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悪女語り。  作者: 林 空花
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終幕に向けて



ガエリオ・カエサルは、ナニクン国の王宮を颯爽と歩いていた。

ユリアとガリアーノの父であるガエリオは、マルコニア国の貴族でありながらナニクンの王宮で堂々と歩いていた。理由は簡単だ。ここではナニクン側の貴族だと認知されているからだ。

ユリアの予想は当たっていた。ガエリオは、今回の件でナニクン国とイクラニ国の使者となっていた。

ガエリオは、野心が見え隠れしている、どちらかといえば器の小さい人間として表は認識されているが、その実はユリアを王太子妃にしたことも含め交渉の手腕があるのだ。


ナニクンの兵は一ヶ月前からポーロ家領地に潜伏を始めていた。

四大貴族ポーロ家がマルコニア国を裏切ることを決定的に決めたのは、5年ほど前から。

ポーロ家は、ハルメニア王朝になり武勇の名を馳せてきた。クルワン家が政治、シュルワ家が経済、ガーランド家が学術文化などで手腕を主に発揮してきたが、ポーロ家は武勇ということもあり、戦争が起こらなければ彼らはただ有事の際の為に鍛えてきた。が、平和が長引けば長引くほど、彼らは鍛えるのみでいることに焦り、様々なことに手を出した。政治、外交、宗教、商売。すべてに手を出したが、残念ながらその時のポーロ家当主と部下の方々は才能がなかった。全てが失敗し、最悪なことに商売に関しては借金などを他国にまで行っていた。王家に発覚した時には、彼らは領地の一部を他国に売り払う寸前までいっていた。彼らの領地は、国土と言っても過言ではない。国土を他国に売るなど前代未聞だった。

ポーロ家以外の四大貴族、そして王家がその借金を返済し、事なきを得た。が、ポーロ家は首都から追われ、領地に帰ることになった。公爵から侯爵に地位は落ちたが、彼らは四大貴族という名から外されることはなかった。当時の当主は駄目であったが、次期当主である息子が有能であったからだ。借金などがあることも彼の報告であった。

彼を信じた王家と四大貴族は、ポーロ家を潰さずにいた。

そこから時が流れ、ナニクン国の侵攻があった際、ポーロ家はやっと名誉挽回ができると武勇の名をそのままに動き出そうとした。が、その戦争にて活躍したのはポーロ家ではなく、ウィル・クルワン率いるクルワン家であった。

武勇の名を持っていたポーロ家は、活躍はあったが、クルワン家ほどではなかった。

ポーロ家現在の当主アルホンス・ポーロは、借金をした時のような当主と同じで焦った。いつか首都に戻りたいという考えはこれで無くなった。どうにかしてポーロ家の栄光が欲しかった。味わったことない栄光の話を寝物語で聞いた。いつかポーロ家が国のために活躍できれば、再び栄光栄華は戻る、だから国に尽くせと言われてきた。

手に入れたくなった。国に尽かさなくても、栄光栄華を味わいたくて堪らなかった。欲がどうしようもないほど膨れ上がった時に、ガエリオ・カエサルが現れた。


ガエリオは、そしてガエリオを使わせたウィリアムは会わなくても、様々な情報の詳細を集めれば人の性格を分析できると考えていた。アルホンスの育てられた環境、現在の資産、資産や領地運営の仕方、そして領民の評判から、アルホンスがひどく焦っていることを知った。そして欲深いことも。


ナニクン国との国境にいるポーロ家を取り入ることが出来れば、ナニクン国にマルコニア国侵攻への良い交渉材料ができる。

アルホンス・ポーロはナニクン国とイクラニ国の侵攻が上手くいった場合、このマルコニア国の領土として首都を貰えるという内容に目が眩んだ。

それが5年前の出来事で、それから計画は年密に練られていった。



ガエリオが、ウィリアム・クルワンに出会ったのは、イクラニ国との貿易という商売の中で出会った。それはユリアが生まれ、そしてガリアーノが生まれたばかりの頃だった。

クルワン家というだけで気に食わないというのに、ウィリアムはひどくイクラニ国王家に気に入られていて、商売の為にはウィリアムに王家へ取り次いでもらわなければならなかった。けれど、ウィリアムに初めて会った時に、ガエリオは悟った。


ああ、病んでいると。


ウィリアムの笑顔の下に隠した病んだ精神を、ガエリオは気づいた。それは王家にユリアを交渉した時にミアリーを見た時と同じ感覚。ガエリオが交渉に上手いのは、人の本質を見抜く力が直感的に備わっていた。ウィリアムはひどくミアリーに似ていた。底のない憎悪が膨れて、破裂しそうになっていた。

けれど、ウィリアムがミアリーと違ったのは、その後に出会った人物。ミアリーは夫と出会い、憎悪は残っていても、それ以上病むことはなかった。が、ウィリアムを…誰も癒やすことはなかった。

ガエリオは次に驚いたのは、彼がイクラニ国の王家を蝕んでいたことだ。王家は言いなりとは言わないが、彼に何かあれば意見を求めていた。

ぞっとした。この人はイクラニ国を蝕む害虫となっていた。そして、ガエリオがウィリアムを見抜いたように、ウィリアムもまたガエリオを見抜いた。

ガエリオはいつしかウィリアムの手足になっていた。


別に、ウィリアムを信頼したわけではないし、彼もまたウィリアムを信頼などしていない。

ただ、分かっていることがある。…嫌いではなかった。


ガエリオは、ウィリアムが描く終幕まで聞いた。

恐らくこの終幕を聞いたのは、自分とムガラ、そして計画に重要なミアリー。

何と恐ろしくことを思いついたのかと聞いた当初は思ったが、その計画を聞き、ガエリオは改めて協力をすることにした。この計画が上手く行けば、自分にも利益があると思ったからだ。


やっとだな、ウィリアム殿。


「カエサル卿、王がお呼びです。」


「はい、参ります。」


貴方の望みの為、そして私の望みの為、ちゃんと最後まで付き合いますよ。




ガエリオの頭の中にユリアもガリアーノも、誰もいなかった。カエサル家らしく、ただ一人だけを思い浮かべていた。

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