が立っている様子で熟哉が出迎えてくれた。未来もえへへと微笑みながら買い物袋を掲げて、2人の絆を見せつけた。
熟哉はため息を1つこぼしたが、ともあれ無事に決着し、互いの関係が丸く纏まったのなら良かったと少し笑顔が咲いた。
店も閉店し、表のライトを落としてチェーンをかける。
お嬢2人は奥の居住スペースにいち早く向かい、打ち上げの準備をせっせと進めていた。ちなみに、4000円超の領収書は、熟哉のデスクの上に置いてある。当然、店の経費持ちである。
熟哉も店仕舞いを終え、開宴を待つ2人の元へ。
既にコップに飲み物が注がれており、空はコーラ、未来はピーチジュース、熟哉のコップには透明の炭酸が入っていた。
何故自分だけ炭酸水なんだと思ったが、もしかしたらス○ライトかも知れないと言う希望に賭け、何も言わず手に取った。
「カンパーイ!」
3つのコップが当てられ、気持ちの良い音を奏でて宴が始まった。
皆一斉にコップの飲み物を飲み干したが、熟哉だけ吹きかけてしまった。
「な…何入れやがった……!?」
ス○ライトとも、キ○ンレモンとも全く違う味がした。と言うか全く甘くない。喉元が少し熱くなり、妙な苦味と辛味が熟哉を襲った。
不思議がっている熟哉を、お嬢2人はクスクスと笑っていた。犯人発覚。
皆様お察しの通り、熟哉のコップに注がれたのは紛れもなくお酒である。未来の提案で、酔った熟哉を見てみようと言う悪戯心で、レモンサワーの素と炭酸水をなんと1:1と言う濃さで入れてやがった。
それを知らず一気飲みした熟哉は当然酔いが早々と回り、顔が茹でダコの様に赤くなっていた。酒に強くないヘテロのため、コップ1杯の炭酸割りでもこの通りだ。
その様を見て大笑いするシラフ2人。すっかりと仲良くなって意気投合し、熟哉をいたぶる事を面白がっていた。
しばらく打ち上げが続き、ドリンク1.5Lを3本空にしてお菓子も5袋ほど平らげただろうか……空が。
未来は少しづつ飲み食いし、基本お喋りを楽しんでいる様子。熟哉は度々注がれたお酒で撃沈していた。
寝息を立てている酔っ払いを脇に、お嬢2人は真面目な話に戻っていた。例の空が知りたがっている情報についてだ。
「お生憎様、噂は聞いていましたが、私自身はスープラの事は知らないのです。ですが、元々ブラックローズにいた方が呉市の方へ引っ越しましてね」
との事。
未来はスープラのことを認知していなかった。そんな速い車なら熟哉も情報くらいは知っているはずだが、一切口から情報も出たことがない。噂だけならチーム内で聞いたことある程度だった。
だが、その呉市の方へ引っ越した人は先代のブラックローズのリーダーで、過去にスープラと走ったことがあると聞いたことがあるらしい。あくまでこれも噂に過ぎないが、ちょっとでも前に進める情報が欲しい今、噂話だろうと軽視出来ない。次の探り先は決まった。
意を決した様な表情で手をグッっと握ると、未来は心配そうな顔で切り出した。
「呉に行くんですの? あそこは野呂山スカイラインが主に走るスポットですが、ここより数段レベルが高いんですのよ?」
柄にもなく同性の心配をしてくれる。だが、このアドバイスも的確なものだった。
言うように、呉市には野呂山と言う山があり、そこを駆け上る野呂山スカイラインが有名なスポットである。
また、広島県沿岸のど真ん中にあるため、各市から強豪が集まり鎬を削ると言う中々ホットなスポットである。そのためレベルが高く、ハイチューン車も少なくない。
その野呂山だが、現在は『野呂レッドネイビーズ』と言うチームが頭を張っているとの事。そのチームのNo.2が例の引っ越した人だそう。名前は占部輝樹と言う男。
元々ホンダFD2型シビックRに乗っていたが、ホームコースが変わると同時に、FK8型シビックRに乗り換えたと言う。昔からFFの扱い方が上手くて、ライン取りがいつも綺麗で無駄がないと未来は語る。
聞く限りかなり手強い敵が待っている。少し後退りしてしまいそうだが、ここで逃げても何も起きない。大きな決意を胸に、広島までやってきたのだ。今更振り向いてたまるか…と再び意を決した表情を未来に見せる。
未来もそれを見て呆れた息を吐くが、そういう真っ直ぐな心は尊敬出来ると応援してくれた。しかし応援だけでは飽き足らなかったのか。
「空さん。私たち2人でコンビチームを組みませんか?」
チーム結成のお誘いだった。
未来も例のスープラのことを聞かれて答えられなかったのもあるが、県外まで話が広がるレベルのスープラ使いは心の底から気になると言う。
それを知るためには、空に着いて行って共に情報網を辿るのが最良の手と判断。
それに、峠は登りだけではなく下りも当然ある。
ここは2台にそれぞれ専用チューニングを施して、役割をハッキリと決めて挑んだ方がいいのでは無いかと言う。確かに、完全なヒルクライムでBRZの相手にR35でも来られたら、いくら未来でも無理ゲーと言わざるを得ない。
思ってもないお誘いだったため、少し目が点になっていたが、空は一緒に戦ってくれる仲間がいると非常に心強いので、是非とも!と快諾。
2人があれこれ相談した結果、チーム名はGSレーシング。略してGSRと称して、新たな伝説が幕を開けるのだった。
ここまでお読み下さり、誠にありがとうございます。
登場人物不足で、書くことがありません(汗)