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悪女語り。  作者: 林 空花
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「ここに、フィリップ・クルワン公子を正統なクルワン家次期当主となることを任命し、候爵の爵位を授ける。」


「ーー有り難く。」


アーサーが侯爵の爵位となる勲章を授け、クルワンは片膝をついてそれを承る。

盛大な拍手と賛辞が会場を包む。

公爵家の正統後継者として、侯爵地位が授けられ、小公爵となったフィリップ·クルワンが今日誕生した。

彼の後ろに控えたミランダは、初めて社交界に出たとは見えないほど落ち着いて見える。

ユリアは拍手をしつつ、改めて現実と夢が交差していくのを感じた。


アーサー様はこの子を好きになる?

そうなる運命なのかしら。

それとも夢は変わる?運命は変えられるのかしら。


ここは物語の中だとして、あの彼女の夢の世界は?あの夢は、ひどく現実的であった。そしてこの世界もまた現実的な世界で、私の肉体は確かに存在している。

なら現実世界が二つあるということなのか。

彼女は何者で、そして私が………死んだとして、生き返り、しかも時間が遡ったわけは何なのか。


誰が、何の目的で…


「ーーーユリア。」


アーサーの声かけに我に返る。

壇上から降り、ユリアに向かって歩いてくるアーサー。縋るような視線を向けないよう、視線を再び今夜の主役の二人向ける。


「身体、大丈夫か?」


「ええ、問題ありません。」


アーサーがこちらを伺うが、気にしないようにする。体調は間違いなく問題ないのだ。

アーサーは読み切れないことに少し息をつく。頑固なユリアを、弱音を吐かせるようにするのはひどく難しい。そういえばと、ユリアの弱音を実は一度も聞いたことがない気がした。

自分が頼りないのか、ユリアが頑固なのか。

アーサーは両方なのだろうと少し落ち込む。友人としてうまく行っているのに、壁があると常に感じている。誰よりもユリアの傍にいる気でいるのに、壁があるのは………いつか取り除けるだろうか。

そんなことを考えつつも考えを変えようと、フィリップに目を向ける。


「あの子、どこの令嬢だろう。」


「さぁ。…まぁ社交界デビューはしてないと思いますわ。赤毛も、我が国では珍しい。」


「確かに、北国ではなく東の地方の血筋かな。」


ふーむ、もしかして貴族じゃない?

ただ貴族じゃないにしても、教育は受けてきたようだ。

アーサーがミランダのことを考えていると、会場に音楽が流れ始めた。最初のダンスは勿論今回の主役のみだ。


「…………まるで、物語の主役ですね。」


ユリアがぽつりと言った言葉に、アーサーは同意した。フィリップがダンスを誘い、それを承るミランダ。その二人の光景は、何故か目を奪われた。

二人のダンスは息が合っている。時々ミランダが崩れそうになるが、フィリップがそこを支え補っていた。

ユリアは、誰もが素敵だと息をつく中、自分の心が冷えていくのを感じた。そっとアーサーを盗み見ると、二人を微笑ましそうに見守っている。


恋に落ちている様子はない。


そう、恋に落ちている様子はない。

でも、分かっている。彼はまた、私に恋していないことを。きっと、今後も友人として私達は夫婦になるのだろう。


ああ、駄目ね。


胸に渦巻く、どす黒い靄は間違いなく嫉妬だ。

まだアーサーが恋に落ちたわけじゃないのに、ミランダが妬ましくなる。



ワァッ!


二人のダンスに喝采が起こる。そして音楽はリズムカルな軽快なものに変化し、ユリアの目の前にアーサーがすっと立つ。そして優雅な仕草で手を差し出してくる。


「カエサル嬢、私に一曲目のダンスを踊る名誉を。」


「ーーー喜んで。」


アーサーは顔を上げ、にししっといたずらっ子ぽく笑う。その表情が憧憬を匂わせて、胸が締め付けられる。



ねえ、アーサー様。

全ての努力が無駄になったと言わない。

けれど、どうすれば貴方は私に恋をしてくれますか。焦がれてくれますか。

その為ならどんな努力だって、惜しまない。

だから、お願い。教えて。

どうすれば貴方に振り向いてもらえたの。

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