戻れない
彼女のために復讐したいだとかそんなこと更々思っていない。彼女のためとか、そんなじゃない。
俺だ。俺がしたいんだよ。俺がこの国を滅ぼしたくて、俺が親を殺したいんだよ。
全部、俺のため。
俺の自己満足。
「なぁなぁ、兄貴。」
ムガラは王宮の壁に部下たちと寄りかかっていた。
攻め入られている事実に街人達も気づき、大パニックが起こっている。誰もムガラ達に気づかない。
ウィリアムは幼い頃に覚えていた王宮内の見取り図や、首都の地図など様々なものをイクラニ国に提供した。裏切らないと思っていた子供に、マルコニア国は派手なしっぺ返しを食らっている。
「んー?」
煙草を吸い、空をぼーっと眺めているムガラに、部下は声をかける。
「今更なんすけど、なんでウィリアムの旦那のやりたいことにうちの国は従ってるんですか?」
「そりゃメリットだらけだからだよ。この国には、俺らが欲しいもんがたくさんだからな。」
「いや、そうなんすけど。そうじゃなくて、なんで今みたいな単独行動とかも許してるんすか?」
「あ?上層部は許してねぇよ。てか、旦那はそもそも上層部に話してねぇし。今回の単独行動。」
「「えええっ!?」」
聞き耳を立てていた部下たちも目をひん剥き、驚く。ムガラは全部今更だなー本当こいつら戦闘以外の頭が回んねぇな。と冷静に思った。
「そりゃそうだろ。反対されるのは目に見えてるし。」
「えっ、じゃ、ええっ、俺ら、え、何してんすか。」
ムガラは、んーと唸り声を上げる。
今から計画を話すにはこいつら本当馬鹿だからなぁ、まだ秘密にしとくか。でも少しは話を伝えとかないと、我儘なこいつらは癇癪を起こすか。
そんなことを考え、ムガラは言う。
「俺らは、待ってんの。」
「え、何を。」
「ーーー味方。」
その言葉に部下たちは言葉を失う。
何故なら彼らにとっての味方は、イクラニ国でもなければ、勿論マルコニア国でもない。
彼らは、この戦の時代に傭兵として生きてきた。戦がある国に点々と雇われてきた。今回はイクラニ国であった。そんな彼らの出身地は、
「ムガラ。」
ウィリアムの声にムガラは顔を上げる。
壁の上にウィリアムがいた。身軽に壁から飛び降りると、ムガラ達を見る。
「とりあえず会いたい人には会えた。行くぞ。」
ムガラは、煙草を靴の底に当て、火を消す。そして立ち上がる。部下たちはまだ戸惑いが消えていないが、ウィリアムとムガラが歩き出すので、追いかける。
「次はどこに行くんすか!」
部下の一人がそう訊ねた時、ドーン!と大砲が城壁に当たった大きな音がした。ガラガラと壁が崩れ落ちる音と無数の叫び声が聞こえる。
「クーガン。」
それでも、喧騒の中でも、ウィリアムの声はやけに聞こえた。
「クーガンに行く。」
ムガラは笑顔を部下達に向ける。
「クーガンに味方が来る。」
部下たちの顔が嬉々になる。
もう何年も帰っていない祖国。帰る訳では無いが、祖国の人間が味方になるとは思ってもいなかった。
「久々にナニクン人に会えるんすね!!!」
そう、彼らはナニクン人。
ウィリアムは、歪んだ笑みを浮かべた。それをムガラだけが見えて、苦笑する。
ウィリアムはただただ歪んでいて、そして楽しんでいる。ーー国を滅ぼすが為に、ナニクンとイクラニ、二国を彼は動かした。どうしようもない。どうしようもないのだ。もうここまで闇に沈んで、狂ってしまった男は、もう戻れない。




