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悪女語り。  作者: 林 空花
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ガリアーノは、目まぐるしく変わる状況に頭が混乱し、その後何故か肩の力が抜けた。緊張し、パニックを起こすであろう状態なのに、そんなことは全く自分の中で何故か起きなかった。

ガリアーノ達一般人にも首都が襲撃されていると情報が降りてきたのは、備蓄庫などが閉鎖されていき、民に避難勧告が流れた時だった。

ガリアーノ達寮生は寮から出ないよう言われた。

マクシミリアンは落ち着きなく、部屋の中を歩き回り、窓の外の様子を伺っている。その背中を見ながら、ガリアーノはこのクーガンからも離れた地にいる想い人のマリーが気になった。


マリーとの出会いは、どこぞの令嬢のパーティー。

友人たちと談笑していた時、壁の花となっていたマリーを見つけた。マリーは美しくも、可愛くも、お世辞にはなかった。誰にもダンスを誘われなくて、友人もいないのか一人でただ立っている、所謂壁の花状態になっていること社交界では大変な不名誉だ。年頃の娘ならば尚更恥ずかしいだろう。なのに、マリーは堂々と真っ直ぐに前を向いて立っていた。その姿勢が綺麗で、立ち姿だけで姉のユリアと被ってみえた。……目を惹かれた。

ユリアのような孤高の高潔さが、マリーが気になった最初の理由だった。


その後、マリーをダンスに誘えばまた上手くて、俺はそれがまた気に入った。

話すと豊富な知識と、頭の回転の速さが分かった。自分の知らない価値観や世界を彼女が教えてくれ、それが好奇心を刺激した。

俺のことを友人だとマリーは思っていたんだと思う。自分は異性に好かれる容姿ではないと思っていた。何より俺の姉は国一番の美女と呼ばれていたから。……そうなのかもしれない。マリーの容姿に惚れたわけじゃなく、俺は彼女の培ってきた経験や努力、思想に惚れた。だから、彼女がどこぞの二回りも上の人に政略結婚としてプロポーズされた時、家の資産も考えて断るか悩んでいると言われた時、慌てた。そして、彼女にプロポーズをした。

何の責任もまだ持てていないプロポーズだった。マリーは無理だと断ってきた。嬉しいが、無理だと。私は長女で、家は貧乏だ、異国の血がある。血統主義がある、カエサル家が私を貰うはずがない。何より妹が二人いて持参金が必要ない家と結婚したい、と。ーー正論だった。

正論だったからこそ、姉の顔が浮かんだ。

理不尽なことを言われても、謝ってきた姉。正論だったことを言われても、あの人は親に謝るのだろう。ーーー俺は、どっちも嫌だと思った。

理不尽なことも、正論も、俺の考えに外れたのであれば、俺は謝りたくも、我慢したくもないと思った。

マリーの子爵家に頭を下げに行った。5年だけ待ってほしいと、5年だけ待ってくれたら彼女を必ず迎えに行く。持参金も要らない。

マリーの母は、驚いていた。そして困ったように旦那を見た。

マリーの父は、冷静だった。


「カエサル侯爵様が何故血統主義なのか分かるかい?歴史だよ。カエサル家は愛人の子供がいることもなく、異国の血も、身分違いの血も入れない、正統な血だけで10代の系譜を持ってきた。それは、四大貴族でさえ成し得なかった偉業にして、カエサル家、彼らの血の正統性を表している。だからこそ君の姉上は、四大貴族でなくとも王太子妃候補となれた。血は、先祖の誇りそのもの。

侯爵の血統主義は差別に見えるかもしれないが、先祖が貫いてきた責務を全うしようとしているんだ。

ーー君はそれを恋如きで、崩しても良いと?」


マリーに何故こんなに惹かれるのか、分かった。

この父の血が流れたのだろうと思った。マリーの中にいる、この父の性格を実感すると同時に、自分も実父の血が、性格が中にあるのだと、悲しくも実感した。欲深き男の血。理不尽な男の血。


「父は、侯爵になるために兄弟全てを蹴落とした。俺は、マリーを手に入れる為に先祖を蹴落としたい。」


「…貴族として、最も罪深いぞ?先祖を汚すことは。」


「………姉以外で、初めて美しいと思った女性です。」


「…マリーは、父親として言うのは何だが、容姿は…」


「姉は容姿こそ美しいですが。…子爵様は姉を見たことはありますか。姉は、培ってきた努力の全てがあの美しさを作り上げています。僕は、マリーに'それ'を見ました。マリーの作り上げてきた、美しさが好きです。」


身分など関係なく、本気なのだと。

ただ身分や親有利の考えが無くなるわけじゃない。無くなるわけないから、その中でも伝えたかった。


彼女を綺麗だと思った。

姉以外で初めて、綺麗だと心から思った。


マリーは結婚が無くなった。

子爵が5年だけ待つと行ってくれた。どうしてもそれまでに力が欲しかった。通っている学園じゃ駄目だと思った。だからこそアカデミーに来たかった。最高峰の勉強をし、仲間を得たかった。今更学園を変えることは難しかった。父親を怒らせること以外で。そして、マリーを無防備に待たせることも無責任に待たせることもしたくなくて、パーティーにパートナーとして同伴してもらったのだ。クルワン家の正式な跡継ぎを決めるパーティーの付き添いだ、俺の本気が周囲に伝わればと思った。

全て上手く行った。あとは…アカデミーを早く卒業する。そして、家督を継ぐ。父親をどんな手段を用いてでも排除する。血統主義の父さえいなければ、大丈夫。マリーを迎え入れる準備をする。


そう思って、努力してきたつもりだが。


国が攻め入られている。

普通ならば、マリーの子爵家は郊外だ。戦地に見舞われることはないはず。

ここでマリーのところに行けば、彼女はそれこそ俺を振ってしまう。

そこでやっと頭に浮かんだのは、ユリアだった。


ああ。

父さんだけじゃない。俺は姉さんとも血が繋がっている。


そんなこともやっと実感した。

きっとこんな状況なのに彼女の頭の中にも、自分は一切いない。彼女の中にはアーサー殿下しかいないのだろう。

俺らは、狂っている。

欲しくて欲しくて堪らないもののしか大切にすることができない。そんなこと、実際は難しい。


アーサー殿下もマリーも違う。

あの人達は理性で考える。

大切にしたくて堪らないものよりも、大切にしなきゃいけないものを考えて、そっちを優先する。大切なものを捨てて動いてしまう。殿下なら国の為、マリーは家や妹達の為。


姉さんやっと貴女の気持ちが少し分かるよ。


だからこそ、その人達を大切にしたいんだ。守りたいんだよな。




ガリアーノは、騎士になった時に貰った刀を帯剣する。そして少し長くなった後ろ髪を一つに括り、マリーがアカデミーに行く際にプレゼントしてくれた髪飾りで纏める。

マクシミリアンはそんなガリアーノに気づく。


「え、何してんの?」


「姉さんのところ行く。」


「はっ?」


「きっと、守ってほしいと思うから。」


国の為に姉さんを放置してしまう、あの人は。


「えっ?誰が?って、ガリアーノ!!!」


マクシミリアンは部屋から出ていくガリアーノに手を伸ばすが捕まらず、手は空を切る。

ぽかーんと口を開けて暫く固まっていたマクシミリアンは、「…………え、あいつ本当言葉足らなくない?」と信じられないと呟いていた。

ちなみにこのマクシミリアン、後に宰相とまでなるのだが、本編とは関係ないのでここでは書かれない。

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