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悪女語り。  作者: 林 空花
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クーガンの戦い⑧



「ウィル・クルワンが来る!!!!!!」


悪魔が来るかのように叫ばれた。

俺はそれを昨日のことのように覚えている。



ナニクン国から仕掛けた数年前の戦争。

その時に勝ち戦ではなかったが、ナニクン国は勝算はあったんだと思う。最初は上手く行ったが、ウィル・クルワンの登場と共に戦況は逆転した。

更にはナニクン国への侵攻が行われ、その勢いにナニクン国全体が恐怖に震えた。

俺が仕えていた伯爵家は武勇に優れていたし、更には国境の領地であった。戦地と化したリズボン家はそれは地獄の光景だった。叫び声や怒号、銃声、泣き声、血と肉の混じった腐臭、狂ったような笑い声。最悪な光景の中で、領地民が絶望したのは…リズボン伯爵家の家の方々の首が伯爵家の屋敷の上に吊るされた時だった。


負けたのだと悟った。




「隊長。」


背中に着いた紙を外せないか格闘していた潜伏兵の頭、リッツォは隊長と呼んできた兵の方を向く。

リッツォは振り返った後に、眉を寄せる。どう見ても拷問にあったボロボロの部下と、どう見ても貴族の女、その女を守るように一人の兵士の男がこちらを睨んでいる。

自分の身分がバレたと悟るが、同時に貴族の女が何故ここにいるのかと不思議になる。


聖堂で噂になってた女神か?確かに似てるな…


「……貴族の方が俺に何用で?」


クーガンのBarで潜伏していた、潜伏兵の隊長リッツォ。Barにて仲間が揃うのを待っていたが、残念ながら拷問にあった兵を見ると駄目だったようだ。

背中に貼り付いた紙のせいで守られてしまったが、本当は潜伏兵諸共死ぬ気でやった作戦だ。もう捕まってしまうことも、殺されることも構わないが、何か違う用があるのだと察する。


ユリアは口を開く。


「結界の外にいる、ナニクン国の兵とは連絡手段あるかしら?」


「交渉する気か?ねえよ。諦めな。」


ニヤニヤとどこか愉しそうに笑うリッツォに、ユリアは目の前の男が奴隷ではないと察する。いや、奴隷かもしれないが、これは奴隷だと自分を卑下していない男だ。先程のように奴隷達に声を上げたようにしたところで、この男には響かないだろう。


「嘘ね。」


「嘘じゃねえよ。俺らは死んでも良いように潜伏してたんだからな。連絡手段なんかねえし、何より結界が張られちまった今は本当逃げれねぇし。」


飄々と語るリッツォを見、ユリアは自分の身分を明かすことにする。


「私は、ユリア・カエサル。」


リッツォが笑顔を消す。その変化に、リッツォが自分のことまでも把握していることを察する。つまり情報収集を徹底的に男は行ってきた。

ユリアの価値がすぐに分かった。


「分かったわよね?……今すぐ、ナニクン国の結界の外にいる兵と連絡を取って。」


リッツォは、ユリアを探るように互いに見つめ合い、そして溜息をついた。


嘘ではないだろうな。王太子妃候補のユリアといえば、真っ白な女で有名だし。


面倒なことだと思った。マルコニア国には情の欠片もない。交渉など断ればいい。なのに何故か脳裏に過ぎったのは、脳裏に焼き付いて離れないあの光景だった。

リズボン家は、リッツォにとって大切かと言われれば違うと言えた。リズボン家はリッツォにとって、ただの主。恩があるわけでもないので、雇い主と使用人の関係だった。

ただ、ただ一人だけ、例外がいた。


'リッツォ'


伯爵家には何人も子供がいた。婚外子もいたけれど、伯爵家の長女として生まれたお嬢様はイクラニ国との和平の為に人質として選ばれた。

彼女がナニクン国へ戻ってきた後、彼女はとても貴族とは思えなかった。イクラニ国の文化知らない、貴族としてではなく事務員として働いていた女性。ナニクン国では貴族の女性が働くことは恥、下品とされた。まるで金がないと主張しているようで、奴隷以外で働くことはありえなかった。しかしながら人質に出したのは国と伯爵家。彼女は、ナニクン国や伯爵家に丁重に迎え入れられた。ただ、嫁ぎ先もなければ、家でも居場所はなかった。腫れ物を扱うように、誰も関わりたくなくて、彼女は屋敷の隅にいた。


'リッツォ、貴方はイクラニ国出身なんだって?お金あげるから、良かったら情報を集めてくれないかな。'


彼女はそれを仕方ないと、覚悟していたのか、受け入れていた。ただそんな彼女が望んだことがあった。情報。たった一人、イクラニ国へ残してきた友人の情報。


友人と言いつつ、その彼の情報を待ち望んでいた彼女は……まるで……


あの日、彼からの手紙を、お嬢様に渡しのは自分だった。

彼女は、宛名を確認した時目を見開いて、そしてすぐに開封した。逸る気持ちを抑えるように、彼女は深呼吸をして、手紙を読んだ。

そして、手紙を宝物を抱くように優しく胸に抱えた。


'ーーー恋してる、みたいっすね。'


思わず口から漏れた。

彼女は心の底から驚いたようにこちらを見て、そして手紙を見て、そして……顔を真っ赤に染めた。

それは、初めて恋を知ったーー少女のようで。



ただそこから一年後には彼女の首が無慈悲に掲げられ、無造作に切られてしまった髪がゆらゆらと風に揺れていたのを眺めながら、神はなんて酷なのかと思った。

お嬢様、お嬢様。あんたの首を斬れと言ったのは、あんたが恋い慕った相手の父親と知った時、あんたはどんな表情をしたんだ。あんたはどんな気持ちだったんだ。


あんたは、例えこんな地獄絵図を描いた男の息子でも、死ぬ瞬間でもーーそれでもウィリアムってやつを好きだったか?




なんで今お嬢様のこと…


リッツォは思い出したことを振り払うように頭を横に振り、そして再びユリアを見た。


「待ってろ。」








アーサーは馬を駆け、休憩することなくクーガンに到着した。

ミキルに出迎えられ、アーサーは結界の張られているクーガンを見る。


「戦況は。」


「ユン大司祭の力で、死者ゼロ。ただ反対側でナニクンの結界への攻撃が始まっている。」


「そうか。兵が全着したら、こちらもナニクンへ攻撃を始める。」


「あ、あと。ユリア様だっけ?あんたのこと、待てなかったみたいだ。」


「は?」


ミキルはアーサーを横目で見る。


「ナニクンに捕まった。」


アーサーは、遠くでナニクン国の結界への攻撃音を聞いた。

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