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悪女語り。  作者: 林 空花
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クーガンの戦い⑤ 



「怪我人は出た?」


「十数名ほど。しかし一人一人に張られている結界のお陰で死人はおらず、怪我も爆発の衝撃で結界にぶつかったことによるので打撲のみです。」


広場に着いたユリアは、広場にてずっと手伝いをしていたミランダの報告にほぅと息をつく。

もっと経済やら支援やら慈善活動の中で助けられない人など見たことも、数字の上で知っているのもある。ただ、戦いの中で知ることは、無力よりも何よりも罪深さを実感する。


ユン様がいる間の出来事で助かった。

が、今ユン様は眠りにつき、恐らく数日は力が戻らない。


ナニクン国に攻められることも結界があれば数日は保つだろうが、何故か敵の目的がクーガンだけではない気がしてならなかった。


戦いについて、勉強はしてこなかった。

歴史の戦史などしかない。

でも勉強してこなかったでは済まない。

貴族は貴族の責務を果たさなければならない。たとえ、女の身と言えど。性別で言い訳ができないのは、王妃様が証明してしまっている。


ユリアは混乱している平民たちに声をかける。先程の演説の効果か、ユリアが声をかけると誰もが黙ってユリアの話を聞いていた。

今一番恐ろしいのは、この結界の中にすら敵が潜伏していることである。その話が広まれば疑心暗鬼となり、せっかくまとまっている平民達の団結が無くなってしまう。

ユリアはすべてを隠すように笑みを作る。そんなこと慣れてしまっている。


「姉さん。大丈夫?」


広場の混乱が落ち着いてくると、ガリアーノはそっとユリアに声をかける。


「大丈夫よ。それよりガリアーノ、貴方も策を練りなさい。気を緩めずにね。」


「…分かった。」


ガリアーノは返事をし、そしてまた平民に声をかけていくユリアが見た。戦争など同じく初めての経験なのに、冷静に見せている。姉の社交界で培った豪胆な精神力は、恐らく異常値であろう。

もし、敵が今、クーガンの中心にいるのがユリアだと気づけば、狙ってくる。

ガリアーノは戦いが終わったとしたら、早くユリアの専属騎士を決めることを殿下に進言しようと決める。戦いの間は自分が守るが、恐らくユリアの価値は戦いの後に更に跳ね上がる。


そんなことをガリアーノが考えている時だった。


ドンッ!!!!!!!!バリバリッ!!


遠くではあるが大きな音がクーガンに響き渡った。


「きゃあ!」


「今度は何なんだ!」


ユリアは外を見、眉を寄せる。


…ナニクンかしら。思ったより早い到着ね。


とゆうことは、ここは本当に戦場になる。

クーガンが戦地になることを悟り、ユリアは苦々しく思った。恐らく結界への攻撃。

結界が崩れれば……

ユリアは目の前にいる市民たちを見る。この人数の中に恐らく死人が出てきてしまう。更に備蓄までやられてしまったら、国レベルの人数に支障が出る。

こんな時に頭に浮かぶのは、チョウだった。

あの男が望んだ状況が今だ。喜ぶのかしら。…でも、戦争が如何にその後も後を引くのか施設の人間やチョウを見れば、分かる。彼らは戦地から心が帰ることができなくなってしまった。

もし、アーサー様があんなチョウのような荒んだ瞳になってしまったら、私はどう思うのか。あの慈愛に満ちた瞳が好きだ。好きだからこそ、変化を私は愛せる?ーーー愚問ね。


「うわーーんっ!!!」


子供の泣き声がどこからか聞こえてくる。

ユリアは、守らなければならないのは間違いなく自分ではなく、目の前の市民たちだと痛感していく。

何故なら、アーサー様の瞳をもし変えてしまうとしたら、それは人の死だ。目の前の、そして国民の死だ。


怖いのも痛いのも嫌に決まってる。


しかし、現時点で王太子妃候補がここにいることをナニクン側には伝わっていないはずだ。これは交渉材料になる。


手が震える。

ユリアはそれを知らぬふりをして、背後にいるガリアーノを見る。


「捕虜の場所に行くわよ。」


「えっ。」


「まだマルコニアの騎士たちが来てないなら、時間を稼ぐわ。結界は数日持つと思うけど、他に壊れない保証はないし、何か別の予定外の出来事が起こる可能性がある。ーー'私'を使う。」


「はっ?姉さん何言って…ちょ!待ってよ!」


颯爽と歩き出すユリアに、ガリアーノは慌てて着いていった。





「レディー・カエサルっ?」


驚きの声を上げた兵に、ユリアは人差し指を立てて唇に当てる。その仕草に兵はドキリと心臓を跳ねつつ、コクコクと頷いた。

ガリアーノは不安気にずっとユリアの背中を見ている。ユリアはそんな視線を気にもとめず、先程の結界で潜伏兵の疑いをかけられ捕まった兵達がいる聖堂の奥深くにある牢の中に入っていく。この牢は、クーガンで罪を犯したものを一時的に入れ、首都に引き渡すまでの間の牢だ。

一時的の物とはいえ、ひどく腐臭がした。病原菌がありそうだと思いつつ、薄暗い牢の中へ深く入っていく。拷問のような音が聞こえた。人を殴る鈍い音、うめき声、叫び声、怒鳴り声。

さすがに眉をひそめつつ、ユリアは深呼吸をする。

手の震えはもう止まらない。ユリアは隠すように、手を後ろで組むしかなかった。ガリアーノはその手を見、ユリアが怯えていることを察する。

だからこそ余計不安になった。こんなに怯えているのに、何をするつもりなのか。


視界が少し明るくなる。ユリアとガリアーノは、視界に入った光景に目を背けたくなった。

兵達はユリア達に気づくなり、目を大きく開く。


「レディー!?何故ここに!」


拷問にあっていた潜伏兵が兵達の驚き様に、虚ろな目をユリアに向ける。そして微かに驚く。どう見ても貴族の出で立ちの女がいるからだ。

ユリアは駆け寄ってこようとする兵達を手で制止、ゆっくりと怯えを隠すように潜伏兵達に寄る。

そして傷だらけとなった潜伏兵達と視線を合わすように、床に膝をつく。それを止めようとガリアーノや兵が動こうとするが、ユリアがいい加減にしろと言わんばかりの睨みを効かせてくるので、足が止まる。ユリアは再び潜伏兵達に視線を合わす。


「ユリア・カエサルと申します。カエサル侯爵家の者で、王太子妃候補です。」


ユリア以外の全員が息を呑んだ。

ガリアーノと兵達は身分をバラしたことに関して、潜伏兵達は身分が貴いことに関して驚く。


「どなたかまだ動ける方いますか?」


ユリアは、唇が震えるのをもう気にしない。声さえ震わなければいい。虚勢の張り方は、ずっと学んできた。


'ユリア'


『ユリア。』


ああ、頭に響く声が今度は思い出のアーサー様に被ってきた。許すことができない。

こんな時もどこまでもアーサー様な自分をどこか滑稽に思えて、恐怖に満ちた中でも笑いが出そうになる。

大丈夫じゃないけれど、大丈夫。


「ーー私を、今回の作戦のトップの方に会わせてくれません?」


「姉さんッ!!!!!!!!!!」


本当に、もうアーサー様に会えなくなるかもしれない。それでも…役目を果たさなければ。アーサーの心を守るために、私は存在しているのだから。

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