悪魔の名前
「悪魔、俺の息子を助けてくれ。」
昔、死にそうな息子を助けるために、俺を呼び出した奴がいた。
懇願してくる人間を弄ぼうと、俺は叶えてやる代わりに俺の願いはお前が叶えろとそいつに難題を突きつけてやった。
どれだけ無茶苦茶な大変な問題も、そいつは誰かの手を借りてでも解決してきた。
………気づいたら、そいつは王になった。
気づいたら、俺はそいつの息子を治していた。
「悪魔。そういえば、君に名前あるの?」
病気で死にかけていた息子は、治ればそれはうるさいやつで。俺にビビることなく話しかけてきた。
「あーー?」
「ならさ、ならさ、俺が名前決めていい?」
「はあ?」
「シュガー。甘いの好きだし、シュガーってどう?」
なんて安直な決め方なのかと言いたくなったが、どこか楽しそうに嬉しそうにそう言ってくる息子に、俺は何も文句が言えなくて。勝手にしろと言っていた。
それが俺がシュガーと成った日。
赤黒い液体を全身に浴びて、ユリアは俺を茫然と見上げていた。真っ白いと形容詞される容姿を、ここまで色替えできるのは中々にないだろう。
「よお、お嬢様。大丈夫かぁ?」
その問いに彼女は止まった時から抜け出せたのか、はっと視線を動かす。そして生暖かい液体を全身に浴びたことを悟り、自身の手を翳す。手を見つめ、転がった死体を見、何かを言ってしまいそうな唇を噛み締めた。
「……大丈夫じゃねえの?」
返事をしないユリアに、期待外れのような声が出る。彼女はシュガーの期待通りの魂であるはずなのに、見当違いをしてしまった落胆が浮かぶ。
ここで脅えるようならば、脅えを表に出すならば、ただの普通の味である。
「ーー大丈夫に見えるなら、貴方の感覚は人とは大分ズレているのね。」
だが、返ってきたのは強がりでなければ、脅えた声でもなく、不愉快そうな返答。
シュガーがキョトンとすれば、ギロリと睨まれた。
「助けてくれた礼を言うわ。でも貴方ちょっと生意気。」
「………………ふっ」
思わず吹き出して、シュガーは戦地なのに大声で笑った。
「あんたが、それ言うのか!」
良かった。やはりこの魂は最高の馳走だ。
ユリアはゲラゲラと笑うシュガーを不愉快に睨みつけ、そして仰向けになっていた身体を起こす。
生暖かい血が全身にあって直ぐ様水浴びをしたいところであるが、そんな暇はないであろう。まだ笑っているシュガーの太ももを叩いてから、立ち上がる。ふらつく足に、さっきは本当に死を感じたと思った。アーサーの重荷になりたくないと言いつつも、自分は結局無力だ。権力や美貌すら失えば、更に無力になる。それをまざまざと痛感する。
ーーー反省はあと。それより今は。
「シュガー、貴方ここには馬で?」
「んぁ?…ソーダヨ。」
「なんで片言なの。とりあえずこの混乱で、私が自分の身を守れるのは難しくて。護衛お願いできる?」
「かしこまりました、お嬢様。」
なんて心のこもってない敬語なのかしら。
不遜で、大胆な男。隊で動いていない、一人で動いているところを見るとコイツは怪しい。……今回の戦争に関わっていないとしても、見張った方がいいかもしれない。あとでアーサーに言おう。
「今の状況じゃあ街の住民は死傷者が出るだろうな。」
「……そうかもしれないし、大丈夫かもしれない。」
「あ?」
ユン様が目覚めた。だからこそ結界が外れてしまったけれど、それは同時にユン様が別の力を使えることを意味する。
‘我が女神‘
何故か頭に浮かぶ優しい慈愛に満ちた声。
「……………神力のことはよく知らないけど、もし、ユン様が…まだ力を使えたとしたら、あの方はきっと、」
だからこそ動かなければならないし、だらこそ結界が破壊される前に時間稼ぎをしたかった。
「シュガー、私を聖堂まで連れて行って。」
「えッ」
「何?」
「お、俺あそこ苦手っていうか。」
「そんな悪魔みたいな台詞吐かないで、行くわよ。」
……ユン様。お願いします、まだ使わないで下さい。
「……悪魔なんですけど。」
ユリアには届かない声があった。
仕事忙しく数ヶ月も更新できず、申し訳ございません。よろしくお願いします。




