7話 衝撃の事実
ナイフのように鋭い眼光を持っているが、強風が吹かれたら細枝のようにポキッと折れてしまいそうな彼女が元勇者パーティメンバーの子孫だというのだからカインは思わず口から大声を上げてしまった。晴天な空にカインの声は届いて、雲を泳ぐ鳥がざわめく。
「そんな驚くことかね?」
「いや驚きますよ、伝承の中の人物なんですよ、クリン・アルバルクというのは。大木のような腕で、どんな大剣でも振り回したという」
「あいつは怪力馬鹿だったからなあ。なんなら片手で振り回してたぞ、大剣」
クリン・アルバルク。勇者と共に世界に安寧をもたらしたもされる人物の一人。豪傑と称され人間離れした怪力で迫り来る魔物を打ち払った。その豪傑の子孫が目の前にいるのだが、華奢で大木の腕とは真反対の細枝のような腕をしている。灰色の髪は純白の瞳に映えて少女の美しさを際立たせていた。クマのネックレスは仄かな橙色の光を内包してる。
「あの……助けて貰ってありがとうございます。あのお名前を聞いても」
「俺はカイン・ローズベルト。こっちの人はチェリーブロッサム。よろしくね」
「お礼と言ってはなんですが、ご飯を振る舞わせてくれませんか?」
「本当かい!?それは願ってもないお願いだよ。ぜひ、行くとも。なっ、カイン?」
「お腹も空いたのでお邪魔します」
二人がこの街に来た理由が食事をしに来ていたので、食事の誘いは心から嬉しかった。誘いを受けた二人はラリンに着いていく。
裏路地に三つの足音が木霊して三重奏を奏でる。水がせせらぐ木橋を通って、花の匂いが至る所からする花屋の前に視線を奪われる。
十分ほど歩くと二階建て石造りの簡素な家の前に着く。ここです、と木製の扉をラリンが開ける。
「狭い家ですけどくつろいでください」
「狭いなんて、ここはもっと広い家だよ。ちょっとラリン失礼するよ」
チェリーは断りを入れると、支柱の一本である柱を力一杯に殴り始める。それを見たカインが止めようと静止に入ろうとしたが、家はどんどんと奥行きを増していた。何が起きているか分からないまま、壁を殴り続けるチェリーを傍観すること三十秒、ついに手を止めた。
「よし、拡張成功!」
「……師匠説明してもらっていいですか」
「ここは元々クリンの家だったんだ。あんま場所を取ると街の人に申し訳ないということで、アイツはこの家に拡張魔法をかけたんだ。まあ、その発生条件が力いっぱい柱を殴るっていうクソ脳筋みたいな条件なんだよ」
「それで柱を殴っていたと?」
「正解!」
「正解じゃありませんよ!ちゃんと説明してから殴ってください!なんでいつもそう説明不足なんですか」
「した後に説明すればいいかなって……」
「ダメですよ。師匠の常識はこの世界の非常識なんですから」
「え、いま私の事非常識って言った?」
「言ってませんけど言ったようなもんなので認めますよ」
「ラリン〜、カインが虐めてくる」
「えっ、あっ。えっと、ダ、ダメですよ」
「無理しなくて大丈夫だよ。そこの人はほっておいていいから」
「騒がしいと思ったらお客さんが来てたのかい。ラリン、お茶を出してやりな。狭い家だけど……狭くない?」
「あ、お母さん。紹介するね、私を助けてくれたカイン・ローズベルトさんとチェリーブロッサムさん」
「勇者たるもの困ってる人を助けるのは当たり前だよ。あっ、私もう勇者じゃなかったんだ……」
「そうかい、ゆっくりしていってね。それでこの家はどうなってしまったんだい?」
カインはなぜこの家がでかくなったかの経緯をラリンのお母さんに一通り説明する。
ではまた。