クーガンの戦い⑫ 君を信じてる
シュガーは、一通り食事が終わったと落ち着いた。数日も食事をし続けたからか、欲が満たされ、シュガーは気分が良かった。
海から離れ、シュガーは未だ警戒態勢を解けないでいるマルコニア国の兵を横目に、そういえばとユリアのことを思い出す。
やべ、忘れてたなぁ。
球体がそんなシュガーの頬を責めるように、ぐりぐりと頬に押し寄せてくる。それを指で払って、シュガーはユリアの気配を辿る。
そして気づく。
「おっ!聖堂から出てるじゃねぇか!」
喜ばしいとシュガーは手を叩く。
欲も満たされているし、喜ばしいこと続きだ。が、シュガーは笑みが消えた。
「ーーあの女、本当馬鹿なのか?」
死にたがっているようにしか見えないことにため息をつきたくなった。
球体が疑問を口にしたので、シュガーはユリアが自爆するとか言っていると伝えた。球体がぎょっ!?っとするように、跳ね上がる。
シュガーはやれやれと思い、ユリアの元へ行こうと移動を始めた。
アーサーは、結界に触れてみる。硝子のように冷たさと硬質さを感じた。
割れることはないと信じたいが、何の保証もない。だからこそユリアは出向いた。時間を稼ぐために。
他家や他国から求婚があるのは知っていた。ユリアの評判は近隣にも轟いている。デビュタントの時に、ユリアの麗しさを見、ああ俺の姫はきっと色んな人が手に入れたくなるだろうと予感した。誇らしかった。ユリアの努力が実ったように思えた。
こんな時にその好意が生きるとはなぁ。
アーサーは拳を握り、胸の内で静かに謝った。
ごめん。ユリア。ごめんな。
助けたいのに、今すぐ助けて、会って話したいことがたくさんあるのに、俺はそれでもこの地位を捨てることはできない。………ごめんな、どうか無事でいてくれ。
「アーサー殿下。」
アーサーは結界から離れ、振り返り、笑みを浮かべる。
「ガリアーノ、無事で良かった。」
ガリアーノは神妙な面持ちをしていた。
ガリアーノがミキルにユリアのことを伝えたと聞いていたから、アーサーに会いに来ることは察していた。アーサーは側にいた護衛兵に視線を送り、彼を話が聞こえない位置まで下がらせる。
「殿下、これから始まる陸地戦。俺も作戦に加えてくれませんか。」
「それは、出来ない。」
「騎士の資格なら!」
「そうじゃない、分かっているだろ?ガリアーノ。」
ガリアーノは唇を噛む。
騎士の称号があるとはいえ、兵として団体訓練などは受けたことはない。特にこのマルコニア国、ハルメニア王朝になってから、この国の兵たちはまず5人組となる形式を作って動いている。その5人組は、長年共に訓練を受けている。そこにいきなり組み入れてくれと言うには、無理がある。
「一人で動きますっ、作戦の邪魔はしませんっ。」
「ガリアーノ…」
「……姉を助けに行かないのでしょう?」
アーサーは、何も言わない。ガリアーノは手で自分の胸を抑え込む。
「だからっ、俺が助けるんです!俺が!」
「ガリアーノ・カエサル。」
いつも優しく笑いかけてくれたアーサーから笑みが消え、真っ直ぐにこちらを見据えてくる。ガリアーノは、息を呑んだ。
「ーーここまでだ。」
突きつけられたのは、どこまでも無力だという現実だけだった。
アーサーは、絶望に顔を歪ませるガリアーノをその場に残して、護衛兵と共に歩き出した。
「殿下。」
「なんだ。」
「命じてくだされば、私が…」
護衛にアーサーは視線を向け、それだけで続きの言葉を制した。そして、アーサーは口を噤んだ護衛兵に笑みを向けた。
「駄目だ。まずはここにいる市民の安全が優先だ。ユリアじゃない。……何より、少しだけ大丈夫だと思う自分がいるんだ。」
護衛が首を傾げる。
アーサーは、護衛に背中を向けた。
「ユリア・カエサルの強さを、賢さを、誰よりも知っているから。」
ーーー生き抜いてこい、ユリア。




