3話 地獄の幕開け
「カインは教練所には通ってた?」
「通ってましたよ。義務でしたからね。教練所に通うのが子供の仕事のようなものですよ」
教練所とは齢六歳の頃から通い十六歳になったら卒業をする、学びの場だ。基礎的な魔法の知識や食べてはならない薬草など冒険者に必須の知識から、商人になるための知識などを教えこまれる。この世界を生きていく上で、無知というのは自殺行為と呼ばれており、親は何があろうと子供を教練所に入れる。
カインもそこで剣の使い方などを一通り教えこまれ、冒険者という夢を諦めてはいたけどそれなりの知識は備わっていた。
「じゃあ、魔法の使い方も知ってたりする?」
「ええ。慣れていない時は詠唱をし、慣れ始めたら無詠唱で魔法が放てるようにする。ですよね?」
「なぜ無詠唱なのかは?」
「無詠唱の方が敵になんの魔法を打つか悟られづらいため、戦況を有利に動かすことが出来るため」
「魔法を使いすぎたらどうなる?そして魔力が底をつき始めたらどうなるのか分かる?」
「失神か、最悪の場合死に至る。魔力が無くなってきたら視界がぼやけてくる」
「うん、魔法の知識は大丈夫そうだね」
チェリーから次々に出されるテスト形式の質問に戸惑いながらもカインは答えていく。
「あのこれなんですか?」
「剣聖の力をカインに教える前に基礎的な知識があるかどうか確認してるだけだよ。無かったら強い魔法バカスカ打って最悪死ぬかもしれないでしょ?剣聖の力は強大なんだ、使うにも細心の注意が必要なんだよ」
「な、なるほど」
さっきまでヨダレを垂らして寝ていた人物とは思えないほどに真面目でテンションの緩急に驚く。
勝手に人を剣聖にしたりするチェリーだったが、人の死を一番間近で見てきた人物でもあった。そのため、カインの知識量を確認し足りなければ補って死なないようにしようという、優しさから来てるテストだった。
「剣聖の力は出力を間違えれば、町が簡単に吹っ飛ぶような力だ。それほどに強大で使用者にもその分多大な負荷がかかる。生半可な体で使おうとしたら自分という名の器が耐えきれずに死に至る。分かったかい?」
「はい」
「分かったならよろしい。てことでこれから一ヶ月地獄の体力作りね」
「……え?」
「メニューの内容は百キロ走った後に腕立て伏せ千回。スクワット五千回にこの崖を往復百回ね。まあ、これを一ヶ月完遂させたとしても力は基礎の基礎、本当に初期中の初期しか使えないけどね」
幻想だと思いたくなるような地獄のメニュー。そもそも、これは人間ができるものなのだろうかとカインは疑問に思う。一流の冒険者でもスクワットはせいぜいが千回で終わるであろうに、それを冒険者という肩書きを持っているが一般人に近いカインが、完遂できる保証なんて一パーセント以下であるというか、ほぼ無いに等しいと言ってもいい。
しかし、このメニューを提示してきたチェリーの目は嘘をついてない純粋な光を放っていて、嘘ではないと心に伝えてくる。
「本当に出来るんですか?そんな内容」
「私は剣聖の力を失ったとしても、魔力やらは失ってない。並大抵の冒険者よりは強いよ?」
「つまり、無理やりにでも遂行させることができると」
「よく分かってるじゃないか。愛弟子よ」
「……本当にやるんですか?」
「本当にやるとも。なんなら今からやるとも、ほら外に出た」
そう言いながらチェリーに背中を押され外に出される。ギンギラと熱い太陽が体の体力を立っているだけなのに奪っていく。
やりたくないという気持ちが溢れかえる。今すぐ帰りたいが、チェリーは終わるまで帰さないと言って聞かない。カインは心を決める。地獄のメニューを終わらせる方向で行かなければ精神も体力も全てが終わるだろう。死にかけてもチェリーが何とかしてくれるという曖昧な期待で課せられたメニューをスタートさせる。
ではまた。