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悪女語り。  作者: 林 空花
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時代の節目


ユンが振り返ると、兵士の格好をした男が一人いた。ここにいるというだけで、ユンは全てを察した。身体に残る僅かな聖力を一気に手に集めて、男に当てようとする前に男はユンの弱った小柄の身体を足で蹴り飛ばす。

ユンが床に倒れると同時に男は棺の方に足を向けていく。


「ユン様っ!?」


「え!て、敵兵!?」


ミランダとマクシミリアンが追いついて、祈りの場に着いた時には、ユンが丁度蹴られたところで二人は敵兵の格好をした男を警戒しながらユンに駆け寄る。


「ぐ、ま、待て!」


ユンが痛む体を何とか起こし、男に叫ぶ。

ミランダとマクシミリアンは困惑しながら、ユンの身体を支えようと背中に手を添える。そんな二人など視界に入らないのか、ユンはただ棺に手を伸ばす。

男はユンの制止を無視して、棺の前に立つ。

冷淡な眼差しで棺を見下ろす男、ウィリアムは、棺が全ての疑問を解決してくれることを察した。重厚な棺の蓋に片足を置き、ギギっと不快な音を立てながら蓋をズラしていく。


「やめろっ!!!!!!!」


ユンの叫ぶ声は虚しく響くだけで、棺の蓋はズラされた。

中には棺らしく、ーー人骨があった。






ドクンっ



シュガーは、足を止めた。

シュガーが足を止めると、ユリアも足を止めた。シュガーが混戦となったクーガンの地を、兵士と兵士の間を抜けるように守ってくれ、ユリアは聖堂前に辿り着いていた。


「俺は聖堂に入れねぇの。」


「は?何お前、違う宗派とかの話をしているの?この状況で?……とゆうか、何かの信者になれるの?」


信心深そうには全く見えないと怪訝そうに見てくるユリアに、シュガーはどう説明すべきか考えるが、答えは見つけ出せない。


面倒くせえ


もはやユリアを置いて去ろうと背を向けた時、足を止めた。

勢いよく聖堂に顔を向ける。


「?シュガー?」


ユリアが首を傾げ、おかしな行動をするシュガーを見る。そんなユリアの声など全く聞こえていないのか、シュガーは段々と顔に笑みを広げていく。

ゾクッとその表情を見ると、ユリアは寒気を覚えた。得体の知れない不気味な存在。シュガーがいきなりそんな風に見えた。

シュガーは、ゆっくりとユリアを見る。


「悪いな、先行くわ。」


「はっ?」


今し方、入れないと駄々をこねていたシュガーは、何があったのか意見を真反対にして、ユリアを置いて聖堂に足を踏み入れていく。

ユリアは何がどうなっているのか戸惑いつつ、そんなシュガーを追いかけようとしたが、目を見開いた。あるはずのシュガーの背中がどこにもなかった。シュガーは、消えた。


な、何なの。


足が速いとか、そんな次元じゃない。何。どうゆうこと。

混乱してしまった中で、背後で爆発音が聞こえた。その音と衝撃にユリアは身体を反射的に屈ませて、思考を振り切る。こんなとこで混乱してる時間はない。すぐにユン様を見つけないと。他のことはその後に考えれば良い。

シュガーがいないことで無防備になってしまった。ユリアは止めていた足を早めようと足を動き出す。聖堂の中に入るための階段を一段飛ばして上がっていく。その時だった、視界の右側の端に何かが入った。でも、それだけでユリアが足を止めるには十分だった。

ゆっくりと時間の流れが遅まっていく感覚に陥りながら、ユリアは身体を右に向けた。

周囲を護衛で固めながら馬に乗り、こちらに向かってくる一群。兵士に囲われ、中々その中にいる人は見えないけれど、チラチラと見え隠れするその姿は、ずっと焦がれていた姿だった。


アーサー様………


たった半年にもならない、数ヶ月ほど。

それだけの期間だ。でも、……ここまでアーサーの考えも気持ちも分からなくなって、自分の気持ちも考えも分からなくなり、精神的に距離が離れたのは初めてだった。


‘もう愛さないで‘


別の世界か、それとも夢か。愛すなと言った彼女に言いたいのは、ただ一つ。

視界に入っただけで、思い浮かべるだけで、愛しさが募る。……幸せ、よ。幸せなのよ。


『ユリア』


夢を見た時から、頭に響く声。今もまた頭に響いてきた。

ユリアは視界からアーサーを振り切り、また階段を上っていく。


この声、……夢の彼女の声だ。


そんなことをやっと気づく。







女神は独り、泉の水面を見る。

混沌化している人間界。暴かれた人骨、魂が欠けた女性、私の愛し子、私の罪そのもの。


「ーーまた、一つの時代が終わるわね。」


そしてまた、動き出す。

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