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悪女語り。  作者: 林 空花
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人間らしく



「おー!!!!!!あの王子やべえな!!」


シュガーは壁の上に立ちながら、何キロも先の海戦の様子を見、興奮した。

アーサーの神業とも呼べる、人間の力を超えた弓の力。あれは一撃でも食らえば、絶命だろう。

しかしながらあんな力を隠していたとは隅に置けない。いや、弓矢の腕前など特に王として意味がなかったか。銃も存在するのだ。弓など意味ない。が、アーサーの弓は何故か大砲ほどではないが威力がえげつなかった。

これは戦況を変えてしまう。早いところアーサーが襲撃していることを気づかないとイクラニ国はマズイであろう。指揮官がいなくなると、指令式で動く軍は機能しなくなる。


「ユリアが惚れるのも分かるなー。」


惚れる要素しかない王子だ。

しかし、何ていい匂いがするのだろうか。


不幸と血と硝煙の香り、それがもっともっと複雑な香りが増えていって。シュガーは涎が出そうになる。久々に食事だと思った。

あの沈んだ船のところに行こう。たくさんの魂が転生する前に、いただいてしまおう。

何メートルもある壁の上からストンっと軽やかにシュガーは降りて、海の方に向かった。







‘ねえ、ウィリアム。あんた本当アホね。‘


心底呆れた声が聞こえた。

ああ、ずっと聞いていてぇな。もう20年近く聞いていない声は忘れてしまった。なのに、何故聞こえたと思うのだろうか。


‘うるせぇな、なんで俺が責められるんだよ。俺は女から安全な飯が貰えればいいんだよ。‘


‘その内、女の人からも毒でも盛られるわよ。‘


いつからか粗野な口調になった俺と、過去の泣き虫な僕をお前は決して比べたりしなかった。いつも呆れて、いつも馬鹿にして、でもいつも見捨てなかった。

傷を舐め合うこともしなかった俺らは、結局何の関係だったんだろうな。友人にもなれなかった。

ただ俺はお前を穢したくなくて、触れたくなくて。お前はそんな俺の気持ちを見透かしていたのだろう。また呆れたようにため息をついていた。


好きな人と伝えられたとき、俺はとても悲しく、傷ついた。本当はアホだなぁと笑いたかった。そして、一度もケガしそうで抱きしめられなかった身体を抱きしめたかった。


‘ウィリアム、ほら行こう。‘


この世で、俺が穢したくない唯一の人だった。



目を覚ます。

やはり夢だったのだ。

クーガンの移動途中で野宿の最中寝たようだ。雑魚寝しているナニクン出身の傭兵達を避けて、俺はテントから抜け出す。

星空を酒をあおりながら眺めるムガラの背中が見えた。物音で気づいたのか、ムガラがこちらを見る。


「旦那、起きたのか。」


「ああ。お前も寝ろ。俺もある程度は見張りできるから。」


「はは、チビの頃から襲撃やら寝込み襲われることになれちまったもんな、旦那は。」


ケラケラと笑いムガラはまた度数の強い酒をゴクリと飲み干す。


「旦那。」


「ん?」


「俺も復讐しまくってきた人生だから止めねえけどよ。もし、死にたくなったら言ってくれや。痛みなく殺してやるよ。」


ウィリアムはムガラを見る。ムガラはどこか空虚な瞳をし、遠くを見た。


「あんたにも恩がある。無惨には殺されてほしくねぇな。」


「……安心しろ。俺はもう痛覚とか感じはするが、どこか薄い膜の上の感覚になってる。」


ムガラは驚いたようにウィリアムを見る。ウィリアムは気にした素振りなく、ムガラの横に無造作に座った。


「ボコボコに殴られ続けて、気づいたらそうなってた。」


「あんたってやつは、本っ当可哀想だな。」


間髪入れずに同情され、ウィリアムは笑う。


「はは、随分懐かしい言葉じゃねぇか。」


「言われたことあんのか?」


感傷的な気分になっていた。ウィリアムはポロリとこぼす。


「ーーー好きな奴に昔言われた。」


「あんた、恋とかできたのか!!」


本気で驚いた様子のムガラ。


「よし、お前から殺す。」


「ぶはは!!いやー良いね。恋はするもんだぜ、旦那。」


背中をバシバシ強く叩かれる。

よし、本気で殺そうと決めたところで、ムガラは神妙な顔をする。


「……そうか、恋とか出来たのに旦那はコッチに来ちまったんだなぁ。」


「出来たから、きた。」


そう返すと、ムガラは全てを悟ったようで。ウィリアムから手を離し、空を見上げる。


「そうだな。俺も、始まりはそうだったなぁ。随分と人間らしい理由だった。」


「………。」


「やっぱり旦那は、残酷な死に様が良いか。」


「そうだな、人間らしく。」


「ぶはは!人間らしく!良いなそれ!」


人間らしく、どこまでも残酷に無惨に。

その結末がどこまでも救いがなくとも、人間らしく。人間らしく、狂ってしまった。


'狂ったんだね'


また懐かしい声がした。

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