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MINE's Z  作者: 岩野 匠鹿
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Act.5 消えるライン

この物語はフィクションです。

運転の際には交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。


未来がもう抜きに出そうなくらい、厚いプレッシャーをかけている。前を走る空もひしひしと痛いくらいに、それは伝わっていた。空も空で抜かれるわけにはいかないし、ここで勝てないと情報集めも振り出しに戻ってしまうので、意地でもこのポジションを死守したいところ。


Zの動きも徐々に精彩を欠く動きになって行く。

ここまで来てだが、変にラインを空けるよりも、道路いっぱいのバリケードを作りたいと言う一心で、咄嗟に最初のドリフト重視のコーナリングに戻してラインの自由度を奪う。


コーナリングスピードは確実に落ちるが、狭い道に全長の長いマシンが横を向いて走っている最中、BRZは漬け入る隙がない。先行後追いでは無いので、追い抜かれさえしなければ、負けることは確実にない。



「このまま逃げ切る!何としても2連敗は避けないと!」



ここに来て負け続けの空にとって、ここで負けてしまうと色んな意味で心に来る。なんとしても勝ちたい。










コース終盤になり、ここからは登り勾配は一切消え、ジェットコースターのように急降下する下りセクションに入る。そしてヘアピンや高速S字が増えてきて、今までのコースとは全く違う場所であると錯覚してしまいそうになる。


そして、こういうセクションでは2台のパワー差は、ほぼ無くなると思っていい。厳密に言えば、やはりパワーがあるZがストレートで有利だ。しかし、スピードが乗って普段のコーナリングに重力が加算されるため、コーナーでは軽量でバランスが良く取られたBRZが圧倒的に有利だ。


2台の有利ポイントが見事に分かれたこの場面。しかしこのコースの終盤だが、ストレートはお世辞にも少なく、ハイパワー車でフルスロットルに出来る時間なんてたかが知れている。トータルで見れば、未来のが有利なのだ。



ポジションが入れ替わらず、膠着状態が続く。ゴールはもう目と鼻の先で、残り2キロと無い。


ここまで来れば、もう抜かれることも無いだろう。ラインの自由は奪っているし、焦りも薄れて、今最高にZに乗れている。勝利を確信した空。そんな時だった。



「え…!?」



バックミラーを見るとBRZがいなかった。最終コーナー手前で今一度BRZを確認しようとチラッと見たら、姿が無くなっていたのだ。バックミラーにも、ルームミラーにも姿はなく、空は一気に青ざめた。


クラッシュしたか? それとも前を向くとそこにいるのか? 色んな事が脳内に過ぎった。


その焦りが災いし、ドリフト最中のアクセルワークが乱れてしまった。特に、コース終盤の下り勾配で全速力で逃げていたZのタイヤには、もう余力は残っていない。フロントから徐々にアウトに膨らんでいき、アクセルオンの時間を稼ぐためのドリフトで、苦渋のブレーキを踏む事態となった。


そして膨らんで行ってアウト側を甘んじている時に、ふとイン側を見ていると、先程全く確認出来なかったBRZが綺麗にドリフトしているのが見えた。



気付いた時には既に遅し。予想外のアンダーで速度が乗るわけもなく、最終コーナーでBRZのパスを許してしまう。非運にも、ゴールラインを先に踏んだのは、未来搭乗のBRZであった。



今何が起きたのかを説明しよう。


車を運転している時の周囲の確認方法としては、まず前側は直接見て、リア側はミラーを駆使して確認、そして直接振り向いて確認。それのみ。


だが、限界走行している時に、後ろを振り向いて確認する余裕なんてあるはずがない。そんな事すればドライビングポジションがブレるし、特に前方からのアザーカーに注意したい時に後ろを向くなど自殺行為に等しい。


そうなれば、ミラーで確認するに限るのだが、それだとどうしてもピラー部分だけ死角が発生する。

パッと見では、その死角は大きくは無いのだが、距離がある場所の車を死角上に置くと、見事に見えなくなる。


ましてや、全方位に注意しながら限界走行している為、冷静な判断は難しいし、いないと踏んでインに食い込んで接触でもすれば、2台とも無事では済まない。


この事態に混乱してしまったが為に、そのコーナー1つへの集中力が散漫になってしまい、アクセルワークを乱す原因になってしまったのだ。



これが所謂、『消えるライン』と言うやつだ。













未来の最後の作戦に、見事に引っかかってしまい、敗北を味わってしまった空。


勝負が決したのでコースを離れ、近くにあるコンビニに2台とも停車させた。

空の顔がとんでもなく沈んでいる…。そんな事お構い無しに、未来は車を降りて、Zのガラスをノックする。



2人は車を降りて、コンビニでドリンクを購入。そして再び車に戻って、話にふけていた。



「空さん…でしたっけ?」



なんと未来が初めて名前で呼んでくれた。

勝ち誇って貶してくるかと思っていた空にとっては肩透かしを食らった気分だった。未来に表情からは、そんな感情は一切感じられず、少しだけ優しさが溢れていた笑顔を見せていた。



「認めますわ。貴方のこと」



予想外も予想外。熟哉の前では目の敵にしていたのに、先程勝負にも負けたのに。


未来曰く、BRZにここまで食らいついて逃げられる人は今までいなかった。予定では早々に追い抜いて、大差をつけて勝利するつもりだったらしい。結果では勝ったが、勝負に負けた様な気分だとの事。


こんな走りをする人が、ただ熟哉さまと言う将来のフィアンセを誑かして我が物にしようと言う泥棒猫になるとは思えない。勘違いをしていた事を謝罪させて欲しいと、深々と育ちの良さを感じられるくらい綺麗に頭を下げた。


焦って大きな声で大丈夫だと伝えた。傍から見たら変に思われそうな光景だが、それ以上に、未来に認めてもらえたことが嬉しくて仕方がなかった。



「約束です。熟哉さまの所に戻ったら、情報を話しますわ」



こうして、短くて長かった2人の聖戦は、結果上は未来勝利。だが、勝利の女神は、どちらにも微笑まず、引き分けと言う結果に終わったのだった。

ここまでお読み下さり、誠にありがとうございます。


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