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悪女語り。  作者: 林 空花
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傀儡の王として


アンベルク・ハサウェイは、夕日が海上に沈んで行くのを眺めながら、ミアリーの額と前髪を撫でる。

自分の手のひらに着いた、ミアリーからの返り血は固まり、指が動きにくい。


アンベルクは、王になどなりたくなかった。

王家にも生まれたくなかった。


だが、生まれたし、成った。


幼い頃から分かっていたのは、自分が平凡だということ。それは周知の事実だった。

それでも王になれたのは、四大貴族が自分を推したからだ。優秀な弟でもなく、従兄弟でもない。自分だった。理由は明確。平凡であったから。彼らの傀儡になるには、自分はその点で才能があった。


そんな自分の元に訪れた、マルコニア国ハルメニア王朝において、ハルメニアの獣と称された女。


怒りを抱えて、その怒りは鎮めることなど到底出来ないマグマのようなものだった。

俺はいつか寝首を掻かれるのか、それとも彼女の傀儡となるのか。そんなこと分からない。分からないけれど、自分には彼女が傷ついてるのだけは分かっていた。傷ついて、怒っている。彼女は傷ついている。

何もかも諦めた世界だけれど、彼女の傷だけは癒そうと思った。これ以上傷つかないように。これ以上彼女が破滅へ行かないよう、彼女にとって自分が幸せであれるように。


そして、いつか………本当の夫婦になれた。


それはきっと、自惚れじゃないと確信している。



「ミアリー。」


俺は、王。

王だから、王の選択をした。

俺は、父。

父だから、父の選択をした。

俺は、夫。

夫だから、夫の選択をした。


間違っていない。間違っていないのに。


「、ふ……ッ…」


ポタリと落ちた雫が、ミアリーの頬に落ちて伝う。


君が好きだ。大好きだ。


俺は、今日、愛する人を殺した。

俺が、殺した。


ミアリー、君は覚えてもなければ、知らない。



『ミアリー・シュルワともうします。はじめまして。』


ドレスの裾を上げて、ぎこちなく礼をする君を、俺はまだ覚えている。それが俺達の初対面だったんだ。

そして、次に出会った時にはもう君は男装をしていた。快活に騎士に混じって、剣を振り回し、汗を流していた。そして俺との勝負に勝った君は、飛び跳ねたんだ。


『あはは!やった!私の勝ち!!』


俺は、尻もちをつきながら、あの時に顔をくしゃくしゃにして笑った君に目を奪われた。

汗まみれで、上品でもない。でも、君は無邪気で自由だった。誰よりも、誰よりも。


俺は、君の自由さに尊さと憧れを抱き、

この世で最も好きだった。



「……、…」


アンベルクは日が沈むのを見届けると、ミアリーの死後硬直が始まった、とても重い身体をゆっくりと自分の腕から離した。

優しくバルコニーの床に起き、立ち上がる。

真っ暗な町並みと海を照らすのは、月と星の輝きで。アンベルクは静かに目蓋を下ろした。



戦いが終結した後の戦後において、どう動くべきか今の今までミアリーと計画を練った。

ウィリアム・クルワンの手のひらに乗るのは癪だけれど、それでもミアリーが望んでしまったことは、もう戻しようがないところまで進んでしまった。

アーサーには悪いが、もう後は進むしかない。


飾りの王は飾りの王らしく、

誰かの計画に添って歩いていく。


でも、それが、ミアリーの計画なら喜んで、傀儡となろう。


アンベルクは目蓋を開ける。



アーサーが自分と同じ選択をしないように、自分が今後は道筋を作らなければならない。それは、ミアリーもウィリアムも、そしてガリアーノでさえ考えていないだろう。

赤黒く染まった手のひらを見、アンベルクは自嘲の笑みが溢れる。


妖精のような子だと思った。

真っ白な、少女。

そして、……アーサーを好きになってくれた子。


もし彼女がアーサーと添い遂げるというなら、自分がしたこんな思いを息子にさせるわけにはいかない。

アーサーに、妻殺しはさせない。


それは、きっと、俺しか考えてやれていない。



この計画に関わった全ての人間が、

王としてのアーサーしか見てなくて、

誰も彼も「アーサー」という人間を見ていない。



アンベルクは、静かにバルコニーを後にした。

翌日ミアリーの遺体は、シュルワ家に送られ、そしてその日、シュルワ家並びにクルワン家など四大貴族はアンベルク・ハサウェイからの告知状を受け取った。

四大貴族から告知状の内容に対して、大きな反対の声は上がらなかった。いくつかの反対意見は出たが、大きくは出れなかった。何故なら彼らは自身の罪を知っている。そして、何より暴動が各地の領地で始まってしまったのが原因だった。

此度の戦争にクルワン家の関わりとシュルワ家、ポーロ家が関わっていたことは、いつの間にか国民には知れ渡っていた。貴族へのチリに積もっていた怒りは、爆発してしまっていたのだ。


これは数ヶ月先の話だが、告知状にて全ての特権剥奪を記されていた四大貴族は、これを受け入れた。

ハルメニア王朝が始まってからずっと王朝を、

マルコニア国を支えてきたハルメニアの四大貴族は、

領地並びに議会出席の特権を

全て王家へと返納した。

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