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悪女語り。  作者: 林 空花
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クーガンの戦い⑨

ナニクン国の父への関与は、ナニクン側の対応で確実なものになった。

ユリアはナニクンの自分への対応に、疑いが確信となった。


リッツォによりナニクン側の兵と連絡が取れた。

結界が貼られていない場所がある。それは、地下であった。リッツォは潜伏していたこの数年、ずっとずっと穴を掘っていたのだ。重厚機の開発は、鉱山の多いナニクンで発達するのは分かっていたが、トンネルが出来上がるとは思っていなかった。

人一人の幅しかないが、ユリアはリッツォだけをまず結界の外に出した。ユリアが捕まる前に交渉できるか否かを先に確認してもらうために。


リッツォを待っている間に、ユリアはミランダとガリアーノにユンのことを頼んだ。ミランダは共に行くと叫んだが、ユリアはそれを断った。


「なぜですか!」


「人質は一人で十分。」


「ユリア様!!」


ガリアーノは渋々賛同してくれたが、ミランダは全く賛同してくれないのでユリアは何故こいつに許可を取らねばならないのか気づき、無視しようとした。その時、マクシミリアンが怖ず怖ずと手を挙げる。


「あの~…とりあえず、その兵が入った穴を閉じません??ナニクン側が攻めてきますよね?」


「それはないわ。」


「え、なんでです?」


ユリアは、備蓄庫の方を見る。


「爆弾を設置したわ。もし兵が一人でも侵入したら、生き埋めにしてやると伝えてる。」


「さすがです!ユリアお姉様!!!」


お姉様…?


マクシミリアンが輝く目でこちらを見てくることにユリアは少々引く。逆に生き埋めにすることを発想した姉に、ガリアーノは引いた。


「私の作戦の詳細を今から話す。結界が外れた後にでも、外のミキルに伝えて。」


「ユリア様、駄目です。」


ミランダがユリアの手を握る。涙目になっているミランダは、懇願するように言った。


「ユリア様、駄目です。まだ結界が外れた、壊されたわけじゃありません。それはユリア様が仰ってたじゃないですか。」


「壊されてからじゃ遅いのよ。ユン様は意識を失っているし。ここは、兵が極端にいないの。」


「でも、……無事だと保証がありません。」


ユリアはその言葉にふっと嗤った。


「それは、現状誰にも言えること。だから、私が行くの。少しでも確率あげる。」


ミランダも分かっていた。現状何もできていない環境にて、もしユリアの言うように結界が外れることがあるなら時間を稼がなければならない。

ミランダは、分かっていた。分かっているからこそ、葛藤が起こる。

自分の中に浮かぶ考え、そのことで手が震えそうになる。それでもミランダは、ユリアの手を強く握ることで勇気を振り絞る。


「……私も、私も行きます。」


ユリアは、ミランダの目を見る。

恐怖と脅えしかない。それでも行くと言うのは、ミランダの性分なのかもしれない。


「ーー不要よ。」


ミランダの手を離し、ユリアは作戦を口にした。





アーサーは、作戦を聞き、口を手で覆った。


ユリアがいない。ユリアがナニクンに取られた。

ユリアが。ユリアが。


冷静にならなければならないと、頭の中のどこかで諭してくる奴がいる。なのに、それが出来ないくらい動揺した。

動揺して、そしてそれを流石に隠せなくて、アーサーのその様子を見、ミキルは興味深く思った。

王太子として動揺した姿を見せるのは、失格なのだろう。それでもミキルは、そんなアーサーの姿を見て落胆などしなかった。


‘お前、俺のために命を使わない?‘


傲慢だと思った。

けれど、どんな傲慢な大人が同じように偉そうな口ぶりをした時とは異なり、自分の心が確かに動いたことを自覚していた。

ミキルは、だからこそアーサーに命を使うことにした。


「それで、どうする?アーサー。」


アーサーはその問いに、戸惑っていたような目が定まる。アーサーはその瞬間、王太子に戻った。


たった一人の命と、国民の命、祖国の未来。

天秤に乗せることすら、有り得ない。有り得ないのだ。アーサーは頭の中に浮かぶユリアを消していく。迷わないように、ブレないように。

アーサーの目の変化に、ミキルはそれでこそ自分の命を賭けるに値すると思った。人間であるアーサーなど求めていない。王になること、王も唯一無二の王であることを求めている。


「ユリアが時間を稼いでいる間に、ナニクンへ攻撃をしかける。」


「ユリア様は?」


「…………救えたら救え。無理なら、良い。」


「了解。」


アーサーの顔は、もう動揺などしていなかった。


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