やんちゃしてた人って、ふり幅大きいくらい変わるよね。
潜水艦は敵の砲火に揺れた。
雷獣たちはその衝撃に耐えて、人間に問いただす。
「天狐様はどこだ?」
人間は穏やかに答えた。
「天狐・・・?白い尾の狐さんのことでしょうか?狐さんはもうここにはいませんよ。」
「いない!?」
雷獣は目を見開いた。
前鬼の千里眼でこの施設に天狐の姿を見たはずだ。
「嘘をつくな!前鬼の千里眼でこの施設が見えたのだよ!」
後鬼も雷獣の傍で怒鳴った。
後鬼も前鬼と共に天狐の姿を見ている。
「狐さんはもうここにいませんよ。先日、私が別の場所に連れて行きましたから。」
男はそう言って肩をすくめた。
彼の顔には何の感情もなかった。
「どこに連れて行ったんだ?」
雷獣は男に駆け寄り、顔を近づけた。
雷獣の目には怒りと不安が入り混じっていた。
そのとき、潜水艦が激しく揺れた。
敵の攻撃が止まらない。
「まずはここから出ましょう。」
男は冷静に言った。
彼は自分の命の危機を感じていないのだろうか。
「どうやって出るんだよ?」
イズナが吠える。
雷獣達はこの施設の出口を知らない。
「倉庫の水が満ちてきてます。この艦を使って脱出しましょう!」
男はそう笑顔で言った。
「何をぬかす。この艦を動かせるものか!」
雷獣が怒鳴る。
自分たちは、艦のことなど知らない。
そして、この男を信じる理由はまだない。
「ご心配無用ですよ。私は乗り物の操縦に長けてますから。どんな乗り物も乗りこなせます。」
男は自信に満ちた声で言う。
当然、雷獣たちは疑いの目を向けた。
「それに。この計器類に残る思念を辿れば、操作の仕方も分かるのでは?」
男はそう言って後鬼の方を見る。
後鬼は思念を読む術を持つ。
「なんだと。」
この男はその能力をどうして知っているのか?
後鬼は驚いて男の細い目を覗き込む。
その目には何か秘められたものがあるような気がした。
この人間、一体何者なのだ。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
脱出できて、時間ができたら問い詰めるとしよう。
生きていようが死んでいようが。
前鬼と後鬼はかつて人間界で破壊と殺戮の限りを尽くしていた過去がある。
彼らは巨体と怪力を誇る恐るべき存在だった。
彼らは自分達の欲望の赴くままに自然を荒らし、生き物を虐殺し、争いを引き起こす日々。
多くの妖怪退治たちが前鬼と後鬼に立ち向かったが、彼らは敵ではない。
前鬼と後鬼は妖怪退治たちをあっさりと蹴散らす。
彼らは妖怪退治たちの武器や術を嘲笑った。
彼らは自分達の力が最強だと信じて。
そんなある日、一人の男が現れた。
男は奇妙な術を使う者だった。
男は前鬼と後鬼に戦いを挑んでくる。
最初、前鬼と後鬼は彼を軽んじていた。
こいつは自分達よりも小さくて細くて弱そうだと。
すぐに死ぬだろう。
しかし、彼らは大きく間違っていた。
術使いは想像以上に強かった。
彼は素早く動き、正確に攻撃してくる。
体術や念を使った術を駆使した息の詰まるような攻撃。
それに術使いは驚くべき経験と知恵と戦略を持っていた。
術使いは前鬼と後鬼の心の隙も見逃さない。
完膚なきまでに打ちのめされた。
前鬼と後鬼は悔い改めることを決める。
彼らは自分達の過ちを認めることができた。
彼らは術使いに謝罪し、弟子入りを願い出る。
術使いは快く受け入れてくれた。
師は前鬼と後鬼に体術や念を使った術を教えてくれる。
人間や自然に対する尊敬や愛も教えた。
平和や幸せを教えてくれた。
彼らは体術や念を使った術の奥深さに感動する。
生き物や自然の美しさに感謝し、平和や幸せの価値に気づいていく。
前鬼と後鬼は生きる意味を見つけた。
彼らは師に尽くす。
しかし、師は人間だった。
人間としての寿命しかない。
師はやがて老いて死ぬ。
前鬼と後鬼は悲しみに暮れた。
彼らは心の支えを失ってしまったのだ。
彼らは生きる意味を見失った。
そんな時、天狐が現れた。
天狐は白い毛並みと青い目を持つ美しい狐だった・・・・・
後鬼は男の顔をじっと見つめた。
男は後鬼の視線にも動じず、手元の機械に手をかける。
「それでは電気を入れますね。」
男はそう言ってスイッチを押す。
すると三秒もしないうちに、コントロールルームに明るい光が差し込んできた。
計器類や画面が一斉に動き出した。
艦が息を吹き返したようだった。
右側の大きな画面には、白いロボット兵隊が映った。
彼らはしばらく前まで、こちらを追い詰めていたのだが、今は違っている。
何者かに攻撃されている様子だ。
画面の奥には、ぼんやりとした姿が見えた。
よく見ないと分からないくらいに。
そのぼんやりとした姿が、ロボット兵隊を次々と倒していた。
「何がどうなってるんだ?」
雷獣が小さく呟いた。
状況が理解できなかった。
「ああ、新型の戦闘服を着た人間の部隊ですね。あの戦闘服は画面に映りにくい品なんです。厄介なことにね。」
男はボタンを押しながら冷静に言いながらも、優雅に素早く計器類を操作している。
外からの音声がコントロールルームのスピーカーから聞こえてきた。
「やつら潜水艦を動かし始めやがった。」
「まさか、操縦できるのか?」
いくつかの声が聞こえた。
それはぼんやりとした姿をした部隊のもののようだ。
続いて感情のない冷たい声が聞こえた。
「AAチーム、潜水艦にかかる橋を渡って出入り口を捜せ。DDチーム、別の橋から潜水艦の上部に行き、出入り口を捜せ。」
どうやらこの部隊のリーダーらしい。
雷獣はそう感じた。
「だいぶ戦い慣れてるみたいだね。こちらにとっては、いいことじゃないようですね。」
男は操縦席のレバーを確認しながら言う。
「早くしろ!ここで時間を無駄にするな!」
雷獣は男を急かした。
この状況では、この男を信用するしかなさそうだ。