Act.4 未来の実力
この物語はフィクションです。
運転の際には交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
空搭乗のZが走りを変え、先程とは打って変わった精細ある走りを目の当たりにしつつ、2台の距離が開いていくことに少しショックを覚えていた未来。
BRZを熟哉に任せてからは、コーナーを自分より速く走る人はいなかったからだ。
コースを熟知していたから、走り慣れた地元だから……そう言った言い訳はもう通用しない。
自分から吹きかけたバトルだ。愛する熟哉を取られない為にも負ける訳にはいかなかった。
中盤に入り、若干登り勾配が増えてくるセクション。変わらず後方でZのテールランプを拝んでいた未来であったが、ある事に気付く。
「そう言えば、あの女の走りに対抗する様にグリップで走っていたけれど、本来に戻すのを忘れてましたわ」
そう。コースの第1コーナーで大胆なドリフトでクリアするZを見て、反骨精神でグリップに拘って追いかけていたが、本来なら未来の走りは少しテールをスライドさせてアクセルオープンタイムを稼ぐもの。
パワーが無いので無駄なスロットル全閉を抑えて、スピードを殺さない走り方が有益なのだ。
前回述べたように、ここはアップダウンが激しく低速コーナーが連続する。ドリフトで攻めるには技術を要する。
しかし、思い出して欲しい。未来のセンスはズバ抜けていると。
難しいということは百も承知で、率先して振り回す程の技術があるのだ。
では何故、グリップに徹して焦っていたのか?
理由は簡単。
グリップでも追い付けると思っていたが、思いのほかZが健闘し、予想外な事態で少々パニックになって戻すのを忘れていたのだ。
子供騙しのような程に下らない理由だが、限界走行している時の人間の頭脳なんて、案外そんな物である。
ここからは何も言い訳は無い。未来の実力が光る時だ。
コーナーワークを変更し、いつもタイムを出しに行く時のランイングスタイルで再びZを追う。
すると、みるみる2台の差が縮まっていく。ストレート出少々離れるものの、コーナーでは圧倒的に速いスピードレンジでアドバンテージを無きものとして行った。
これを見た空も焦りを隠せなかった。先程まで引き離していたBRZが、もうすぐ後ろまで追い付いたのだ。
Zの走らせ方を理解し、またひとつ成長を遂げることが出来た空だったが、未来はその1歩上を行っていたのだ。
中盤前に未来を引き離し、コースに合致した走り方をものに出来たは良いのだが、問題は引き離したタイミングである。
もし、空がもっと後半の方までドリフト重きの走りを引っ張って、後ろを走る未来に油断を与えられていたら…。
そうなれば、後ろから仕掛けようと言うタイミングで引き離しにかかり、メンタル面に大きなダメージを与え、気を取り直す隙を与えずにフィニッシュを迎えられたかも知れない。
この中盤で引き離しにかかったので、残り十分な距離をもって、未来は空の走り方を存分に研究出来た上に、気を取り直して自分に走りをさせる所まで許してしまったのだ。
その事に気づかず、後ろから来るプレッシャーに心を抉られそうになっていた。
そもそも、バトルという場数を空はあまり踏んでいない。
一方、チームでつるんで走ったり、他チーム対抗で他所の峠で走る未来の方がドッグファイト慣れしている。
ましてや、そんな手練を相手に先行して逃げているとなれば、メンタルはかなりやられるのだ。
そんな状態でベストな動きが出来るわけもなく、繊細なアクセルワークを信条とした走りに変えた空に陰りが見えていた。
未来もそれを見逃さず、仕掛けるタイミングを伺っている。
道幅はそこまで広くないので、追い抜くにもしっかりラインを選ぶ必要がある。ストレートで抜けるのなら、それに越したことは無いのだが、ご存知の通りローパワー車なので無理である。
どこかコーナーで追い抜けれれば良いのだが……。
小林未来 こばやしみらい 20歳 搭乗マシン:スバルBRZ(ZC6後期)
GSガレージに愛車を任せる一見可憐な美少女。
熟哉のことを心酔しており、将来は子供を何人産んで、老後のこと……とにかく熟哉とやる事全て決めている少々ヤバいかもしれない人。
好きな物:豊上熟哉
嫌いな物:それに近づく女全て
得意技:熟哉に教わった走り方を聞いただけでマスターすること