倒れていた人を助けたら、全然知らない言葉で話しかけられた。あなたはどうする?
白い生き物は、雷獣たちの気配に気づいて、目を覚ます。
その姿は、天狐というよりは、狐の仔と呼ぶにふさわしい。
細くて小さくて、毛並みも乱れている。
飢えと寒さに耐えながら、この中をさまよっていたのさろうか。
子狐は目を開けると、そこには、見知らぬ獣たちがいた。
大きな牙と鋭い爪を持つ、恐ろしい獣たち。
子狐は、一瞬、息をのんだ。
子狐は、恐怖に震えた。
子狐は、必死になって、威嚇する。
そして、必死に声を出した。
「キュウウウウウウウウ!!!!」
「おい、待てよ。」
慌てて、イズナが声をかける。
しかし、子狐は聞く耳を持たない。
子狐は、だった。
「◎▲◇×☆~!!!」
子狐は、イズナに向かって、怒りと恐怖の声を上げた。
雷獣たちには、その意味が分からなかった。
「ああ、なんだお前たちは!的なこと言ってるみたいですね。」
そう言って、笑ったのは、子狐の隣に倒れていた人間だった。
人間は、ゆっくりと起き上がる。
金髪を後ろで束ねた人間は、声が低くて落ち着いている感じだ。
恐らく男だろう。
男は、細身のダークネイビーのスーツに身を包んでいる。
足元は、手入れの行き届いたビジネスシューズ。
妖怪にとっては窮屈そうな服装だが、彼はそれを上品に着こなしている。
男の洒落ッ毛がある雰囲気は、妖怪でも一目で分かるほどだ。
イズナがもっとも嫌うタイプである。
「お前、何者だ。」
イズナは、警戒を込めて、男に問いかけた。
この男についての情報が乏しく、彼が危険である可能性を排除できない。
返答次第では、殺す気だろう。
「それは、このおチビさんに言っているのですか?それとも私でしょうか?」
男は、丁寧な言葉使いで答えた。
しかし、その表情はどこか抜けている。
男性の目は細くて鋭い。
瞳は深い闇に隠れていて、何を考えているのか分からない。
顔色は青白くて、生気がな感じだ。
病気なのか?
何かに怯えている様子ではない。
男性の唇は薄くて冷たそうだ。
口角はわずかに上がっているが、取り繕うための作り笑いではない。
彼は自分がどんな危機に陥っているのか、わかっていなかったのだろうか?
子狐は悲鳴にも似た声で叫ぶ。
「ががががあ!!!」
その言葉は、雷獣たちにはまったく意味が分からない。
しかし、男は違っていた。
彼は子狐の言葉を理解できるらしい。
「何がどうなってる?って感じのこと言ってますね。」
男は笑いながら言った。
緊張感のない態度に、イズナは怒りを隠せない。
「それはこっちが聞きたい!」
イズナは男に詰め寄ろうとしたが、後鬼に制止される。
後鬼はイズナよりも冷静だった。
「あんたは、その子狐の言葉が分かるのかい?」
後鬼は男に尋ねる。
雷獣も、それが気になるところだ。
子狐は、彼らに向かって、不可解な声を発し続ける。
それは、妖怪の言葉ではない。
別の種族の言葉だったのだろうか?
雷獣は、その意味を知りたかった。
「だいぶ特殊な方言ですが、7割程度なら理解できると思ってますよ。」
男は飄々と答えた。
やはり自分がどんな危険な状況にあるのか、まるで気づいていない。
「では、この子狐はあなたの言葉を理解できるのかい?」
後鬼はさらに聞く。
雷獣もそこが気になる。
後鬼も、その謎を解きたかった。
「まあ、全部は無理でしょうけど、半分は分かるみたいですね。」
男はそう言って、子狐に微笑んだ。
子狐は警戒しながら妖怪たちと男を交互に見る。