呆気なく
アーサーは、白色を認識すると真っ先にそこに向かって走った。たかが数カ月、されど1番ユリアの心も安否すら分からなかった。信じていると言っても、待っててくれと言っても、ユリアは動くと思っていた。
それがユリア・カエサルだと知っていた。
勢いのままユリアを抱きしめ、息をしていることを実感し、安堵する。
生きてる………
ここまで自分が王族として動けなかったのは初ではないだろうか。安堵が足の指の末端にまで広がっていく。
「アーサーさま」
ぽつりと聞こえたユリアの声に、そっとユリアを胸から離す。最後に見た時と変わらない人形のような美しい端正な顔立ちを無表情にして、こちらを見上げてくる。
「………ーーどうした?」
だが、無表情の中にも滲み出てくる困惑と混乱。アーサーは、安堵などの温かい感情が一気に冷めていく自分を感じた。
ユリアは言葉が浮かばなかった。現状報告、状況説明、そして好きだ告白すること。多くの伝えなければならないことが頭の中に過ぎっていくのに、どれも霧散していく。
「……アーサーさ、ま…」
目をぎゅっと閉じて、情けない声で名を呼ぶことしかできない自分を恥じる。けれど、それでもアーサーに何も伝えられない。
「………。」
そっ、、
右頬に優しい温もりを感じた。優しい温もりに促されるように目を開ける。
あ………
視界一杯に広まるのは、とてもとても優しく慈しむような眼差しを向けてくれ、穏やかに微笑むアーサーだった。
キラキラと埃が窓から差し込む陽射しに反射して輝いて、それと同時にアーサーの緑の瞳が宝石のように静かに光った。
「ーー大丈夫。」
‘ユリア。‘
「大丈夫だ、ユリア。」
‘もう愛さないで‘
「もう、大丈夫。」
頬に伝うのは、何なのか。
瞳の奥が熱を持つのは、何故なのか。
ああ、視界が滲んでいく。
ユリアを安心させるように、そっと落ち着かせるように言ってくれた言葉でしかない。
でも、それでも、ユリアには十分だった。
右頬にあるアーサーの手に自分の手添えて、そしてアーサーと指を絡ませる。
「ずっとお慕いしておりました、
アーサー様。」
ピクリとアーサーの指が動く。
きっと美しさも何もない、ボロボロの血だらけの装いに、涙を流して顔もぐちゃぐちゃ。それでもやっと言いたいことが口から出た。
貴族として、この場の現状報告よりも先にアーサーへの気持ちを伝えた自分はきっと愚かだ。ずっと嫌いだった自分だ。
それでも、今は伝えたかった。
無意識に表情が無から笑顔へと変わっていく。
「大好きです、アーサー様。」
‘愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。愛さないで。‘
頭にガンガン鳴り響く警告のような自分の声。それが何故か聞こえていないかのように、何ともなかった。
幸福が胸に満ちた。
「貴方が私の手を引いてくれて、走って。
そして、貴方が私をお姫様で良かったと仰ってくれた時から、貴方が私の心臓。」
「貴方が私のーー」
『ーーー駄目よ。』
ーーーーーープツンッ
「……ユリア?」
ユリアからいきなり表情が消え、アーサーの手を握っていた手はブラリと下へ下げられた。まるでいきなり人形になったように、ユリアは固まった。
「ユリ、ア?」
アーサーは、応答しないユリアの頬を小さく指で叩く。だが、何の反応もない。瞳は光を失っている。
「……ユリア!!!!!!!!!!!!」
絶叫のようなアーサーの叫びが室内に響き、
兵士達に動揺が走る。しかしそんな中で取り押さえられているウィリアムはユリアに何が起こったのか思考を巡らし、シュガーはそっと骨の一部を持ち上げて、棺桶から離れた。




