Act.14 新たな"恋"敵
この物語はフィクションです。
運転の際は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
「豊上先輩…?」
熟哉の事を先輩呼ばわりしてくるランエボから降りて来た女。
後ろにいるお嬢2人も、向こう側にいる野郎2人も、思わず声を上げて驚いてしまう。
「なんでこんな所にいるんですか…うわめっちゃ恥ずかしい」
顔を真っ赤にして手で覆って先程の言動を恥ている。
「あの……お知り合いですの……?」
未来が恐る恐る熟哉に聞いてみる。返答によっては、その女を抹殺する必要があるからだ。
「あぁ。俺の学生時代からの後輩なんだよ。しばらく連絡取ってないし、集まることも無かったが、こんな事してるとはな」
花菜は熟哉の後輩なのだ。
熟哉が学生の頃、中高一貫校に通っていた。そして、高2の時に中学生として入学したのが花菜である。元々やっていた部活が同じで、同じ車好きという事でとても話が合い、そこから長く付き合いがあったのだ。恋仲という事は決してなかった。
それを聞いて少し安心した様子の未来だったが、あまりにも親しげに話す熟哉と花菜の間柄を見て少し嫉妬しているようだ。あんな顔私にはしてくれない…とか言ってるそばで空は苦笑いしか出来なかった。
野郎2人は花菜にドヤされ1発ずつビンタを貰った後、トボトボと車に乗りこみ帰って行った。
残った花菜と熟哉が話し込んでいる中、それを眺めて悲しそうな表情をする未来。場が混乱しすぎだ。
どうやら、花菜はこの近くにある自動車関連の学校に行っている21歳の学生さんで、さっきの男2人もそこの学生で後輩に当たるらしい。その学校の面子でチームを組んで、遥照山最速を謳っていたそうだ。
そして、近頃根城にしている遥照山にて真夜中に何回も何回も往復しては走っている車がいると情報があり、今日後輩を使って見に行かせた所が先程のバトルに発展したんだとか。最速を謳っている以上、舐められたら面子が立たないからだと言う。まさかそれが、尊敬する先輩の差し金だとも知らずに。
その差し金に真っ向勝負を挑ませ、惨敗して帰って行った男らだが、あれでもチームの中では花菜を覗く2トップらしい。にわかには信じがたいが。
そして、その勝負を仕掛けた尊敬する先輩に対して、今まで見せた事がなかったクールな女流ボスを演じてしまい、絶賛赤面中←イマココ
こういった状況だ。いやどういう状況?
「今日はすみませんでした……お騒がせしてしまって」
「それは良いけど。しばらく音沙汰無かったし久々に会えたのは俺としても嬉しい。たまには俺のショップに顔出せよ」
「ショップやってるんですか!? 知らなかった…。改めて明日顔を出してみます」
そう言って、明日の来客が決まった。
晴れて、今日のタイムアタック兼バトルは完全勝利を挙げ、2人ともタイムはクリアしていた。だが素直に喜んでいいのか分からない状況が目の前にあったため、微妙な気持ちだ。
翌日、もう遅いからと未来もGSガレージへ戻り、先週と同じく3人でショップに寝泊まりをして朝を迎えた。
お嬢2人はどっと疲れた昨日からの睡眠で休めるわけもなく、起きてもげっそりとしている様子だった。反面、熟哉はしっかり寝れたようでスッキリした表情。
そそくさと開店準備を始める熟哉を後目に、お嬢2人が昨日のことについてヒソヒソと話合っていた。
あの親しげに話していた花菜と言う女が気になって仕方ないようだ。
「空さんあの女どう思います? あの色気使った目とか……いてこましてやりたいですの」
「意外と豊上さん女たらしだったなんて。意外も意外、私たち美少女2人がいると言うのに」
「「ねぇ〜!」」
ヒソヒソと話しているハズだったのだが、話しているうちに気が大きくなり声も大きくなり、盛り上がりも大きくなっていく。本人は静かに話してるつもりかもしれないが、井戸端会議と言うのも段々とエスカレートすると、思わぬ規模に発展してしまうのだ。
「ヒソヒソ話は普通聞こえねぇ様にするモンだがなぁお前ら…」
こんな風に……。
本人たちは気付かれていないと思い込んでいたのもある。熟哉がお嬢2人の群がりを見て何か変なこと膨らませてるのでは?と思い、夢中になっている背中を取り聞くと案の定。注意と共に誤解を解くため声をかけたのだが、妖怪に肩を叩かれたかのように奇声を上げて天井突き破る勢いで身体をピンっ!と伸ばして驚いていた。
こんなことになるから、社内での井戸端会議などは背後に気を付けて、出来ればやらないように!皆様もご注意を。
「やっぱ変なことを…あの幹島とは何も無い。ただの車好きと言う括りの仲間だ。お前らだってそうだろうよ」
淡々と弁明してくる熟哉と、苦笑いしてバレたわヤベェ…みたいな表情で聞くお嬢2人。おそらくこの誤解は暫くは解けないだろうな。
仕方ないので誤解を解くことを諦めた熟哉。だが、否定はし続けようと決意。本当に何も思ってないし、本当に。
そうこう言ってるうちに、ショップに昨日のランエボがやって来た。幹島花菜が乗るランサーエボリューションVIだ。
来た!という感じで構える2人とこのタイミングかぁとため息をつく熟哉を見て不審に思うエボを降りて来た花菜。空気がカオスになっている。
空気を変えようと、熟哉が改めて花菜を2人に紹介した。
「改めて、幹島花菜だ。俺の後輩で、昔車好きって事でよく話してたんだ」
横で深々と丁寧に頭を下げる花菜。それを見て心の中でおぉ…と感心する2人。
そして、次に未来の紹介と空の紹介を花菜に向けて行った。
終始ぎこちない2人だったが、何とも女の子と言うのは不思議なもので、ものの10分放置していたら仲良くキャッキャと話していた。打ち解けるの早いなぁ。
2人にとっては同い年だが、俺との関わりがある人物を先輩同様に持ち上げて扱うため、花菜は率先して後輩に徹している。それをさっきまでの誤解を悔いつつ、めっちゃ良い子だと可愛がっていた。頭なでなでしたり、スベスベふんわりほっぺをフニフニ触ったり……セクハラジジイかお前ら。
一旦落ち着いて、今度は皆にお茶と茶菓子を振る舞い、ガールズトーク+不純物1人で話し合っていた。
「未来さんは熟哉先輩とは長いんですか?」
とか。
「空さんって神奈川からいらっしゃったんですよね!箱根とかのこと知りたいです!」
とか。
積極的に花菜から妹のように懐いて聞いて来て、その返答を目を輝かせて聞いてくれるので、2人にはそのうちお姉ちゃんと呼んでもらいたい…と邪な考えが過ぎっていた。
置いてけぼりを食らっていた熟哉だが、それを見てほっこりしていた。美少女3人がこの店で華を咲かすなんて初めてだったからだ。
じゃれ合いトークも終わり、一区切りついた所。熟哉があることを切り出す。
「それだけ仲良くなったんなら、野呂山遠征のあと3人で遊びに行ったらどうだ? 月野さんもここら辺の事もっとよく知りたいだろうし」
との事。
3人はめっちゃいいアイディアと賞賛し、気が早いがガールズデートの予定を立てていた。
それを後目に熟哉が場を離れ、工場に向かう。
「何事も無くて助かった。花菜には気を使ってもらったな」
そう呟きながら、工場に入れていたZとBRZを駐車場に出しておいた。タイムをクリアして野呂山遠征への条件を越えたので、納車するにもいいタイミングだと思ったからだ。
すると、3人とも駐車場に出た2台に気付き、車の元へ駆けつけた。やっぱり車好きだなぁ…デートの予定作りを放ったらかして一目散に来たぞ。
「ようやく会えた……私のZ!」
「ようやく会えましたわ……私のBRZ!」
2人して自分の車に抱きつき頬擦りして幸せそう。取り残された2人は苦笑いだったが、気持ちは分かるので何も言わなかった。
今回のチューニングメニューは以前説明をしているので省いた。次は野呂山をターゲットとして、一応新メンバー(?)の花菜も加わり、GSR第1レースへと足を踏み入れるのだった。
ここまでお読み下さり、誠にありがとうございます。




